『ハッピーエンド』


――「……うわ! マジで来てんじゃん」「すげ~」

「よくあんな『六本指』の為に喧嘩ふっかけたよな~」――



入った瞬間、頭上から降りかかる観客の声。

Dクラスの教室で聞いた声だった。

そして。


「おっ、『ハズレ』と『六本指』様ご到着~!」

「さっさと終わらせようぜ」

「俺達に勝てると思ってんのかよコイツ」


目の前には例の三人。

……そうだ。もっと油断しろ。


「あ、あの~。今度は二対三ですか」

「ごめんなさい、頼みます」

「あはは……」


立会人の彼女には悪いが、連日で利用させて貰ってんな。


「え~、そちらも準備良いですか?」

「あ?」

「さっさとしろよ、あのハズレ共が良いなら良いわ」


「……そうですかぁ。それじゃ位置に付いて下さい。お二人はもう良いですね」

「はい。輝は?」

「あっすいません、大丈夫です」


オレ達と三人が向かい合う。

距離は大体二十メートル。そして仲間同士でも距離が三メートル程空いている。


……求められるは短期決着。長引けば勝利はどんどん遠のいてしまう。



「それでは――始め!」


「っ――!」



開幕ダッシュ。


「かっ風よ前へ――うわっ!?」

「な――そいつを近づけさせんな! 『ファイアーボール』!」

「『ウォーターボール』!」


風魔法を扱う一人に接近。

他二人は無視して――死ぬ気で突っ込む!


「はっ、離れ――」

「――っ、ぐっ……離すかよ!」


術途中で逃げようとしてくれたから助かった。火球と水球を身体に受けながらも、何とか風使いの服を掴む。


まずは一人。



「――『パイロキネシス』!!」


「!? ああああああああああああああ!!」



手の平に燃える火を、目の前の身体に伝達。

一気にそれは燃え上がり――彼は全身火だるまに。



「あっ、あつ……あ……」


「ひっ――おっおい!」

「な――『ファイアーボール』!」」


「ぐっ!!」



横からの火球で吹っ飛ぶ。

それでも一人はやった――あと二人。


「……『ホーリーヒール』」


「! ありがとう輝!」


そしてオレには仲間が居る。

これなら――


「ああクソッこんなクズ相手にやられやがって! 相手は火だろ――アレやれ!」

「ああ。水よ、我らに水の加護を――」


「っ!」

「させるかよ――『ファイアーボール』!」


「ぐっ!!」

「『ウォーターベール』」



詠唱をしようとした水使いに接近を試みるが――予測された火使いの火球に吹っ飛ばされ。

そしてその詠唱は完成。彼らを、薄い水のベールが包み込んだ。


……何だよこれ。

『パイロキネシス』……効くのかよ?



「火には水、授業で習わなかったかぁ!」

「まあGクラスだしな。上級魔術なんて絶対使えなそう」


「くっ」

「おっ! お前の方に来るぞ、『ファイアーボール』……あ、悪い外した」


水使いの元へ走り、一瞬立ち止まって火球は回避。

そのままオレは水使いの服を掴んで――


「『パイロキネシス』――!?」


それは、確かに何時もの様に異能を発動したはずだった。


「……で? 水よ、敵に水針を――『アイスランス』」

「ぐうっ――!!」


なのに。

やはりというか、オレの火は彼に移した側から消えてしまって。


目の前。至近距離で氷の槍を食らって吹き飛び、痛みで動けない。

異能の火なら魔法の水の装甲でも貫通できると――都合の良い解釈をしてしまった。



「ほ、炎……! ホーリーヒール!」



身体に掛かる回復魔法。

左腕、流れる血が止まり痛みも引く。


コレのおかげでまだ頑張れる。



「ハハッお前もうすぐベール剥がれそうじゃん」

「チッ、異能持ちが生意気に……水よ、我に水の加護を――」


「っ、らああああ!!」

「させるか――『ファイアーボール』!」


「『アースシールド』……ぐっ!」 

「『ウォーターベール』、ハハハ残念だったな!」



迫り来る火球を土の盾で防ぐものの、衝撃でよろけて体勢を崩してしまった。そのまま逃げる様に距離を取る。


……前に居る二人に水の鎧。

攻撃しても無効化され、カウンターを食らってしまい。


そして何より、異能を二度使っただけでも体力が無い。このままじゃジリ貧――



「――『ホーリーヒール』!」

「っ!」

「ご、ごめん炎。もう回復魔法使えないかも……」


「ハハハマジかよアイツ!」

「魔力量少なすぎてかわいそ~」

「手出さなくても自滅してんな」


「……いいや、ありがとう輝。助かったよ」



過った考えを彼女の回復魔法が消してくれた。

……ああ、そうだ。

ここで勝たなきゃ――輝はずっと彼らに虐められるんだ、諦めてたまるかよ。



「まだだ……」


「ッ!?」

「コイツ、何でまだ――」



考えろ。考えても駄目なら突っ込むんだ。

タクマと闘った時の様に。

全神経を、アイツらを燃やす事のみに集中させろ!



「地よ、我に土の盾を――」


「ッ――水よ、敵に水針を――」

「『ファイアーボール』!」



土の盾の詠唱を開始しながら走り、飛んできた火球を跳んで避ける。



「『アースシールド』!」

「『アイスランス』!」



ほぼ同時に完成するオレと水使いの詠唱。

その後飛んできた氷の槍を土の盾で防御。割れる盾。

衝撃は気合で踏ん張って――


「っ――らああああああああ!!!」

「!?」



そのまま接近。彼の身体にタックル。



「はっ、はっ――『パイロキネシス』!!」



そのままオレは、水使いの身体を地面に組み伏せ着火。

水魔法があろうが無かろうが関係ない。


燃えろ。

燃えろ――燃えろ!!



「――ひッ!?」


「『パイロキネシス』!」


再発動。

彼の水のベールは消えた。

じわじわとせり上がる火。



「ッ!! ひっ火が――おい何やってる!?」


「ッ、離せ!!」

「は――離さない!!」


向こうでは、輝が後ろから火使いを羽交い締めにしていた。


絶好の機会。

オレは――火を、更に水使いへ宿そうとする。



「らああああああああ!!」

「くッ――みっ、水よ、我に水の加護を!!」



……ああ。


もし自分が、物語の主人公だったなら。

ここで水使いの防御を突き破って。

そのまま彼を燃やして、次は火使いも倒して。


最後は輝を迎えてハッピーエンド。



「『ウォーターベール』――ハハッ、どけ!! ああうぜぇ、俺にここまでさせやがって……!」


「がっ――」



でも、これは現実だ。

魔法>異能で今もそれが証明された。

再び貼られた水使いのベール、それにオレの火は競り負け彼に蹴飛ばされる。


結局。

オレは『彼』とは違う。

最後の力を振り絞った火は、あっけなく消えてしまったのだ。

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