第23話 魔導士仕事をする

それからの出来事はあっという間だった。

イオルは、アリーシャ達との別れもそこそこにミレイアの乗って来た馬車に詰め込まれた。


「アリーシャ様、ハンナ様。イオル様が大変ご迷惑をおかけしました。」


宮廷魔導士っぽくぬいイオルとは違い宮廷魔導士らしさ全開のミレイアにアリーシャは緊張気味に答えた。


「い、いえ…こちらこそイオルには助けて貰いましたしそれ程迷惑だとも思ってませんから」


アリーシャの言葉にミレイアはピクッと反応した。


「イオル?今、イオル様を呼び捨てにされましたか?」


アリーシャがイオルを呼び捨てにした事に引っかかったのか質問するミレイア


「はい、呼び捨てにしました。私とイオルの仲ですから当然です」


さっきまで萎縮していたアリーシャだったが此処は引いてはならないと思ったのか強気にミレイアに言う


「イオル様とはどのようなご関係で?」


必死に冷静さを保とうとしているミレイアだったが内心物凄くイラついていた。


「あなたに、話すようなことではございません」


アリーシャもあえて挑発するような返事をする


そんな2人の会話を側で聞いていたハンナには、2人の間に弾ける火花が見えていた。


ミレイアは、アリーシャの目を鋭い目付きで見ていたがアリーシャもここで引いたらいけないと本能がそう言っていたのでミレイアの視線を正面から受け止めていた。


2人とも引き下がったら何か負けると感じていた。しばらく2人は睨み合っていたがそこに割って入る声があった。


「おーーい。まだなのかミレイア〜帰るならさっさと帰ろうぜ」


抵抗することは無理だと諦めたイオルはせめて一刻でも早く罰を終わらそうと思っていたのでいつまで経っても馬車に乗って来ないミレイアを急かしにきた


「分かりました。では、失礼します。」


アリーシャにひと言告げると馬車に乗っていくミレイア。


「じゃあなアリーシャ、ハンナ」


「じゃあね。またすぐ会いましょう」


「はい。ありがとうございました。」


アリーシャの別れの言葉に首を傾げるも馬車が出発したので深く考える事はなかった。




しばらく馬車に揺られていたのだがイオルはふと気がついた。


「なあ、ミレイア。今更なんだがこのまま馬車で移動してたら今日は野宿なのか?」


嫌な予感がしたのでミレイアに聞くと


「当然そうなります。今日中には王都に着けませんから」


「なあ、俺テレポート使って帰ってもいい?」


野宿なんてしてられ無いのでイオルは自分だけでも先に帰ろうと提案してみるが


「なかなか帰ってこないイオル様を迎えに来たのに自分だけ先に帰るつもりですか?」


感情の抜けた声でミレイアが言ってくる


「す、すいません。じゃあ、馬車ごと移動すればいいのか?」


何とか野宿は避けようと提案してみるとミレイアの返事は


「はい、お願いします。正直イオル様がいつになったらその提案をしてくれるかと思っていました。流石に2日連続で野宿は嫌でしたので」


いっそ清々しいの言い分だった。イオルは、ミレイアからの許可が出ると馬車から降りた。


「ふむ…」


イオルが遠くに目を向けると一瞬で景色が変わった。


その後しばらくは景色が変わり続けていたがようやく王都に着いた。

王都の門の前でミレイアが宮廷魔導士のみに渡される王国の紋章の形をしたペンダントを門番に見せると馬車はすぐに中に通された。


「やっぱ便利なんだなそれ」


イオルもペンダントを取り出し眺めながらミレイアに話しかける。


「はい、王国のあらゆる所に直ぐに入れますしすごく便利です。」


ミレイアは、大事そうにペンダントをしまいながら返事をした。




王城に着くとまず国王様にいろいろ報告をしたのだがアリーシャからの手紙で仕事だとちゃんと伝わっていたのか怒られなかったのでイオルは安堵していた。



しかし、ミレイアの怒りは収まっていなかったのか国王様の部屋から出るとそのまま執務室に連れてかれたイオル


「それでは、この書類を片付けてください。」


ミレイアはそう言うと机の上に2つの山のような紙を積んだ。


「お、おい…冗談だろ?」


恐る恐るミレイアに質問してみるがミレイアの眼は本気だった

無言でイオルを見続けるミレイアに抵抗する事を諦めたのか渋々仕事をし始めたイオル。


イオルが本気で逃げようと思えば逃げる事は出来るが、ミレイアに色んな負担や心配をかけたのかと考えるとこの罰は受けなければいけないと思ったのだ。


ミレイアも、イオルが逃げられることは知っていてあえて無茶苦茶な仕事をさせようとしてみたのだがイオルが仕事をし始めたのでミレイアは少し嬉しくなった。


イオルは、したくない事はしないし納得していない事もしない。そんなイオルが大した文句もなしにミレイアが言った仕事を始めたということは仕事をする事に納得したという事でありミレイアの怒りを正当なものだと認めたのだ。だから今のやり取りは2人の間にある信頼関係がうかがえた。


何故か仕事をはじめたイオルをミレイアが頬を緩ませながら見ていたので気になってイオルが聞いた


「なあ、なんでニヤニヤしながら俺の方を見てんだ?」


ニヤニヤされる心当たりがなかったので質問したのだがそれを聞いたミレイアは慌てながら必死に話し出した。


「な、何でもありません!それよりもちゃんと仕事をして下さいね。私も自分の仕事をしますから」


そう言うとミレイアは、自分の机に行き仕事に取り掛かりはじめた。




少しの間は真面目に仕事をこなしていたのだがイオルの集中は長くは続かなかったのか椅子に座ったままソワソワとしだした。



「落ち着いてください、イオル様。まだ半分も終わってませんよ」


視線を上げずミレイアが言ってくる。イオルは自分の机に積み上げられた書類をみるがまだ山1つ目の3分の1ほどしか減っていなかった。


それを見てイオルは絶望した。


「なあ、ミレイア許してくれよ〜。仕事以外なら何でもするから〜」


とにかく仕事がしたくなかったのでミレイアに許してもらおうと半分諦めながら提案してみるとミレイアは身体をピクッとさせた。


イオルは、ミレイアが珍しい反応したのでコレはイケるのではと思いもう一度言ってみる


「仕事以外ならどんな言うことでも聞くから頼むよ…な?」


イオルがそう言うとミレイアが口を開いた


「わかりました。それでは、仕事をする代わりに私のお願いを聞いてもらってもいいでしょうか?」


「おう、何でもいいぞ」


イオルの返事を聞くと、ミレイアが頬を赤く染めてもじもじしながら再び口を開いた


「そ、それでは…わ、私と一緒につ、次の休みの日に出掛けてくれませんか?」


ミレイアは、不安そうに上目遣いでイオルに聞いてきたので、イオルはそんなミレイアを見て思わず可愛いと思った。


「あ、ああ…良いぞ。それじゃあ次の休日に出かけようか」


それを聞いたミレイアは、口元を緩ませながら


「では、そういう事でお願いします。」


と言い部屋を出て行った。











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