第19話
久しぶりにデパートへ買い物へ。子供の衣類やら雑貨やらを買い、CDショップに立ち寄った。
「久々に何か買おうかな」
CDを選んでいると、店内に懐かしい音楽がかかった。
昔夫と観たアニメの音楽。車好きの夫がよく観ていて、私も観せられたやつだ。
「懐かしいな……」
ふと呟き当時を思い出す。
同じ会社で知り合って、あっという間に結婚した夫。嫌な思い出ばかりではない。
映画が好きでDVDなどよく一緒に観てたり、映画館に行ったりしたなぁ。
懐かしい音楽は私を不思議な気持ちにさせた。嫌いで別れた訳ではない。出て行った当初は納得いかなくて電話で文句を言ったりした。何で?と思ったし、本当に悔しくて悲しかった……。
それでも幼い我が子を育てなければならないし、いつしか割り切る事を選んだ。
ようやく落ち着いて、今の生活に慣れたのに、やり直したいなんて。バカも休み休みにして欲しい。
「懐かしい音楽かけるなよ」
勝手な文句を言い、何も買わずに店を後にした。
買い物を済ませ家に帰ると電話が鳴った。
カバンからスマホを取り出し、着信を見た。知らない番号……。誰だろう。
『もしもし……』
『大原さんですか? 葉野の家内です』
『あ……。 何かご用ですか?』
「度々すいません。 夫が出て行ったの、 ご存知ですか? 貴女と人生歩みたいと……」
『葉野君から電話はありました』
『私は離婚するつもりはありません。 この間も申しましたが、 お願いします。 私の家庭を壊さないで下さい』
私の家庭を壊さないで……。
似たような言葉を私も言った気がする。
夫の彼女に……。
「主人を返して。 私の家庭に入って来ないで……」
今の私は同じ事をしているのだろうか?
葉野君の家庭を壊すの?
『申し訳ありません……。 今は何も言えません』
電話を切った後考えた。私と同じだ。
今でこそ割り切る事ができたけれど、あの頃は納得いかなくて、何度も返してとすがった……。
人様の家庭を壊しているの?あの人と同じ事をしているの?
夕飯の支度をしながらも自問自答した。
『葉野君? 今日奥さんから電話あったよ』
『何言われた?』
『家庭を壊さないでって……』
『もう壊れてるよ』
『でも……。 やっぱりダメなのかな? 新しい人生歩けないのかな?』
『大丈夫だよ。 きちんと納得させるから……』
葉野君の言葉を信じたいけれど、やはり奥さんの気持ちも分かる。
まるであの頃の自分だったもの。
葉野君とは一緒になれない……。
ぼんやりと考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます