Novel_Drawing
白月霞
number_01:ふたりの文筆家
その作家先生は僕のお気に入りの人でありました。
いつ、どこどこで知り合ったのだの、そんな説明はやめておきましょう。無駄に文章が長くなって、気分がダレてしまうのは、ぼかぁ嫌いなのです。それよりも淡々と筆のインクに彩りを持たせていったほうがずっと親切な気がします。
貴方だって、そのほうが良いに決まってます、はい。
× × ×
僕が先生に会いに行くと、彼はきまって原稿と向き合っている真っ最中だ。当然、作家ですから、それがお仕事なのです。
「こんにちは、先生」毎度この挨拶から始まり、向こうも「やあ、君か」と同じ返事をする。もっとも先生は原稿に目を向けたままであるが、これでも快い歓迎を示しているのだ。
「どうです、順調ですか?」
「はっはっは……ダメだ。今日もまた完成にはなりそうもないよ。キッチンにコーヒーがあるんだ。良かったら勝手に飲んでいてくれよ」
「いただきます」
先生の部屋はきれいな正四角形の形をしている。四辺の壁にはそれぞれ、生活に必要な役割が備わっていて、先生当人は部屋の中央で紙を散らして戦っている。
僕は自分が立っている入り口の位置から、壁伝いに逆時計周りにたどって、二辺目の壁に着く。壁のくぼみのカウンターにあったケトルのランプをつけた。それから三分もかからない内に、コーヒーの出来上がり。せっかくなのでカップを二つ分用意すると、さっそく湯気に誘われるように先生も壁際に流れ着いた。
そこから僕らの談話が始まるのです。
× × ×
「先生。僕ですね、話がいつも脱線してしまうのですよ。書いている内にイメージが立体的になるといますか……あれも書こう、それも書こうと目移りしてしまう。そうこうしていると、次第に”書かなきゃならん”って気に変わって、どんどん仕事が増えて行く。本来書こうとしていたものから遠ざかって、やがて頭の中の増えすぎた文字に埋もれるのです。やぁ、こまったぞ。大切なものを取り戻すためにゃあ、このゴミを全部片付けなきゃなーて、なって……」
「それで嫌になってくる」
「そうです、そうです。本当に自分でもメンドウな性だと思いますよ」
End 2017.04.14
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