第15話 尋問

馬車が、商会について3人とも降りるとイオルが


「それじゃあ、こいつを縄で縛ってテキトーな部屋に押し込んでおいてくれ。それと、アリーシャは、明日仕事があっても絶対にこの建物から出るなよ。一応、この建物には結界を張ってこの建物に普段からいる人しか入れないそうにしたから。それじゃあ、俺は疲れたから部屋行って寝るわ。あと、明日は仕事しないから。じゃあな。」


捲したてるようにそう言うとイオルは狙撃手を置いて自分が泊まっている部屋に歩いて行ってしまった。


その様子を唖然とした表情で見ていた人物が二人


「な、何よ!あいつ。帰ってきたと思ったらいきなり言いたい事言って寝るとかなんなのよ!」


怒り出すアリーシャを鎮めるためにハンナはイオルを庇う


「落ち着いてください、会長。イオルさんは、今日とても働いてくれたので休ませてあげましょう。それよりも今は捕らえた男をしっかり拘束し直さなければいけません。」


アリーシャは、納得したのか渋々といった表情だったがハンナの意見を聞き入れた。


「そうね。じゃあ、そいつは地下の部屋に縄で縛って閉じ込めて置いてくれる?」


「わかりました。出口には魔法で出られないようにしておきます。」


「うん、よろしくね。」


そう言ってハンナと別れるとアリーシャも自室に向かっていった。



アリーシャは部屋に入ると着替えもせずにベッドに飛び込み布団に包まって声を押し殺しながら震えていた。


「うっ…うぅ」


アリーシャは、3年前にも似たように命を狙われた事があったが、その時も他人がいる時は平静を保って何事もないような態度をとっていたが一人になった途端感情を抑えられず人知れず泣いていた。今回も、イオルやハンナの前では気丈に振る舞っていたが命を狙われたのである

怖くないわけがない。だからまた、一人になった瞬間に泣いてしまったのだ。


その夜、アリーシャは一晩中声を殺して泣いていた。


もしかしたらイオルは、アリーシャの感じている不安や恐怖をわかっていたからこそ次の日を強引に休みにしたのかもしれない。もちろん自分が休みたいのもあるだろうが…




次の日の昼頃3人は狙撃手を拘束している地下に集まっていた。


「それで、あんたに私を狙うそうに言ったのは誰?」


殺されかけた相手だから当然なのだろうがアリーシャの声には怒りがこれでもかというほど籠っていた。


「言うわけねぇだろ。さっさと殺せ」


狙撃手の男は、頑として黒幕を言おうとしない


(黒幕さえ分かれば元を断つことも出来るしこれから楽になるんだがな)


