第9話
葉野君の奥さんからの電話。正直ちょっとだけ苦しくなったし、その位置が羨ましいとも思ってしまった。
葉野君の隣……。
「お母さん! 明日学校に巾着持って行くんだけど」
「ええ? 巾着? ないよ。 どうしよう」
「学校で使うの〜!」
長男の突然の巾着騒動。ゆっくり色々考えられない。
ミシンを取り出し、余りの布で巾着を作った。
縫い目は……。使えればいい。
「もっと早く言ってよね?」
「忘れてたのお母さんじゃん!」
私は母である。女として生きる前に母として生きている。
離婚した時そう決めた。
前の夫は他所で浮気をし、結果出て行った。
夫は女の私を求めたが、私が子供優先にしたのがいけなかったのか、若くはないけれど、魅力を感じた人を選んだ。
それから私は母として益々頑張ろうと思ったのだ。
男なんていらない……。
ただ、やっぱり別の生き方もしてみたい。
誰かに求められたい。素直な気持ちだ。
葉野君の離婚は、中々進まないようで。
時々くる電話で謝っていた。
『あいつ、 自分の浮気を隠してる。 弁護士にオレが浮気してるって言ったらしい』
『もしかして、 私? やだ! 浮気してないじゃん』
『証拠はないから大丈夫だよ。 でも隙は見せられないな……』
結局は離婚しないんじゃないの?
あんな事言っておいて。
葉野君は本当に私がいいのだろうか。
それさえも疑問だ。
女として誰かの隣で生きていきたい。もちろん母としてもだけど。
二十年振りのかたおもいの相手が、私をそんな気持ちにさせた。
『大原の事は本気だよ? だからもう少し待っていて欲しい』
受話器越しで囁く声は、私の枯れた心を潤した。
ドロドロは嫌なのに……。巻き込まれたくないに。
いつの間にかドツボにはまった?
はっきりしてよね。葉野君。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます