ジャパリハヤブサ宅配便
おが
ハヤブサとフクロミツスイ
「すごーい。お花がいっぱい。キレイだね」
まぶしい太陽の光を浴びて一面に広がる花畑。
かばんちゃんとサーバルは旅の途中で花を摘むフレンズに出会った。
「私はフクロミツスイ。とってもステキな香りでしょ」
フクロミツスイは花の蜜を専食とする固有種のフレンズさん。
「ここにしか咲かない花なの」
差し出された一輪の花にかばんちゃんとサーバルは大きく深呼吸。
「やさしい香りがするね」
フクロミツスイは嬉しそうにうなづく。
すると突然、花びらを巻き上げる小さな竜巻のような風が。
ハヤブサがそこにいた。
「もー、びっくりさせないでよ」
「ごめんごめん、オレはっやーいからさ」
ハヤブサは鳥の中でも速く飛ぶことの出来るフレンズ。
「ちょっとここで休憩させてもらうぜ」
そう言うか言わないかのうちに羽をたたみ、すぐ夢の中へ。
「ねるのもはやいよっ」
スヤスヤと寝息を立てているハヤブサを横目にフクロミツスイは空を見上げ、ため息をひとつ。
「私も飛べたらな」
「だいじょーぶ。わたしもそらはとべないし」
「ぼくも、です」
フクロミツスイは笑顔で「ありがとう」と言うと、静かに話し始めた。
「私ね、ちゃんと気持ち伝えられなかったことがあってね・・・」
聞けば、道に迷い慣れないちほーで倒れかかった事があり、もうダメだと思った時においしい飲み物で生き返らせてくれて、なわばり近くまで運んでくれたフレンズさんがいたとか。
「あの時はそれどころじゃなくて。名前も聞けなかったの」
「そっか。やさしいフレンズなんだ」
「いつかちゃんと気持ち伝えられるといいですね」
フクロミツスイは摘んだ花で作った花束を空にかざして、
「もう私のことなんて忘れてしまっているかしら」
その言葉はとても寂しそうに聞こえた。
また小さな竜巻が三人を襲う。
「もー、きょうはかぜがいじわるだよ!」
気がつくと、フクロミツスイが手にしていたはずの花束がどこかに消えていた。
それと、さっきまで眠っていたハヤブサの姿も。
「・・・まいったぜ」
花束を抱えたハヤブサは自分のせっかちさを後悔していた。
フクロミツスイの話をこっそり聞いて、いても経ってもいられなかったのだ。自慢のスピードで飛び出したものの、一体どこの誰なのか分からない。
とりあえずいろんなフレンズにフクロミツスイを知ってるかと聞いて回った。
そして、とにかく飛んだ。
飛んで聞いて、また飛んだ。
飛びまくった。
それでも見つかることはなかった。
さすがに体力も限界になり、スコールにもうたれて木の陰で途方に暮れていたそのとき。
背後に近づく黒い影。
ハヤブサはセルリアンかと驚いて逃げようとするが力が出ない。
もうここまでかと思ったら。
「元気になるよ」と差し出されたヤシの実ジュース。
そこにいたのはマレーグマだった。
「ありがてえ」
安堵とともににハヤブサにみるみる力が戻っていく。
「ここらへん道に迷うフレンズさんが多いんだ。鳥は珍しいけど」
マレーグマはそう言うと鼻をひくひくさせた。
「おや、この香り?」
それはマレーグマが知っている香りだった。
「おまえ、もしかして・・・」
ハヤブサは確信した。
「・・・見つけたぜ」
一方、かばんちゃんとサーバルはフクロミツスイと花飾りを作ったり花の蜜を吸ったりしながら花畑を楽しんでいる。
遊び疲れて、いつしかお昼寝タイムに。
花のお布団で三人は心地よく眠った。
どれくらい経ったのか、またまた小さな竜巻で三人は目を覚ました。
花びらが空高く舞い上がる。
サーバルが寝ぼけ眼をこすりながらフクロミツスイの枕元にあるものを見つける。
「なにこれなにこれー。さっきからあったっけ?」
「・・・ヤシの実じゃないかな?」
かばんちゃんはヤシの実を振ってみる。
「サーバルちゃん、これを半分こに出来る?」
「かんたん、かんたん。うみゃー!」
見事に真っ二つ。それをナイスキャッチするかばんちゃん。息がピッタリ。
「おっと、こぼれないように」
近くに咲いていたタンポポの茎でストローを作ると、フクロミツスイにヤシの実を差し出す。
不思議そうにおそるおそる口にするフクロミツスイ。
「!」
フクロミツスイはこの味を知っていた。
自分を助けてくれた味。
絶対に忘れることのない味。
涙があふれる。
サーバルは隣でずっと「いいなー」を連発。
「ねえ、どんな味がするの?」
かばんちゃんはふわふわと足元に落ちてきた羽を拾い上げ、
「とってもやさしい味じゃないかな」
と空を見上げた。
フクロミツスイはヤシの実を見つめ、「ありがとう」とつぶやいた。
そして空を見上げ、もう一度「ありがとう」とつぶやいたのでした。
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