フレンズの 力合わせて 大作戦

中村未来

フレンズの 力合わせて 大作戦

 セルリアンを倒してから数日後の昼下がり、かばんとサーバルの二人は砂浜を散歩していた。他愛もない話をしながら歩いていると、サーバルが何かを見つけたようだ。


「何あれっ! く、黒いのが動いてる。もしかして、セルリアンのかけらとか!?」


 駆けていくサーバルを追っていくと、かばんの目にもその姿は映った。近づいてみると、それはセルリアンなどではなく一人のフレンズだった。つるりと黒い胴体、手足は砂浜に似た肌色、胸元は白く、そこには文字が書かれていた。


「えっと……『くじら』?」

「マッコウクジラなのですね」

「うわぁ!? な、なんだハカセさんたちですか」


 突然の声に振り返ったかばんの目の前には、アフリカオオコノハズクとワシミミズクのフレンズ、博士と助手が立っていた。


「ハカセたち、どうしてここに?」

「砂浜には、時々変わったものが打ち上げられるのです」

「我々はそれを探しに来ているのです、賢いので」

「そうなんだー!」

「と、ところでハカセさん、マッコウクジラというのは?」

「通常なら海に居るどうぶつなのです、何かの拍子に砂浜に打ち上げられてしまったようですね」

「ええっ!? それじゃあ、海に帰してあげないと」


 かばんとサーバルはマッコウクジラを持ち上げて海まで運ぼうとするもの、その体躯は微動だにしない。


「本来の姿ならとても巨大なのです。二人くらいの力では動かないのですよ」

「フレンズ化してるなら、自分の足で何とか……」

「それは無理だと思うのです。クジラは足が着いたところで歩くという行為が分からないと思うのです」

「……わたし、う……、海、帰りたいです」


 弱々しく言葉を発するマッコウクジラを前に四人は考え込むものの妙案は出てこない。そんなところに通りかかりのキタキツネとギンギツネの二人がやってくる。かばんはかくかくしかじかと現状を説明した。

 

「それは大変ですね。私たちに手伝えることがあれば」

「砂浜ってゆきやまみたいにそり遊びできそうだね、ギンギツネ」

「またあなたは呑気なことを……」

「そ、それですよ! キタキツネさん」


 大声を出したかばんに不思議そうな視線を向ける五人、その視線に応えるようにかばんは思いついたことを一つずつ順を追って話していく。一通り話終えると、今度はセルリアン退治で集まっていたフレンズたちに声をかけるため動き始めた。


 ――――


「そりというのはですね」

「こ、こういうイメージ?」


 かばんがそりがどういうものか伝えると、意図を汲み取ったアメリカビーバーが即座に模型を用意する。ゆきやまちほーの時とは違って、タライではなく単純な板に脚が付いただけの構造だ。


「こういうことでありますね!」


 模型を見たプレーリードックが、あっという間にイメージ通りのそりを作り上げる。すっかり阿吽あうんの呼吸が板についたコンビのおかげで、人一人が収まるサイズのそりが用意された。


 ――――


「かばん、できたぞ」

「できたよー」

「ありがとうございます! ジャガーさん、カワウソさん」

「じゃんぐるちほーで、かばんと一緒に作ったのが役に立ったな」


 ジャガー、コツメカワウソの二人が一本ずつ綱を引きずって持ってくる。持ってきた綱はそりのそばへといったん置く。


 ――――


「スナネコさん、クジラさんのすぐ横に浅い溝を掘ってもらえませんか」

「まかせてー、ふふふーん」


 マッコウクジラの横たわるすぐ横に海へと向かうように溝が掘られていく。ちょうどそりが収まる程度のサイズで、手早い作業によってすぐに出来上がった。


 ――――


 かばんの指示のもと、着々と準備は整っていく。そんな様子を見ながらタイリクオオカミは動き回るフレンズの表情を見ながら手元のメモに何か書き込んでいるし、トキは応援だと言ってペパプも巻き込んで応援歌を歌っている。進んでいく作業に直接手は出さないまでも、他のフレンズたちも周りでそわそわと様子を見守っている。

 スナネコの堀った溝に、プレイリードックの作ったそりを配置。それから、そりを引っ張れるようにジャガーとコツメカワウソの作った綱を二本結びつける。


「じゃあスナネコさん、クジラさんがそりに乗るよう少しずつ下の砂を崩してもらっていいですか」

「えーっ」

「お願いしますよー」


 スナネコが砂を崩していくと、砂の上をすべるようにしてマッコウクジラの身体がずれていき、かばんのイメージしていた通りにそりの上に収まった。


「あとは、そりを海まで引けば」

「ここは私の力が必要なようだな!」

「ヘラジカさん、ありがとうございます。ヒグマさんもハンターの仕事に戻らないといけないのに手伝ってくれて」

「今回は特別だ」

「わたしらも手伝おうか」

「ライオンさん、ツキノワグマさんも! 百人力ですよ」


 ヘラジカにライオン、ヒグマにニホンツキノワグマ、それぞれに綱を手にすると海に向かって力強くそりを引く。


「アライさんも手伝うのだ!」

「あ、わたしもー!」


 アライグマとサーバルの二人も駆けていき、そりを後ろから押していく。フレンズたちが固唾かたずをのんで見守る中、集まった力のおかげでそりは少しずつ海へ向かって動き、海へと到達するとばしゃりと音を立てた。


『や、やったー!!』

「やったね、かばんちゃん!」

「思ったように、上手くいってよかったよ」


 見守っていたフレンズたちの間から歓声が上がった。かばんとサーバルも両手でハイタッチをして、上手くいったことを喜び合う。そんな陸での様子を確認するかのように、徐々に動けるようになったマッコウクジラが海から顔を出す。


「あの、ありがとうございました」

「よかったねー! あ、じゃぱりまんあげるよ。これ食べると元気出るからー!」


 浮かびながら器用に頭をさげるマッコウクジラ、そこに向けてサーバルがじゃぱりまんを放る。マッコウクジラは笑みをこぼしながら受け取り、サーバルは応えるように手を振った。じゃぱりまんを手に沖の方へ泳いでいくのを見守り、やがて姿は豆粒のようになった。そのとき、改めてお礼をするかのように沖合から水が高く吹き上がり、フレンズたちが何あれ、すごいねー、と感想を口々に再び沸いた。


「かばん、上手くいきましたね」

「ハカセさんと、ジョシュさんが手伝ってくれたおかげですよ」

「賢い我々には当然なのです」

「お礼なら料理を用意するのです」

「そうなのです、我々は飛び切りのものを待っているのです」

「わかりました、また図書館に行きますね」


 こうして、砂浜での一大作戦は無事完了した。かばんが「皆さん、協力してくれてありがとうございました」と大声を上げるとそれが解散の合図となった。バラバラと散っていく中、かばんは一人静かに海へと目を向けた。


「かばんちゃん、行くよー」

「あ、うん。待ってサーバルちゃん」


 マッコウクジラとはいずれ再会することになるのだが、それはまた別のお話――

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フレンズの 力合わせて 大作戦 中村未来 @chicken_new39

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