目覚めと遭遇

「……っ!?」


飛び起きる。

そこは病室で、辺りは真っ暗だった。


身体は無事。ほとんど傷付いてない。

足も手も動く――いや、それは当たり前だ。


僕は、確か碧君に助けられた。

今心配すべきは僕なんかじゃない。


彼を、探さないと。



「『サウンドステップ』」


そっとベッドから離れ、病室内を音を立てない様走る。


彼の病室を探すために。

確か、階層に関わらずナースステーションの近くは重傷患者とか聞いた事がある。


だったら、そこを中心に。



「はあっ、はあっ……あった」


『505号室・碧優生様』


そこは、彼だけの個室の病室。

それが尚更心配になった。


そっと。

そっと、僕は扉を開く。


「――!?」


そこには――ベッドで寝息を立てる碧君と。

『もう一人』。


「だ、誰」


頬に手を掛ける謎の女性。

長い青髪の、背中から感じる強者の感覚。


『――! ――!』


瞬間。

鳴り響く警戒音。

まだ、会っただけなのに。


「――だーれ?」

「!?」


「『バインド』」


そこには、さっきまで碧君の頬を撫でていた女性が――背後にいた。


一瞬の事過ぎて考えが追いつかない。

そして、身体が動かなかった。


「ね、もう一度聞くけど。誰?」


その声は、聞いているだけで心臓を鷲掴みにされているようで。


「あ、あ」


「……あはは、もしかして知り合い? 凄い魔力だから警戒しちゃった。ごめんね」


未だ身体は動かない。

この人は――


「この子の敵じゃないよね?」


その口から出た言葉にすら、魔力が宿っていそうな程。

威圧感とオーラが彼女にはあった。


「……碧君は、僕の……友達です」

「――あら!」


そしてまた一瞬で金縛りが、威圧感もオーラも解かれる。

友達なんて嘘。でも、友達になりたいのは本当だった。


「やだー優生のお友達かぁ! ごめんごめん紹介遅れたね、私この子の母親!」


「え」

「いやぁ凄く心配だったんだけど、優生にも友達が……泣くねこれは映画化決定」


そう言いながら笑っている……優さんだっけ。

どこか碧君に似てる。


「……碧君は無事ですか?」

「うん! ほんとこの子身体丈夫なんだよね~私に似て! はっはっは」

「良かったです」


「うんうん、入学早々病院送りとか聞いたからびっくりしちゃってね。イギリスから飛んで来ちゃった! 今日には帰るんだけど」

「そうなん、ですか」


「後はパパが居るし安心かな。日本の魔法警察は優秀だから」

「は、はい」


「……ね。私の事、何か言ってなかった?」


彼に似て、よく話す人だと思った。

彼女は碧君の髪を撫でながら私に言う。

今度は、どこかか細い声で。


実はろくに話してないなんて言えない。


でも――『あの』一対三十一の、決闘、発端は知ってる。

心配になって、実は決闘場の外から聞いていた。

彼は、観客のその『声』に怒ったんだ。



「お、怒ってました」

「え……やっぱそう――」


「あっ違います。その、優さんの事を侮辱されて……碧君が」

「!」

「学園生徒、三十人に喧嘩を……」

「……あっごめ、やば、ごめん。そっか」



その時、彼女は顔を背ける。

髪を撫でる手が、時間が止まった様に動かなくなる。


やがて。

その声と落ちる水滴で――優さんが泣いているのだと分かった。



「優生……本当に優しい子。こんなお母さんでごめんね」



そのまま彼女は優生君に寄り添い、静かに抱き寄せる。

大事な、繊細なモノを扱う様に。


「……あはは、駄目だわ。年取ると涙脆くなっちゃって、ごめんね」

「い、いえ」


やがて彼女は私に向き直る。

目元は赤くなり、最初と同じ人物とは思えない程柔らかな表情だった。


「そろそろ行く~」

「え?」


「ばいばい。よろしくね、優生を」


瞬間。

彼女は――窓を開けて飛び立つ。


どこに隠し持っていたのか、絵本でしか見た事の無い様な『ほうき』に乗って。


「あ! 窓閉めといてー!!」


そして、そのまま落ちる事無く進んでいく。

空を。

もう訳が分からない。


「――オイ優生!! 死んでねーだろうな!!」


「――!!」


その後。

ドアを開けて入ってきたのは、煉さんだった。



「あっ。あー、死んでないな、ソイツ」

「……う、ん」


「――ッ。なら良い!」



またしても大声を上げて出て行く彼女。


……本当に碧君の周りは騒がしい。

でも、そんな彼の近くにいたい。

こんなこと――初めてだった。


「……ともだち」


言ったからには、勇気を出さなきゃ。

お母さんにも、そう言っちゃったから。

なによりそうなりたいから。


僕は、彼と友達になりたい。

そう――碧君に伝えないと。

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