道具使いの非日常

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プロローグ

隕石襲来

 『魔法』。



 それは、この世界において――当たり前に存在している。


 しかしそれは、『この世界に存在している』、それだけであり――誰でも簡単に使える訳ではない。



『魔法使い』。魔法の才を持ち、そしてその魔法によって、あらゆる術を操る者。



 俺はずっと――子供の頃から、その『魔法使い』に強く憧れていた。


 そして生憎、俺にはその『才能』が一かけらも無かったんだ。





 ――「ごめんね、優生ゆうせい」――




 夢の中――それは、俺の幼少の記憶。


 泣きながら、俺にそう言う母の声。


 俺はその時……どんな反応をしたんだっけな。




 ―――――――――――――


 ―――――――――


 ――――――




『ピリリリリリリリリリ!!!』



「うるせえ!」


 俺の夢を遮った、その主。


 縦横無尽に飛び回る目覚まし時計。


 けたたましい鈴の音を止めようとするものの、まるで意思を持っているかのようにそれは動き回る。



「はあ……はあ……ったく」



 それを止めた時には、もうすでに俺の意識は覚醒していた。



「いくら何でもやりすぎたか」


 呟きながら、昨日『設定』した目覚まし時計を見る。


 まあ今日は――絶対寝坊する訳にはいかないんだ。実際起きれた訳だし。



 ……起きないと死ぬからな。



 ―――――――――――――




「行ってきまーす、っと」



 今日は平日、時間は朝8時。

『普通』なら学校に行く生徒達、会社へ行くサラリーマンなど。

 決して人口が少ない田舎の『相野あいの町』でも、この時間は人が結構いる。




 しかし今日は――『誰もいない』。






 道だけじゃない、家にも、駅のホームにも。






 ――この町には、俺しかいない。







「まもなく!!相野町に!!隕石が落下します!!!」



「予想被害範囲は市全体!!避難はもう済んでいるとは思われますが!!!」



「落下の瞬間は!!大きな揺れが起こると思われます!!注意して下さい!!!」




 またもけたたましく鳴る、町の電気屋のテレビ。


 どちらかといえばこのアナウンサーがうるさいんだが。



 ――っと。




 ……この通り、俺の住む町に隕石が落下する。


『それ』を観測した時点が昨日の夜。あの時は凄い騒ぎだった。


 なぜそこまで急なのかと言えば――それが、決して『自然現象』ではなく、魔法使いによる『魔法』の仕業だったからだ。



 魔法使いってだけで凄い事なのに、勿体ない奴らだとは思う。


 しかし――魔法ってのは、そんな事も出来るんだな。





「ほんっと、誰も居ねー」





 人気がない街を歩く。


 隕石はもう、昼の十時には落ちるらしい。


 今は八時半、あと一時間三十分でこの付近は吹っ飛ぶ。





「――!!!隕石が!加速しております!!被弾予想時刻は――九時です!!!」



「はああああ!?」



 ……っと、声に出てしまった。

 俺の声は誰も居ないこの町を木霊する。

 いやいや、しっかりしろよ……あと三十分か。



 まあそこまで急ぐ必要は無い。



 俺が『観測』した所……落下地点は丁度この町。


 今は微調整で歩いている。




「ここら辺でいいか……お、あれかな?」



 立ち止まり空を見ると、隕石っぽい何かが降ってくるのが見える。


 あれこそが――この市全体を破壊しようとする物体である。




「……さて、どうしようか――っと、『あれ』なんかいいな」



 正直何も考えていなかった所に――ある『バット』が目に入った。


 公園の傍ら、投げ出されている金属バット。

 あちこち凹んでおり、ずっと使い古されているそれに、俺は目を惹かれた。



 ……ああ、思い出したよ。


 俺が学校帰り、この公園でひたすら素振りをする少年が居た。


 背中には『甲子園』のプリント……恐らく小学生だってのに、コイツはえらい先を見てるんだなと思った、そんな記憶がある。


 その少年が使っていたのが、このボコボコのバットだったっけ。





「……良いじゃねーか」



 手に取り振ってみる。


 握れば、グリップも剥がれかけだった。


 でも――悪くない。




「良い」



 一振り、もう一振り。


うん、いい感じ。



「……ふう。コレに決めた」



 振る力を、段々と上げていく。


 力が漲って来た。


 十、二十、三十。



「もっと――」



 ――あの時の少年の様に、俺はひたすら素振りをする。

 視線は隕石。

 詳細に、明確に。俺は、イメージを膨らませていく。



 そうだ――ここはもう立派なグラウンドであり。


 俺の為だけに存在する、バッターボックス。



「おらあ!!」


『少し』、力を入れてバットを振り切る。


 見れば――バットを振った先の木が倒れていた。




 ――俺は、魔法の才能なんて持っちゃいない。


 ある、『能力』。それは魔法でも何でもない。




 ただ、道具の力を普通の奴以上に引き出せる、それだけ。


 ボールペン書くときインク切れとかなるだろ?俺はそれがない。


 便利な能力だよ、本当に。





「さて――そろそろ来るか」







 目を瞑る。


 バットは、飛んできた球を打ち返すモノであり――


 隕石は球。打者は俺。バットはこの金属バット。




 バックホームは――あの『空』だ。




「さて、ホームランと行くかな」



 目を開け、空を見渡す。


 隕石は太陽の光を遮り、辺りは真っ暗になる。




「はは、アレ――俺の何倍だよ」




 バットを力を込めて握る。正直少し怖いが――逃げる程でもない。

 寧ろ、俺の町に勝手に落ちてきた事にイライラしている。



「来るか――っ」



 隕石へと構える。


 それは間もなく、落ちて来た。


 落ちてくるタイミングを計り、バットを振る俺。





「っ――らあああああ!!! 」




 上段で、バットに半端じゃない力がかかるが、構わず振り抜く。


 キンッっと快音が響き、隕石ボールはバックスクリーンへ。





「……ふう、結構勢いよく飛んでいくな」





 手を目の上に添えて、隕石の行方を見る。


 隕石は、無事宇宙へ帰っていったようだ。





「助かったよ――ありがとな」



 凸凹のバット。新たに一つ凹みが出来てしまったそれを、俺は元の場所に立て掛ける。

 きっとコレは、まだまだ使える代物だろう。


 なんせ隕石を打ち返したんだからな。

 是非とも甲子園まで持って行って欲しいもんだ。



「うーん、気持ちよかった。……って、痛えな!帰るか」




 軽く衝撃で痛む腕を抑えながら、俺は帰路につく。


 当たり前だが今日は学校が休み、やったね!



 ……久々に疲れたな。帰って寝よう。

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