『ハッピーエンド』
☆
――「……うわ! マジで来てんじゃん」「すげ~」
「よくあんな『六本指』の為に喧嘩ふっかけたよな~」――
入った瞬間、頭上から降りかかる観客の声。
Dクラスの教室で聞いた声だった。
そして。
「おっ、『ハズレ』と『六本指』様ご到着~!」
「さっさと終わらせようぜ」
「俺達に勝てると思ってんのかよコイツ」
目の前には例の三人。
……そうだ。もっと油断しろ。
「あ、あの~。今度は二対三ですか」
「ごめんなさい、頼みます」
「あはは……」
立会人の彼女には悪いが、連日で利用させて貰ってんな。
「え~、そちらも準備良いですか?」
「あ?」
「さっさとしろよ、あのハズレ共が良いなら良いわ」
「……そうですかぁ。それじゃ位置に付いて下さい。お二人はもう良いですね」
「はい。輝は?」
「あっすいません、大丈夫です」
オレ達と三人が向かい合う。
距離は大体二十メートル。そして仲間同士でも距離が三メートル程空いている。
……求められるは短期決着。長引けば勝利はどんどん遠のいてしまう。
「それでは――始め!」
「っ――!」
開幕ダッシュ。
「かっ風よ前へ――うわっ!?」
「な――そいつを近づけさせんな! 『ファイアーボール』!」
「『ウォーターボール』!」
風魔法を扱う一人に接近。
他二人は無視して――死ぬ気で突っ込む!
「はっ、離れ――」
「――っ、ぐっ……離すかよ!」
術途中で逃げようとしてくれたから助かった。火球と水球を身体に受けながらも、何とか風使いの服を掴む。
まずは一人。
「――『パイロキネシス』!!」
「!? ああああああああああああああ!!」
手の平に燃える火を、目の前の身体に伝達。
一気にそれは燃え上がり――彼は全身火だるまに。
「あっ、あつ……あ……」
「ひっ――おっおい!」
「な――『ファイアーボール』!」」
「ぐっ!!」
横からの火球で吹っ飛ぶ。
それでも一人はやった――あと二人。
「……『ホーリーヒール』」
「! ありがとう輝!」
そしてオレには仲間が居る。
これなら――
「ああクソッこんなクズ相手にやられやがって! 相手は火だろ――アレやれ!」
「ああ。水よ、我らに水の加護を――」
「っ!」
「させるかよ――『ファイアーボール』!」
「ぐっ!!」
「『ウォーターベール』」
詠唱をしようとした水使いに接近を試みるが――予測された火使いの火球に吹っ飛ばされ。
そしてその詠唱は完成。彼らを、薄い水のベールが包み込んだ。
……何だよこれ。
『パイロキネシス』……効くのかよ?
「火には水、授業で習わなかったかぁ!」
「まあGクラスだしな。上級魔術なんて絶対使えなそう」
「くっ」
「おっ! お前の方に来るぞ、『ファイアーボール』……あ、悪い外した」
水使いの元へ走り、一瞬立ち止まって火球は回避。
そのままオレは水使いの服を掴んで――
「『パイロキネシス』――!?」
それは、確かに何時もの様に異能を発動したはずだった。
「……で? 水よ、敵に水針を――『アイスランス』」
「ぐうっ――!!」
なのに。
やはりというか、オレの火は彼に移した側から消えてしまって。
目の前。至近距離で氷の槍を食らって吹き飛び、痛みで動けない。
異能の火なら魔法の水の装甲でも貫通できると――都合の良い解釈をしてしまった。
「ほ、炎……! ホーリーヒール!」
身体に掛かる回復魔法。
左腕、流れる血が止まり痛みも引く。
コレのおかげでまだ頑張れる。
「ハハッお前もうすぐベール剥がれそうじゃん」
「チッ、異能持ちが生意気に……水よ、我に水の加護を――」
「っ、らああああ!!」
「させるか――『ファイアーボール』!」
「『アースシールド』……ぐっ!」
「『ウォーターベール』、ハハハ残念だったな!」
迫り来る火球を土の盾で防ぐものの、衝撃でよろけて体勢を崩してしまった。そのまま逃げる様に距離を取る。
……前に居る二人に水の鎧。
攻撃しても無効化され、カウンターを食らってしまい。
そして何より、異能を二度使っただけでも体力が無い。このままじゃジリ貧――
「――『ホーリーヒール』!」
「っ!」
「ご、ごめん炎。もう回復魔法使えないかも……」
「ハハハマジかよアイツ!」
「魔力量少なすぎてかわいそ~」
「手出さなくても自滅してんな」
「……いいや、ありがとう輝。助かったよ」
過った考えを彼女の回復魔法が消してくれた。
……ああ、そうだ。
ここで勝たなきゃ――輝はずっと彼らに虐められるんだ、諦めてたまるかよ。
「まだだ……」
「ッ!?」
「コイツ、何でまだ――」
考えろ。考えても駄目なら突っ込むんだ。
タクマと闘った時の様に。
全神経を、アイツらを燃やす事のみに集中させろ!
「地よ、我に土の盾を――」
「ッ――水よ、敵に水針を――」
「『ファイアーボール』!」
土の盾の詠唱を開始しながら走り、飛んできた火球を跳んで避ける。
「『アースシールド』!」
「『アイスランス』!」
ほぼ同時に完成するオレと水使いの詠唱。
その後飛んできた氷の槍を土の盾で防御。割れる盾。
衝撃は気合で踏ん張って――
「っ――らああああああああ!!!」
「!?」
そのまま接近。彼の身体にタックル。
「はっ、はっ――『パイロキネシス』!!」
そのままオレは、水使いの身体を地面に組み伏せ着火。
水魔法があろうが無かろうが関係ない。
燃えろ。
燃えろ――燃えろ!!
「――ひッ!?」
「『パイロキネシス』!」
再発動。
彼の水のベールは消えた。
じわじわとせり上がる火。
「ッ!! ひっ火が――おい何やってる!?」
「ッ、離せ!!」
「は――離さない!!」
向こうでは、輝が後ろから火使いを羽交い締めにしていた。
絶好の機会。
オレは――火を、更に水使いへ宿そうとする。
「らああああああああ!!」
「くッ――みっ、水よ、我に水の加護を!!」
……ああ。
もし自分が、物語の主人公だったなら。
ここで水使いの防御を突き破って。
そのまま彼を燃やして、次は火使いも倒して。
最後は輝を迎えてハッピーエンド。
「『ウォーターベール』――ハハッ、どけ!! ああうぜぇ、俺にここまでさせやがって……!」
「がっ――」
でも、これは現実だ。
魔法>異能で今もそれが証明された。
再び貼られた水使いのベール、それにオレの火は競り負け彼に蹴飛ばされる。
結局。
オレは『彼』とは違う。
最後の力を振り絞った火は、あっけなく消えてしまったのだ。
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