第6話 運命3その者

 その男は直ぐに息絶えてしまった。

 外に出て魔力探知を開始すると強烈な光の因子が高速で離れていく。その通過点に…いた!

 私は直ぐにその場に行く。今にも消えそうな波動に焦りを感じながら。

 馬車に引かれたのか手足は潰れ、それでも諦めなかったのだろう。

 這っていった血と身体の跡が痛々しく続いている。先ずは治癒魔法を掛けながら話しかける。あの男は助けられなかったが二度は無い。


「少年、まだ息はあるな」

「…妹が!…助けないと…」


 光の波動はまだ感じる。少年を抱えながら (治癒魔法を掛けながら)追いかけた。馬車ごときに遅れをとらん。

 すぐに馬車が見えた。前方に初歩の魔法ファイアボールを打ち込む


ボゴォーーン!!


 巨大な火柱が上がった。まだ強すぎたらしい。手加減とは難しいな。馬は恐慌状態なのか急停止、ガタガタ震えて動けなくなったらしい。うむ、作戦通りだ。

 馬車の中から騎士どもが慌てて飛び出した。


「何事だ!」

「敵襲!敵襲!!」

「どこだ!」


 うるさいな。殺してもいいが私が手を出したとあっては戦争の火種になるな。もはや手遅れな気もするが…

 3人の雑魚を一撃ずつ殴り飛ばす。隊長だろうか、抜刀しているが足が震えていた。


「…何者だ!エルフ…違う、吸血鬼か!」


 うーむ、どちらも半分正解なんだが説明してやる義理もないので適当に痛め付ける。


「何を召喚するつもりか知らんが民を犠牲にとは感心せんな。貴様らいつから邪教徒に鞍替えしたんだ?」


 既に肉だるまになっている隊長格にそういうと、震えながらもまだ心は折れていないらしい。


「き、貴様ら魔族を滅ぼせるなら安い犠牲だ!」


 ほう、言ってくれるな。では後で儀式の場所も叩き潰すとしよう。とりあえず騎士全員に身体が腐っていく幻惑をかけてその場をあとにする。



 翌朝、兄妹と一緒に父親の墓を作った。娘の方は泣きじゃくり少年の方も懸命に我慢してるのが嫌というほどわかる。流石に辛いな。


「どうだ二人とも、私のところにこないか?」

「…なんで俺たちを助けてくれたんだ?」

「…頼まれたからな」

「…そっか」


 少年は目をつむってしばらくしたあと

「妹と一緒にお願いします」

 そう言ってきた。

「ああ、なれないだろうが今日からは『家族』だな、よろしく頼むぞ」

「使用人とかじゃないの?」

「それ頼まれてするのとは違うんじゃないか?」

「…銀髪にいちゃんがそれでいいなら」


 そう言う兄にしがみついてる妹に、私はしゃがんで目線を合わせ


「お嬢さんもそれでいいかい?」


 娘は泣きはらした目を私にまっすぐ向けて


「…にいちゃんと一緒がいい」


 と少年の裾をギュッと握りしめた。


…私は彼らに遠い日の自分の姿を重ねたのかもしれない。




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