目覚めと遭遇
「……っ!?」
飛び起きる。
そこは病室で、辺りは真っ暗だった。
身体は無事。ほとんど傷付いてない。
足も手も動く――いや、それは当たり前だ。
僕は、確か碧君に助けられた。
今心配すべきは僕なんかじゃない。
彼を、探さないと。
☆
「『サウンドステップ』」
そっとベッドから離れ、病室内を音を立てない様走る。
彼の病室を探すために。
確か、階層に関わらずナースステーションの近くは重傷患者とか聞いた事がある。
だったら、そこを中心に。
☆
「はあっ、はあっ……あった」
『505号室・碧優生様』
そこは、彼だけの個室の病室。
それが尚更心配になった。
そっと。
そっと、僕は扉を開く。
「――!?」
そこには――ベッドで寝息を立てる碧君と。
『もう一人』。
「だ、誰」
頬に手を掛ける謎の女性。
長い青髪の、背中から感じる強者の感覚。
『――! ――!』
瞬間。
鳴り響く警戒音。
まだ、会っただけなのに。
「――だーれ?」
「!?」
「『バインド』」
そこには、さっきまで碧君の頬を撫でていた女性が――背後にいた。
一瞬の事過ぎて考えが追いつかない。
そして、身体が動かなかった。
「ね、もう一度聞くけど。誰?」
その声は、聞いているだけで心臓を鷲掴みにされているようで。
「あ、あ」
「……あはは、もしかして知り合い? 凄い魔力だから警戒しちゃった。ごめんね」
未だ身体は動かない。
この人は――
「この子の敵じゃないよね?」
その口から出た言葉にすら、魔力が宿っていそうな程。
威圧感とオーラが彼女にはあった。
「……碧君は、僕の……友達です」
「――あら!」
そしてまた一瞬で金縛りが、威圧感もオーラも解かれる。
友達なんて嘘。でも、友達になりたいのは本当だった。
「やだー優生のお友達かぁ! ごめんごめん紹介遅れたね、私この子の母親!」
「え」
「いやぁ凄く心配だったんだけど、優生にも友達が……泣くねこれは映画化決定」
そう言いながら笑っている……優さんだっけ。
どこか碧君に似てる。
「……碧君は無事ですか?」
「うん! ほんとこの子身体丈夫なんだよね~私に似て! はっはっは」
「良かったです」
「うんうん、入学早々病院送りとか聞いたからびっくりしちゃってね。イギリスから飛んで来ちゃった! 今日には帰るんだけど」
「そうなん、ですか」
「後はパパが居るし安心かな。日本の魔法警察は優秀だから」
「は、はい」
「……ね。私の事、何か言ってなかった?」
彼に似て、よく話す人だと思った。
彼女は碧君の髪を撫でながら私に言う。
今度は、どこかか細い声で。
実はろくに話してないなんて言えない。
でも――『あの』一対三十一の、決闘、発端は知ってる。
心配になって、実は決闘場の外から聞いていた。
彼は、観客のその『声』に怒ったんだ。
「お、怒ってました」
「え……やっぱそう――」
「あっ違います。その、優さんの事を侮辱されて……碧君が」
「!」
「学園生徒、三十人に喧嘩を……」
「……あっごめ、やば、ごめん。そっか」
その時、彼女は顔を背ける。
髪を撫でる手が、時間が止まった様に動かなくなる。
やがて。
その声と落ちる水滴で――優さんが泣いているのだと分かった。
「優生……本当に優しい子。こんなお母さんでごめんね」
そのまま彼女は優生君に寄り添い、静かに抱き寄せる。
大事な、繊細なモノを扱う様に。
「……あはは、駄目だわ。年取ると涙脆くなっちゃって、ごめんね」
「い、いえ」
やがて彼女は私に向き直る。
目元は赤くなり、最初と同じ人物とは思えない程柔らかな表情だった。
「そろそろ行く~」
「え?」
「ばいばい。よろしくね、優生を」
瞬間。
彼女は――窓を開けて飛び立つ。
どこに隠し持っていたのか、絵本でしか見た事の無い様な『
「あ! 窓閉めといてー!!」
そして、そのまま落ちる事無く進んでいく。
空を。
もう訳が分からない。
「――オイ優生!! 死んでねーだろうな!!」
「――!!」
その後。
ドアを開けて入ってきたのは、煉さんだった。
「あっ。あー、死んでないな、ソイツ」
「……う、ん」
「――ッ。なら良い!」
またしても大声を上げて出て行く彼女。
……本当に碧君の周りは騒がしい。
でも、そんな彼の近くにいたい。
こんなこと――初めてだった。
「……ともだち」
言ったからには、勇気を出さなきゃ。
お母さんにも、そう言っちゃったから。
なによりそうなりたいから。
僕は、彼と友達になりたい。
そう――碧君に伝えないと。
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