かわいいは正義(チート)でした!
孤子
序章
第1話 少女二人
こんにちは。私は高梨希(たかなしのぞみ)と申します。小鳥遊ではありません。高梨です。
高校2年生。趣味は漫画とゲームとアニメ。友達は少ないので学校にいる以外ではもっぱら家に閉じこもってネットサーフィンしています。
はい。お察しのとおり、一般的なヲタクでございます。オではなくヲを使うところが私のこだわりです。
そんな私は本日とても不運に見舞われております。
朝は登校中に土砂降りに遇い、数学の宿題は忘れ、挙句スマホを落として画面が逝ってしまわれた。南無~。
そんな本日アンラッキーガールの私にも少しうれしいことがありました。
それは私の唯一無二の親友で、一番の理解者である日代美景(ひしろみかげ)様からの遊びのお誘いです。
なぜ親友に様付けしているのかというと、美景様は私にはもったいないほどの優しいお方で、美少女で、勉強もスポーツもできる超人で、男子からしょっちゅう告白されるけれど悉くふっておられる超リア充で・・・あれ?なんかムカついてきたぞ?
まあそれはともかく、そんなスーパーなお人なので、私のような腐れヲタクが呼び捨てにすることなど許されるはずもない雲上人なわけで―――。
「のーちゃん、また変なこと考えてたでしょ。」
「いやいや美景様。私はそのようなことは一切考えておりませんよ。」
「やっぱり変なこと考えてるんじゃない。」
私の考えはお見通しということなのだろうか?そんな単純な思考をしているのだろうか?
「のーちゃんってほんとにわかりやすいよね。」
私は単純らしい。なんだか泣けてきた。
ところで私たち二人は今何をしているのかというと。一緒に遊んでいる。
ん?それはわかってる?
ああ。私たちは今海で遊んでいる。これでいいだろうか?
海で何で遊んでいるのかと問われれば、砂浜で城を建てている。泳げというかもしれないが、学校帰りに水着を持っているわけもないのでそれは仕方ない。
「はあ~。せっかくのーちゃんと泳ごうと思って水着用意してきたのに。なんで着てくれないの?」
こんなことを言っているけど私は無視して城を建てる。なかなかいい出来になってきたのではないだろうか?
第一「なんで持ってないの?」ではなく「なんで着てくれないの?」というところでおかしいのだが、そもそも私は泳げないのでノープロブレム。というか美景はそのことを知っていると思うのだけど。
「美景は私が泳げないの知ってるでしょ?」
「知ってるからこそだよ~」
・・・何この子怖い。
まさか海で溺れてる私を見て楽しむという変な性癖に目覚めちゃったの?
「もうすぐ学校でもプールの授業が始まるのにいつまでも泳げないでいるとかっこ悪いよ?ただでさえ去年は散々だったんだから。」
・・・おお女神よ。先ほどの我が穢れた思考をお許しください。まさか私のことを思って泳ぎの指導をしてくださるという何とも慈悲深いお考えだったとは。
しかし私は別に泳ぎたくはないのでお許しください。
「まあ泳げないのーちゃんもかわいいんだけど。」
うむ。なんか変な言葉が聞こえたけど気のせいかな?
まさか美景に限って百合思考が展開されているはずがない・・・よね?
だってそれにしてもふっつうのメガネヲタク女子である私だよ?めちゃくちゃかわいい妹キャラとか凛々しくて素敵なお姉さまキャラとかとは一線を画す普通っぷりが売り(売りではない)の高梨希ですよ?
あ、でもなんか少し顔が赤くなって微笑んでるような。まるで好きな人を相手にするような表情。こんな表情男にしてるとこ見たことないよ?
あれ?あれれ?
「ふふ、ふふふふ。」
「・・・え?」
「今のーちゃん私がのーちゃんに気があるって思ってたでしょ。」
まさか。
「もう、ほんとにのーちゃんってからかいがいがあるな~」
やられた。
まさかさっきの言葉も表情も演技で、ただ私をからかっていただけだとは。
美景は私が恥ずかしいような悔しいような表情を浮かべているとクスクス笑う。
美景は笑い終わると制服についた砂を払い落として立ち上がる。
「もうそろそろ帰りましょう。暗くなってきたし。」
結構時間が経っていたようで、日が海に沈みかけており、空は夕焼けで赤く染まっていた。その風景と美景の姿を見て一枚の美しい絵画を見ているように思えて、さっきまでの恥ずかしいような悔しいような気持ちもどこかに行ってしまった。怒る気さえしない。
かわいいは正義とはこういうことなのだろうか?本当にずるい。
私たちは浜辺から堤防台に上がって帰路につく。
夕陽を見ながら歩いて帰る。
美景は塀の上を歩いている。
「危ないよ。」
「大丈夫だよ~」
海辺に来た時はいつもこうしたやり取りをしている。
あ、これすごくいい雰囲気だな~。
そう思った私はさっきのお返しとばかりに渾身の一言をつぶやいてみる。
「私は美景のこと好きだよ。」
すると美景がすぐにこっちに向き直って私を見る。顔がすごく赤い。
「な、なななな」
「ふふ。冗談だよ~」
そういうと美景ははっとした顔になり、また顔を赤くする。これはからかいすぎたかな?
「べ、別にそれくらいわかってたわよ!」
美景がそう言って正面に向き直った瞬間。彼女は大きくバランスを崩した。
「あ・・・」
「美景!」
塀の向こうは海。それも相当高い場所から落ちるとあって、いくら水泳ができる美景でも危ない。
私は咄嗟に手を出して美景の手を掴む。
けれど私では美景の体重を引っ張り上げることはおろか、塀を掴んで持ちこたえることもできず。私は美景と一緒に海に落ちた。
まずい!私は泳げない。それに相当な高さから落ちたからか海にあたった瞬間に激しい痛みが身体を襲った。泳ぐどころじゃない。
美景も私を掴んだまま海面に上がろうとしているけど、潮の流れが速くてうまく泳げていない。
私は美景一人だけなら助かる見込みがあると思い、美景から手を振り払った。
ああ。これで私は死ぬのか。本当に今日は不運な日だったな。
美景にも悪かったな~。私が変なこと言ったばっかりに溺れさせちゃって。
でも美景一人なら何とか助かる。なんたって完璧超人だし。
なのに。なんで私の手を掴みに来るの?なんで私を離してくれないの?
それじゃあ美景も助からないじゃない。
私が死んでも両親がかなしんでくれるくらいかもしれないけど、美景は高校のスターなんだよ。将来良い人と一緒に幸せに暮らして、かわいい子供もできて、仕事も順調で。
そんな私とは明らかに相いれないような輝かしい人生を歩むはずなのに。なんで私を離してくれないの?
美景は私の手を強く握る。私はそれを振り払う。それでも美景は私の手を握る。
そろそろ意識も薄れてきた。
苦しい。
でも美景が一緒に死ぬのはもっと苦しい。
親友だから。
それでも美景は離してくれず、私は意識を失った。
『あなたたちをここで死なせるのは、少々もったいないですね。』
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