第14話

自室のタンスの小引き出しの中から小さな木箱を手に取った。

ベッドに座り木箱を開け、銀の指輪を取り出しそっとかざしてみる。


私の結婚指輪……。


どうしてだろう。これだけは捨てられずにいた。

夫が出て行き、実家に戻る際全てを捨てて来たのに。色んな思いと共に。


未練なんてないのに、何故だろう。これだけは捨てられずに今もある。


夫への気持ちなどとうにないのにな。


「捨ててしまおうか。 やっぱり……」


指輪を見つめ、独り言を言った。


結婚とは他人同士が一緒に暮らし、家庭を築くもの。

結婚に失敗した私。もう一度築く事ができるのだろうか。

他人同士一緒に暮らせるのだろうか。


銀の指輪が私を苦しめた。もう一度指輪をはめられる?


子供達の母として生きなきゃいけないのに、やっぱり葉野君を想う気持ちが私を揺らす。

だけど子供達は?父親はあの人唯一人だ。


「はーぁ。 何か色々複雑だな」


親子と言う関係は断ち切れないし、でも母としての人生ではない道も歩きたいと思ってしまったり。


揺れる気持ちはまとまらない。

いや、その前に葉野君の離婚問題もあるしな。


ベッドに寝転び思いを馳せる。


親子。片想い。母。


「この先どうなる? どうしたい?」


「分からないなぁ。 答えなんて出ないよ……」


キラキラ光る指輪を握りしめた。


「結婚かぁ」


あちらが再婚すれば、私としても嬉しい話だが。会った時に何気無く尋ねた答えは曖昧だった。


父親として、再婚に踏み切れないのかな?遠慮はいらないのに。


「葉野君はどうなんだろ。 本当にいいのかな……」


葉野君の奥さんは違うみたいだけど。




「お母さん。 もう寝ようよ」


「お風呂入ってからね」


子供の幸せが私の幸せ。それでいいんだって思う。本当に?本当に……。


指輪をタンスにしまい、お風呂に入る準備をした。


「やっぱり明日捨てよう。 指輪」


そう決めてお風呂に入った。

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