第16話

テーマパークへ到着し、入場券を買い中に入った。


すっかり家族な私達。四人仲良く手を繋いでいる。



「お父さん! お母さん! 早く行こうよ」


テンションの高い子供達に手を引っ張りよろめいてしまった。


「ちょっと待ってよ。 ゆっくり行こうよ」


そう諭しても無理だろう……。



「あっ! あれ乗ろうよ」


ゴーカートを指差した息子が、夫と共に列に並んだ。


「私達はメリーゴーランド行くよ」


そう告げ、娘とメリーゴーランドへ向かった。


「やっぱり何処も混んでるねぇ」


太陽の陽射しが照りつける中、娘と列に並び、ペットボトルのお茶を飲んだ。



散々遊びお昼も済ませた頃、子供だけでアトラクションに乗ると言うので私と夫はベンチに座った。



「たまにはこういうのもいいんじゃない? いっその事戻ろうよ」


「何をまた。 嫌だって言ったじゃない」


「家族は一緒がいいって。 子供達だって喜ぶし」


「自分勝手ね。 相変わらず。 出て行ったのはそっちじゃない」


「離れてみて、 やっぱり大切だって気が付いた。 チャンスくれないかな?」


「いやだ。 振り回さないでよ」



本当に何処まで自分勝手なのだろうか。

確かに子供を思えば元に戻る方がいいのかなと思うけど、私自身我慢できない。それにまた出て行ったら?それこそ最悪ではないか。



「ゆっくり考えてよ」


「答えは同じです」




「あっ! お父さんいた! ねぇっあれ乗ろうよ」


「まだ乗るの? 疲れたよ」



そう言いつつも、子供達と列に並ぶ。


我が子は可愛いのだろう。離れて寂しいのも分かる。

けれどこの人は家庭向きの人ではないなぁ。たまに会うのが丁度いいんだ。


ふと空を見上げ、そんな事を思ってしまった。





翌日。昨日の疲れを引きずる様に仕事へ向かう。


「休日出勤なんだよ。 私……。 子供はいいよなぁ」


お店に着き、着替えを済ませ開店の準備に取り掛かった。



「おはようございます。 今日も宜しくお願いします」


マスターと奥さんに挨拶を済ませ、テーブルを拭く。


「本当。 重厚感あるテーブルだよな」


アンティーク調のテーブルと椅子のセットに毎度感心。店内や家具もアンティークで、赴きあるカフェだが決して古臭い感じはしない。



「ケーキ陳列お願いします」


「分かりました」


毎朝ケーキとクッキーを作る奥さんは、忙しい。たまにケーキを焼かせて貰うのだが、やはり店の味には程遠い。




「あの……。 すみません」


カランカランと店のドアが開き、誰かが中を覗きこんだ。


「あっ。 まだ開店前で……」


対応の為、私はドアに駆け寄った。


見れば、キレイな黒髪の小柄な女性がそこに立っていて 「あの……。 秋野さんと言う方いらっしゃいますか?」


切れ長の目で私に尋ねた。


「秋野は私ですが……」


小声になってしまう程、鋭い眼差しだ。



「貴女が……。 お忙しい所すいません。 ちょっとだけ宜しいでしょうか?」



訳も分からず呼び出され、私は外に出た。

この人は誰なのか。私に何の用があると言うのだろう。



「貴女の元のご主人とお付き合いさせて頂いている者です」



店の裏側に入った途端、急に切り出してきた。



「はあ……。 その方が私に何か? と言うか何故この場所が?」


「細かい事は後で。 貴女よりを戻すんですか?」


いやいや、肝心な事を棚上げしないでよ。それにいきなり何を言うの?


私は少しムッとし 「失礼な方ですね。 人の仕事場まで押し掛けて来て」


強めの口調で言った。



「それは申し訳ありません。 けれどここしか分からず……。 それより、 戻るんですか?」


「戻りません。 て言うか関係ないですよね? そんな事」


「関係あります! 私はあの人と結婚したいと考えているのですが、 奥さんと戻りたいなんて言い出して……。 子供がいるからと」


「確かにそんな事言われましたが、 私にはさらさら……」


「……本当ですね? それを聞いて安心しました。 私はもう若くありません。 子供も生めません。 けれどあの人が必要なんです。 お願いします。 もう四人で会わないで下さい……」


そう言うと。その人は帰って行った。


この場所は夫に聞いたのだろう。電話で良かった筈では?わざわざ来るなんて、よっぽどの事かも知れない。


夫を奪った人と会いたくなどなかったのに……。気持ちがないとは言え、やはりいい気分ではない。



益々疲れを覚えたが、仕事に戻った。

帰ったら文句のメールをしよう。



私の平和な日々が崩れてしまう様な気さえした。

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