六本目の『指』


「ほ、炎……! やっ!?」

「ハハハ! おらどけ――俺達に勝てる訳ねえだろうが!」


倒れる俺の身体。

向こうを見たら火使いが輝を振りほどき――水使いの元へ走っていた。


「輝はもうどうでも良い。おい、降参しろよ『ハズレ』君」

「おらっ聞いてんのか? 輝が見てる前で言えよ、『降参します』ってな! ハハハ!」



用心しているのか、二人が距離を取って俺の前に立つ。

……分かってる。

二人を倒す魔力も体力も残ってない。


パイロキネシスを発動出来るのは……気絶する覚悟で出来て一回、いやゼロかも。

もう――『詰み』だ。


――「あーあ、終わりだな」「やっぱあの転校生とは違う」「見てて辛いわ~」――


聞こえてくる観客の声。


ああそうさ。

もし今――ここにいるのが優生だったなら。

目の前の二人なんて一瞬で倒しちまうんだろう。


自分が憧れた『最強』なら。

こんな奴らなんて。

でも――俺は――


「っ」


なあ応えてくれ、手に宿る小さな火よ。

俺は今、何の為に戦ってる?



「……!」

「ごめんね、炎。ボクなんかの為に……」



立ち上がろうとした俺に、前から暖かな感触が身体を包み込む。

目を開ければ、俺を抱く輝が居た。



「――!? なんだコイツ」

「うぜぇ……気持ち悪いんだよお前ら――『ファイアーボール』!」


「うっ――! はぁ、はぁ。ね、炎……」



背中で火球を受けながら――彼女は俺に耳打ちする。

辛そうな声。

それでも何かを伝えるように。



「……今なら。きっと炎みたいになれると思うんだ」

「!」

「だから――」


「『ウォーターボール』」

「『ファイアーボール』! ハハ、サンドバッグじゃん」


「うっ、あ……お願い……炎」



攻撃を背中で受けながら輝は続ける。



「ボクね、アイツらは大っ嫌いだ。だから、アイツらじゃなくて――」



必死な声。

そして覚悟を決めた声。



「――炎のその『火』で、ボクの異能を目覚めさせて?」


「……ああ!」

「ありがとう……っ」



俺は彼女の身体を抱き締める。

優しく、壊れないように。

それでいて離さないように。



「なっ、何なんだよコイツら――」

「気持ち悪ぃ……もう終わらすぞ! 水よ――!?」



雑音は無視して。

俺は――手に最後の火を宿す。



「……いくぞ、良いか?」

「うん、来て――」



そして。



「『パイロキネシス』!」

「っ――あっ、ああああああああああ!」



燃え上がる火が、俺達を包んでいったのだった。







700:名前:名無しの落ちこぼれ

あの 決闘場、見てるやつ居る?


701:名前:名無しの落ちこぼれ

見てるよ


702:名前:名無しの落ちこぼれ

もち


703:名前:名無しの落ちこぼれ

なんか望んでた展開と違う


704:名前:名無しの落ちこぼれ

完全に劣勢なんだが


705:名前:名無しの落ちこぼれ

でも凄くね? あの炎って奴のアレ異能だろ?


706:名前:名無しの落ちこぼれ

一人目一瞬でヤッた時は興奮した


707:名前:名無しの落ちこぼれ

でも相手が悪すぎる 相手水使いだしDクラスだし


708:名前:名無しの落ちこぼれ

どうすんだよコレ


710:名前:名無しの落ちこぼれ

頑張ってくれよ……俺達の希望だぞ、転校生もこの発火能力の奴も


711:名前:名無しの落ちこぼれ

明らかに俺達の異能と違うもんな


712:名前:名無しの落ちこぼれ

何か腹立ってきた


713:名前:名無しの落ちこぼれ

まず二対三の癖に、あの水使い共なんであそこまでイキれんの?


714:名前:名無しの落ちこぼれ

おい、遂に回復魔法の子が盾になってんぞ


715:名前:名無しの落ちこぼれ

あーーーーーー!! 


