第7話

葉野君の思わぬ戯言から一週間後、久しぶりの同窓会が催された。



「元気だった〜? 懐かしいねぇ」


「今何してるの?」


元六年二組が久々にほぼ揃った。


いい大人がワイワイガヤガヤ騒ぎはしゃぐ姿に、思わずタイムスリップした様に感じる。



「月ちゃん‼︎ 元気だった?」


私は月ちゃんを見つけ声をかけた。


「ふゆちゃん! 元気だったよ〜」


「こないだのメール。 どう思う?」


コソコソっと葉野君の戯言についてメールした件を聞いてみた。


「あれ本当なの? だったらどうかと思うよ? 葉野君もう来た? ちょっと聞いてみようか?」


「やだ、 いいよ! せっかくの同窓会だもん」


「私会う機会ないし。 この際だから」



月ちゃんの思わぬ発言に慌ててしまう。



「やだやだ、 いいよ!」


「どうゆうつもりかちょっと聞いてみるだけだよ」




月ちゃんのお世話好きは相変わらずだ。

私はいつもお世話になっていたが、今度ばかりは……。


しかし結局月ちゃんはたまたま来た葉野君を呼び止めてしまった。



「葉野君。 ちょっと聞きたい事あるんだけど?」


同窓会会場の近くの階段で、月ちゃんは尋問を始めた。


「お! 月ちゃん。 何?」


「ふゆちゃんから聞いたんだけどさ。 本気なの?」


「情報早いねぇ。 うーん。 本気かな? 大原さんと本気で付き合いたいとおもってるよ。 まだ問題ありだけど」


「……。 よくまあ……。 問題あり過ぎだし、 そういうのは色々クリアしてから言うべきじゃない? いきなり過ぎるし」


「や……。 まあ。 うん……。 でもタイミングも必要かと」


「バットタイミングだね。 まさに」


「月ちゃんには敵わないなぁ。 でもさ、 大原さんが他の人と出会ったら? 今日だって大原さんが好きだった奴来るみたいだし?」


「はぁ? 小学生発言やめてよ。 あり得ない」


「それはさて置き、 大原さん。 返事まだなんだけど?」


柱の後ろにいた私に、葉野君が声をかけてきた。


「信じられないし、 返事できない」


スパっと言った。


「信用ないなぁ。 当たり前か……。 でも離婚の方向で話し合いしてるよ? 今はまだクリアしてないけど信じてよ」


「だから! 色々問題解決してから言いなさい!」


「月ちゃん怖いよ……」



久しぶりの同窓会は、こんな幕開けだった。


それでも懐かしい友達や先生と楽しい時間を過ごせて満足。お酒も美味しい。



まるであの頃に戻った様に時間が過ぎていった。



「今日の日直! 挨拶しなさい」


中野先生の号令のもと、日直称する幹事が締めの挨拶をする。



「えー。 では……。 起立! 気をつけ!」


幹事の声で皆が立ち上がる。


「先生さようなら。 皆さんさようなら。 礼!」


笑い声の中皆が礼をした。


「皆、 今日はありがとう! 楽しかったです。 それに懐かしかった。 元気で過ごして下さい」


先生の言葉にシーンとなる。

本当に本当に懐かしい先生の声。話し方。

何だか涙出そう……。


六年二組万歳だ。





「大原! 送るよ」


月ちゃんと帰り支度をしていた私に、葉野君が話しかけてきた。


「二次会行かないの?」


「大原帰るんだろ? オレも帰る」


「えーっ 。 盛り上げ役じゃん」


「真面目ですが。 オレ……」


「皆悲しむよ?」


「いいから帰ろう」



何だかペース掴まれてしまった私。


結局葉野君と二人、帰る事になった。




「二人になりたくなかった?」



駅までの帰り道、そんな事を聞いてきた。


「うん。 ちょっとね」


「冷たいなぁ」


「嘘付けません」



それでも。 ほんの少しだけ嬉しい私。


昔の私と代わりたい……。



「あのさ……。 マジ離婚するから。 まだ無理だけど予約だけできない?」


突然言われビックリした。


「何それ。 予約?」


「そう。 ゴタゴタしたくないから、 離婚成立するまで大人しくしてるよ。 でも予約だけしておきたい」


「困ったね……。 予約言われても」


「ダメ?」


不意に覗きこまれ、ドクンとした。


「私、 子供二人いるよ? 大変だよ?」


「問題無いよ。 全部受け止める」


「途中放棄しないでよ?」


「大丈夫」


「考える……」


「何だよ……」



今すぐには結論出せない。やっぱり一度失敗すると臆病になるし、まして既婚者なんて。


「離婚成立したら、 もう一度言って」


「了解」



簡単に離婚なんか成立しない。色んな決め事や慰謝料などもあるし。


これでいいのかな? 信じてもいいのかな……。


季節は春から夏になる。


暑い夏がやってくる。ドロドロしなきゃいけど。


最寄りの駅まで送ってもらい 「じゃあね」

と言った。



「家まで送るよ」


「大丈夫。 またね」




葉野君と別れ、コンビニでバニラアイスを購入。



「アイスみたいに溶けなきゃいいけど」

アイスを食べながら一人呟く。



人の気持ちなど分からない。コロコロ変わるかも知れないし。


今はまだ行ったり来たりの私の気持ち。

信じてもいいのかな?って思ってみたり。


アイスをパクッと食べ、生ぬるい夜気漂う道をそんな思いで歩いて帰った。

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