第12話 方針決定!


翌朝、アリーシャはイオルが起きてくるのを今か今かと悶々とした気持ちで待っていたのだが、もう10時を過ぎているのに一向に起きてくる気配がないので悶々とした気持ちよりも待たされた怒りの方が強くなりイオルの部屋に向かっていった。


イオルの部屋の前には、ハンナがおり中に呼びかけていた。


「ハンナ、イオルは?」


「それが、先ほどから何回も声を掛けているのですが全く返事がありません。」


ハンナは、困った表情をしている。

それを聞くと迷わずアリーシャは部屋の扉を開け中に入った


「か、会長⁉︎」


「いいのよ、私の部屋なんだから。それにもうそろそろ時間もヤバいしね。」


そう言うと部屋の中央に寝ているイオルの元に近づいていくアリーシャとハンナ


「寝てるわね。」


「寝てますね。しかも、音声遮断の魔法を使ってますね」


ハンナの言葉を聞いた瞬間、アリーシャは顔から怒りの表情を消しスタスタと部屋の外に歩いていった。


「会長どうしたんですか?」


気になり呼びかけてみるが返事はなく廊下まで出ると、こちらに振り返り


「ハンナ少し下がってなさい」


感情の篭ってない声でそう言うとアリーシャは走りだしてベッドで寝ているイオルの脇腹目掛けてドロップキックをかました。


「ゲフゥ!」


ガタン…ゴンッ


イオルは呻き声を上げ、ドロップキックの勢いでベッドから転がり落ち床にどこかをぶつけたようだった。アリーシャは、イオルを蹴り落とした後しっかりベッドに着地していた。