716:名前:名無しの落ちこぼれ

何か様子おかしくないか?


717:名前:名無しの落ちこぼれ

おい馬鹿止めろ


718:名前:名無しの落ちこぼれ

何やってんだ


719:名前:名無しの落ちこぼれ

えっ 二人とも燃えてない?






「『パイロキネシス』!」

「っ――あっ、ああああああああああ!」



決闘場。

そこでは、異様な光景が広がっていた。

二人の異能持ちが、まるで心中でもするかの様に燃えている。


「ひッ……」

「何やってんだよコイツら……」


敵対していた二人の水使いと火使いは絶句。


――「おかしくなったの?」「敵にやられるなら俺達で的な?」「どんだけ負けず嫌いなんだよ」――


観客達も、その光景に戸惑っている。

……しかし。

その決闘場の雰囲気は、次の瞬間変貌する。




「――『シックスフィンガー』」




「……ッ!?」

「な」


――「え?」「……うそ」「何、あれ」――




炎の中の少女の声、同時に決闘場は静寂に包まれる。


その理由は。

あまりにも――その少女が美しかったからだ。




「……ありがとね、炎」




燃え盛る炎の中。

少女の背中から現れたのは――天使を想像させる、純白の大きな一つの片翼。

そしてその翼が羽ばたき、炎が消えて。

ゆっくりと傷付いた少年を包み込んでいく。


一連のその風景は神話の絵画の様で、決闘場に居る者は見惚れてしまっていた。

敵も、観客も魅了するその光景。


「『再生リバイバル』」

「っ……何だこれ!? 身体が軽い」


広がる美しい片翼は微かに光り、同時に炎の傷を無くしていく。

再生。まるで時が戻った様に。


「あは、僕の異能だよ――炎、後はお願いして良い?」

「――ああ!」


そして、施しを受けた彼は立ち上がり走る。

気力と体力双方とも、彼女の翼で回復したのだ。



「何だってんだよさっきから――!?」

「――『パイロキネシス』!」


「くッ、離せ――ぐあああああ!!」 

「お、おい! 『ウォーターボール』!」


「っ――おらぁ!」

「がッ……あ、あ……」



棒立ちの火使いの元へ走り、異能を発動した炎。

そして水使いの攻撃は――意識を失ったその火使いを盾にして防いでいた。


「クソ、お前ら、生意気なんだよ……!」

「……」


残り一人。

手に火を宿しながら、炎は水使いに詰め寄る。



「み、水よ――がッ!?」

「痛いか? 痛いよな――っ!」

「ぐうッ……や、やめ」

「らぁ!!」

「ぐぁッ――」



異能を発動させる事なく、炎はひたすら水使いを殴る。



「輝はずっとお前らに耐えてきたんだ。これぐらいで根を上げんなよ――おらっ!」

「ッみ、水よ――ぐッ、我に水の、ぐえッ、加護を――『ウォーターベール』!』



縋るような詠唱。

殴られながらも、水使いはそれを完了。

身体に施したそのベールは拳を防ぐが。



「はッ……調子に乗るな『無用の長物』共――」


「おい、覚悟は良いか?」

「は? お前はこのベールがある限り――!?」



水使いは気付く。

少年の手にある火の色が変わっている事に。


それは『赤』から『青』へ。

明らかに以前よりも上昇しているその温度。

そして――それに気付いた時にはもう遅かった。



「『パイロキネシス』」

「やめッ――!?」



掴み掛かる手は解けず。

炎から伝達した青い火は――その水のベールを『一瞬』で溶かす。


再発動なんてする隙は全くなく。



「ぐッ!? あッ、熱い、溶ける、死ぬ、死ぬ死ぬ死んじまう!!! ……ッ、コ、こうさ……」



暴れる水使いに全く動じず、燃やしていく少年。


やがて、その汚い声が消えるまで。

炎は――異能を発動し続けたのだった。

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