魔法世界の無用の長物《ユーズレス》

aaa168(スリーエー)

入学編

隕石襲来


『ピリリリリリリリリリ!!!』



「うるせえ!」



俺――『碧優生』は、縦横無尽に飛び回る目覚まし時計に遊ばれていた。

けたたましい鈴の音を止めようとするものの、まるで意思を持っているかのようにそれは動き回る。



「はあ……はあ……ったく」



それを止めた時には、もうすでに俺の意識は覚醒していた。

これが狙い?


「起きれたから良いか……」


呟きながら、『設定』しておいた目覚まし時計を見る。

今日は――絶対寝坊する訳にはいかないんだ。



別に俺が死ぬのは良いんだけど。

この街を潰される訳にはいかないからな。







「行ってきまーす」



今日は平日、時間は朝8時。

普通なら学校に行く生徒達、会社へ行くサラリーマンなど。

決して人口が少ない田舎の『相野あいの町』でも、この時間は人が結構いる。


しかし今日は誰もいない。 

道だけじゃない、家にも、駅のホームにも。


この町には、俺しかいない。




「まもなく!! 相野町に!! 隕石が落下します!!!」



「予想被害範囲は市全体!! 避難はもう済んでいるとは思われますが!!!」



「落下の瞬間は!! 大きな揺れが起こると思われます!! 注意して下さい!!!」




またもけたたましく鳴る、町の電気屋のテレビ。

どちらかといえばこのアナウンサーがうるさいんだが。


……『それ』を観測した時点が昨日の深夜。あの時は凄い騒ぎだった。

なぜそこまで急なのかと言えば――それが決して自然現象ではなく、魔法使い集団によるテロ行為だったからだ。


前代未聞の事件だった。魔法による隕石自体これまで無かった上こんな田舎が標的なんだ、仕方ない。

対応できる人材も間に合わない……気付けばもう手遅れ。

そこに住む者達は避難する事しか出来なかった。



「ふう」



人気がない街を歩き、『観測』しておいた隕石落下地点に到着。

燃え上がりながら飛来してくるそれは中々の迫力だ。

魔法って凄いね。




「アレか……最悪マジで死にそう」




俺は――家から持ってきたお気に入りのバットを両手に持つ。

グリップは取れかけ塗装も剥げて、打芯は凸凹だらけ。

頼りがいのあるそれと空を交互に見る。


『ストライク』なら街壊滅。ついでに俺死亡。

『ボール』はここに立ってる地点であり得ない。

『ヒット』なら隣町に被害が出る。

『ファール』……デッドボール。街壊滅俺死亡。


つまり――『ホームラン』しかないって事だ。



「頼むぞ相棒」



観客も審判も居ない孤独のフィールド。

俺は無理矢理テンションを高め、やがて迫る隕石にバットを構える。

色々と準備しないと――



あ、また遺書書くの忘れた……













「――――――!! 何故か!! 隕石があろうことか!! 宇宙へと帰って行きました!!」


「原因は不明!! 今夜7時から日本魔法協会が会見を開くとの事!!」


「隕石は一体、どうしてしまったのでありましょうか!!」

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