このやり取りは朝から続いており一向に話が進む気配がない。アリーシャとハンナは、もう面倒だから殺してしまおうかと思っていた時、イオルが狙撃手に近寄っていった。


「なあ、お前。何を勘違いしてるのか知らんが別にお前が話さなくても黒幕を知ることは出来るんだぞ?」


イオルは、なんて事ないようなことを言う口調でとんでも無いことを言い始めた。

それを聞いて驚いたのは狙撃手だけでなくアリーシャとハンナもだった。


「な、何⁉︎」


「ち、ちょっと!あんたそんな事出来るの?」


「イオルさん⁉︎どうやるんですか?」


イオルは、狙撃手はともかく何故アリーシャとハンナも驚いているのか分からなかった。


「なんで、お前たちまで驚いてるんだよ?」


「だ、だってあんたそんな事言ってなかったじゃない!どうするのよ!」


アリーシャが凄い形相で詰め寄ってきた。

アリーシャは朝からのこの無駄な時間が必要なかったと知りさっきまでのイライラが爆発したのだ。


「いや、そんな大した事じゃないしこれ使うとこの狙撃手100%無事じゃなくなるぞ」


無事じゃなくなる。イオルは当たり前のように言ったその言葉を聞いた狙撃手は顔を青くした。この男は、いざやるとなったら躊躇せずにやるということを察したのだ。


「それは別にいいけど、無事じゃなくなる方法ってなに?」


アリーシャは、別に狙撃手の命はどうでもいいと思っており情報を引き出す手段が気になっていた。ハンナも同じようでアリーシャの言葉に頷いていた。


「いや、普通に魔法で頭の中を弄って情報を取るだけだよ」


右手に魔力を集めながらあっけらかんと言うイオル。それに一番驚いたのはハンナだった。


「そ、そんなこと出来るんですか?相手の頭の中を読むなんてそんな魔法あるんですか?」


そんなことを出来る魔法の存在すら知らなかったのかとても驚いていた。

捕まっている男も声を張り上げてイオルに言った。


「あ、ある訳ねぇだろそんな魔法!そんなのあったら他の魔導士達ももっと使ってるはずだぜ!」


そんな2人の様子を見てイオルは思い出した。


「ああ、そうだった!この魔法使えるのって俺とあいつしか居ないんだった。」


何かまたおかしな事を言ったイオルに今度はアリーシャが聞く


「ねぇ、それってあんたが創った魔法だったりしないわよね?」


「いや、違うぞ。創ったのは…」


何故か言い淀むイオル。そんなイオルの態度に何か感じたアリーシャは、先ほどより声のトーンを落として聞いた。


「じゃあ、創ったのはさっきあんたが言ったあいつって人なのね?」


イオルは、答えたくなさそうだったがアリーシャは言うまで諦めないだろうとわかっていたので折れた


「そうだよ。創ったのはあいつだ」


「それで、そのあいつってどんな人なの?あんたとの関係と性別は?」


捲したててくるアリーシャに嫌そうな顔をしつつ誤魔化そうとしてみるイオル


「そんなことより、こいつのことを話そうぜ」


「今は、そんなのどうでもいいのよ!」


大声で否定するアリーシャ。さっきまで黒幕の正体を突き止めようとしていたのにそれをどうでもいいと言う姿に、イオルとハンナは何を言っても無駄だと悟った。


「それで?あんたとの関係は?」


近づいてきてイオルの顔を見上げながら聞いてきた。イオルは、一歩後ずさると言いたくなさそうだったが口を開いた。


「自称俺の師匠だよ…」


「自称って何よ?」


アリーシャは真っ先にツッコんだ。しかし、アリーシャだけでなくこの場にいたハンナとすっかり放置されている狙撃手も気になったことだった。


「いや、それは…。俺は別にあいつを師匠とは思ってないだけだし」


子どものような事を言うイオル


「でも、魔法を教えてもらったんでしょ」


「そ、そうだけど…」


イオルの言葉はどんどん勢いが落ちてきている。


「それで、男なの?女なの?」


さっさと答えろとアリーシャの目が言っている

その姿に圧倒されたイオルは


「は、はい。女です…」


思わず敬語で答えてしまった。そして、答えを聞いた瞬間アリーシャから黒いオーラが放たれたように感じた


「ふーーん、女なんだ。まあ、別にいいけど。」


全然、別に良さそうではない。とその場にいた他の者は思った。


「どうしたんだよ?何で機嫌悪くなってんだよ?」


思ったことをそのまま言ったイオルの発言を聞いた瞬間この場では2つの反応があった。


(ええっ⁉︎此処でその質問しますか普通⁉︎)


(こ、この男アホなのか⁉︎何で自ら地雷を踏みに行くんだよ⁉︎)


このやり取りを見ていたハンナと狙撃手の気持ちはほとんど同じであり驚愕していた。


そして、アリーシャはと言うと大声で叫び倒したい感情と恥ずかしさがせめぎ合って顔を赤く染めながら唸っていた。


「な、何でもないわよ!もう疲れたから私は部屋に戻るわ。続きは明日するわよ!」


バタン!


そう言うと扉を勢いよく閉めて出ていってしまった。



「何だったんだあいつ?」


イオルは、突然不機嫌になった理由がわからず首を傾げており


「それは無いです、イオルさん」


「お前、それはねぇぜ」


二人は、そんなイオルを見て飽きれた声を洩らした。

















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