綾野祐介短・掌編集
綾野祐介
第1話 悩み事
どうしたものかと河原で佇んでいたときの
こと。
「何をそんなに悩んでいるのかな?」
気配もなく突然隣から声がしたので私は驚
いてしまった。
「特に何もしていませんが、私に何か用です
か?」
「いや、君が今にも飛び込みそうな顔をして
いるからちょっと気になってしまってね。」
確かに私は飛び込もうとしていた。何もか
も嫌になったからだ。自暴自棄になっている
のでその男にも簡単にその理由を話し始めて
しまった。
「飛び込もうと思っていますよ、今でもね。
私は先日アパートの隣室の火事に巻き込まれ
てしまって見ての通り大火傷を負ったのと両
目とも失明してしまったんです。もう生きて
いてもしょうがない。両手の指も火傷で指と
指が張り付いてしまっているし、頭のてっぺ
んは髪の毛が生えないと言われましたから。」
唇も火傷で形が変わってしまっていて酷く
話し難い。
「それは大変だったね。でも死ぬことはない
んじゃないかな。失明したことは見た目から
は判らないけど他は特に変な所は見受けられ
ないけどね。」
そんな筈はない。目では確認できないが両
手や頭は触れば自分でも判る。頭のてっぺん
はツルツルだ。
「火事のとき、頭を強く打ったりしなかった
かい?」
「ああ、確かに打ちましたけど、それが?」
「やっぱり。」
何がやっぱりなのか、さっぱり判らない。
「記憶が一部失われているようだね。君はど
こから見ても立派な河童だよ。川に飛び込ん
だりしても死なないし、目も直ぐに治るさ。」
そう、私は河童だった。
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