人のまま、神のまま。

乙姫式

大樹の神話 創世詩1:1

 全てを始めたのは〈運命うんめい〉だ。


 宇宙を始めたのもだった。


 最初、宇宙は一粒の〈たね〉にすぎなかった。

 それを立派な〈大樹たいじゅ〉へと育てるために、意志あるものが生み出された。

 宇宙という大樹を支える、二十四本の〈はしら〉だ。


 柱によってはぐくまれた宇宙は、やがて、いくつもの〈〉を成した。

人間にんげん〉という名の果実を成した。

 それは、柱によく似た姿と、よく似た心を持っていた。


 自分たちによく似た存在である人間を、柱は愛した。

 まるで、それが運命であったかのように。


 柱は人間に寄り添い、彼らのそばで〈生きる〉ことを選んだ。

 しかし、柱とは違い、人間は弱かった。

 もろく、はかなく、いくつも生まれ、いくつも死んだ。

 人間が死ぬたびに、柱はなげいた。

 何故と嘆いた。


 繰り返される悲嘆ひたんの果てに、柱の一本が叫んだ。


「何故、こんな悲しみをわねばならないのか。何故、宇宙を育てた私たちが、人間をより強く変えることが出来ないのか」


「私たちはおりの中にいる。私たちを生み出した〈何か〉によって自由を奪われ、嘆きを強制されている」


 その柱の一本は、みずからを生んだ〈運命〉を憎んだ。

 ともに〈運命〉を打ち倒し、解放されようと叫んだ。

 人間を救い、自分たちが幸福になるためには、それしかないのだと。


 そして、争いが起きた。


 宇宙という大樹をともに支え合っていた二十四本の柱は、解放の叫びに賛同するものと、しないもの、二つに分かれて争いを始めた。


 終わりの見えない争いの、果ての果て。

 争う理由すら見失いかねない、長い時間の先の先。

 ついに〈運命〉は訪れる。


 解放を叫んだ一本の柱が、全ての柱の見る前で、消滅したのだ。


 こうして、柱は二十三本となった。

 そうして、柱は別れ、互いを名で呼ぶことすらやめた。


 まるで、それがであったかのように……。

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