「あ、くっ、うっ」


イオルは相当痛かったのか起き上がることかまできずに呻き声を上げながら蹴られた脇腹と床にぶつけた頭を抑えていた。

ハンナの位置からはイオルの姿は見えないがベッドの下で痛みにのたうちまわっているのは想像できた。


しばらくすると痛みが引いていたのかイオルが立ち上がりアリーシャを問い詰めはじめた


「おい、アリーシャ。なにすんだお前」


問い詰めているにも関わらず声に全く力の入っていないイオルに対してアリーシャは


「なにすんだじゃないわよ!あんたがいつ迄経っても起きてこないのがいけないんでしょ!」


大声でイオルを責め立てる


「いや、普通に起こせよ」


「何度も呼びかけましたが返事を貰えなかったので中に入らさせてもらいました。」


ハンナも少し怒っているのか言葉に棘があった


「そうよ、それにあんたが魔法なんか使ってるからいけないんでしょ。昨日は使ってなかったのに何で今日は使ってたのよ?」


飽きれたように問いかける


「昨日は邪魔されたから今日はゆっくり寝ようと思ってつい…」


「つい、じゃないわよ!あんたは私の護衛になったのよ!何呑気に寝ようとしてるのよ!」


イオルの言い訳にあまりにもムカついてしまいアリーシャの一端収まりかけた怒りが復活してしまった。


「わるい、わるい。それで何で蹴り飛ばしたんだ?」


無理矢理起こされてから一番気になっていた事である


「わ、私を待たせたくせに魔法まで使って悠々と寝ていたのがムカついたのよ」


「待たせたのは悪いとは思うが蹴り飛ばさなくても良かっただろ?」


「それは、私も思いました。まさかいきなりドロップキックをするとは…」


流石にドロップキックはやり過ぎだとハンナも感じておりイオルの意見に同意した


アリーシャは、イオルが昨夜のやり取りを全然気にした様子もなく気持ち良さそうに眠っていたからイライラしてやったとは言えず必死に誤魔化そうとしていた。


「な、何でもいいでしょ!それよりも早く支度をしなさい!あと30分もすれば出掛けるわよ!」


「何でもよくはないんだがなぁ…。」


イオルは納得がいかず不満そうだったがこれ以上言ってもアリーシャは何も言わなそうなので仕方なく話を切り替えた


「それで、どこにいくんだ?」


「ちょっと会談があるのよ。別にそんな大きいのじゃないし、大したことないヤツなんだけどね」


あっけらかんとどうでもいいと言うアリーシャにハンナが止める


「会長そんなこと言ってはマズいですよ。向こうの会長の耳に入ったら面倒なことになります。」


「面倒なやつが相手なのか?」


「いえ、普通にしていれば何もない方なのですが気に入らないと市民の方たちに良くない噂を流すと商人の間では有名です。」


「なるほど、それで面倒なやつか。それで、そいつはお前の命を狙う可能性はあるのか?」


「ないわね。だって狙う理由がないもの。今回の会談だって、お互いの商品には干渉しないようにしましょうっていう約束の取り付けの為に開かれんだもの」


アリーシャは、めんどくさいと思っているのがありありと伝わる表情をしており言葉も行きたくないと言っているようだった


「何で、そんな約束しようとするんだ?」


「私は、しなくていいと思うけど他のみんながしろって言うから仕方なく」


納得してないようなアリーシャに対しハンナは言い含めるように


「会長、こちらの商品と向こうの商品は現状ほとんど被っていません。なのでこの約束を結んでも結ばなくてもこちらにはそれほど関係はないですが、向こうに取ってはうちと商品が被ってしまうと大打撃になってしまうのでこの約束は絶対に必要なのです。」


まだ、アリーシャは不満そうな顔をしている


「でも、何でそんな親切にするのよ」


「向こうの商会は、この商会より昔からあります。なのでこの街の人たちは向こうが根も葉もない噂を流しても信じてしまう可能性が高いのです。なので、この話を断って余計な火種を生んでリスクを増やす必要はないのです」


ハンナが、いつもより少し厳しい口調でしっかりと説明したのでアリーシャも納得がいったのか


「わかったわ。確かに変な噂流されたら面倒だし納得したわ」


「ふーん。大変なんだなあ」


そんな説明を聞いていたのか聞いてなかったのかテキトーに頷いているイオル


「大変なんだなあ。じゃ、ないわよ!その会談をするのに外出するからあんたも支度しなさいって言ったのよ!」


「わかったよ。それで、俺はどんな格好をすればいい?昨日みたいに普通の格好か?それともローブ着るか?」


その言葉を聞いてアリーシャは気づいた。イオルも先ほど気づいたばかりなのだが、イオルは、昨日外出したときローブを着てなく杖も持っていなかったのでストーカーからしてみれば突然、アリーシャの周りに現れた得体の知れないヤツという風にうつっていたのだ


「そういえばそうね!確かに昨日のあんたの格好じゃ魔導士には見えなかったし敵は警戒してると思うわ。もし敵が昨日帰ってくる前から私の事を嗅ぎまわっていたら、あんたは街に帰ってきたら突然現れた謎の男って事しかわからないものね!」


アリーシャは興奮気味に話し始める


「それにそれに!ハンナは半年前から護衛をしてるから敵に情報がまわっているかも知れないけどあんたは、魔導士って伝わってないから敵を炙り出せるかもしれないわね!」


そんなアリーシャのテンションに少し引いていたイオルは遠慮ぎみに声を発した


「いや、炙りだせるかはわかないぞ。別に杖持ってなくても大丈夫だが向こうも多分、俺の情報を集めようとしてくると思うぞ」


「そう?向こうもあんたがこの街の人間じゃない事はわかってるだろうから油断していると思っている今日にいきなり奇襲かけてくる可能性もあるわよ。」


アリーシャの意見も納得できるものでありイオルはこれからどうするか考えて直す


「うーん、どうする?」


結構はやめに諦めたイオルはアリーシャとハンナに意見を求める


「イオルさんは、魔導士だとバレてはいないので今日は昨日と同じような格好をして護衛についてもらえればいいのかと…」


ハンナは自信なさげに意見を述べるとアリーシャはニヤッとしながらハンナを振り返る


「それで、行くわよ。そして向こうが仕掛けてきたらイオルの魔法で私を護ってハンナが撃退っていう感じにするわ」


キッパリと今日の方針を言いドヤ顔をしている。


「まあ、それでいいか…。その作戦じゃあ俺が魔導士だとバレちゃいけねぇから魔力探知は使えねぇな」


「そうね。今まで、ハンナは魔力探知なんて使わなかったからもし向こうに魔導士がいたらこっちに勘付かれたと気づかれて更にやっかいな事になりそうだしね」


「そうですね。バレたとしれたらこの商会に勤めている人たちも狙われるかもしれませんし…」


ハンナは不安そうにそう言った


「まあ、関係ない人たちを巻き込むような危険は犯すべきじゃねぇな。じゃあ、方針も決まった事だしすぐに支度するから出てってくれ」


イオルの切り替えのはやさに呆気に取られたアリーシャ達は、あれよあれよと部屋を追い出されてしまった。



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