おいらはセルリアン

成ぺー

おいらはセルリアン旅をするセルリアン

 おいらはセルリアン。空色のセルリアン。サンドスターから生まれたセルリアン。この広大な大地を旅しているのだ。



 おいらはセルリアン。セルリアンブルーのセルリアン。なぜか意志を持っている。なぜ意志を持っているのかとんと見当がつかない。サンドスターから生まれたのは知っている。でもそれだけである。だから旅をするのだ。



 おいらはセルリアン。一つ目のセルリアン。いくら意志を持っているからといって、仲間と意思疎通ができるわけではない。仲間のセルリアンは意志を持っていないからだ。生物なのか、はたまた別の何かなのか。おいらには分からない。意志を伝える手段を持ち合わせていないおいらたちは、ただそこにあるだけの存在なのだ。けれど、おいらだけが意志を持っている。何故だかわからない。だからおいらは旅をする。山を登り川を渡りおいらは旅をする。



 おいらはセルリアン。小さいセルリアン。おいらたちはいろんな大きさや形があるけれどおいらはその中でも小さくて弱い。おいらは旅をする。砂漠を越え森を越えおいらは旅をする。おや?あそこにいるのはフレンズだ。二人いる。おいらたちとは完全に違う生き物。おいらは隠れる。小さくて弱いおいらはフレンズから逃げなきゃならない。大きいセルリアンなら戦うこともできるだろうけど、おいらでは返り討ちにあってしまう。フレンズたちはおいらたちをのけものにする。近づいても逃げられるか攻撃されるかのどっちかしかない。隠れて通り過ぎるのを待とう。フレンズにはそれぞれ得意なことがある。牙を持ったり翼を持ったり。一人はサーバルキャットのフレンズ。その鋭い爪で攻撃されたらおいらはひとたまりもまいだろう。もう一人は、もう一人は誰だろう。誰なんだろう。鋭い爪もない。鋭利な牙もない。空を飛ぶ翼もない。何が得意なフレンズなんだろう。なんだか、なんなんだか、そう、なんだろうか。なんだかとっても懐かしい。懐かしいと感じるのだ。懐かしい匂いがする。わからない。この世界には分からないことが多すぎる。だからおいらは旅をする。



 おいらはセルリアン。弱点は頭にある石。いや、違った。おいらには頭は無い。上の部分に石がある。その石が弱点だ。この石を攻撃されるとおいらはおいらでなくなる。おそらく意志もなくなる。おいらは茂みに隠れる。どうか見つかりませんように。

「この匂いセルリアンだ!」

 サーバルキャットのフレンズに見つかった!フレンズにはおいらたちの匂いに敏感だ!見つかった!おいらは見つかってしまった!

「食べないでください!」

「あそこの茂みにいるよ!かばんちゃん下がってて!」

 見つかった!見つかった!逃げなきゃ!逃げなきゃ!おいらは逃げる!おいらは逃げる!茂みから出て必死に逃げるのだ!

「待て~!」

 追いかけてくる!サーバルキャットのフレンズが追いかけてくる!捕まえられたら最期、おいらは消えてしまう。消えてしまう。消えたくない。消えないように逃げなくちゃ!

「まてー!」

「サーバルさん!待ってくださーい!」

 もう一人のフレンズも追いかけてきた。逃げなきゃ!消えたくない!おいらは消えたくない!痛い!何かにぶつかった。見上げるとそこは崖だ。もう逃げる道はない。追い詰められてしまった。

「もう逃げられないぞ!」

 逃げられない。駄目だ。おいらはここで消えてしまう。わからないことを、わからないままで消えてしまう。おいらはフレンズには勝てない。このまま石を攻撃されおいらは消えてしまう。おいらの意志も消えてしまう。嫌だよ。嫌だよう。

「いくぞーみゃみゃみゃー」

 サーバルキャットのフレンズが襲い掛かってきた。爪を立てて襲い掛かってきた。もう駄目だ。怖いよ。消えるのが怖いよ。嫌だよ。何もわからないのが嫌だよ。消えたくないよ。おいらは何もわからない。おいらが分からない。おいらはまだ旅をしたかった。

「サーバルさん!待ってください!」

 その声を聴いてサーバルキャットのフレンズは手を止めた。

「どうしたの?かばんちゃん。相手はセルリアンなんだよ」

「でも、少しだけ待ってください。だって、そのセルリアン。泣いてます。」

 おいらの一つ目から何かが流れた。なんだろうこれは。何なんだろうこれは。何故だか溢れてくる。何かが溢れてくる。おいらにはわからない。わからないことが多すぎる。おいらはおいらが分からない。だから…旅をしたかった。

 もう一人のフレンズがおいらに近づいてくる。

「かばんちゃん!あぶないよ!」

 もう一人のフレンズがおいらの目の前で、足を曲げて姿勢を低くして真っすぐおいらの方を見た。

「セルリアンさん、怖かったの?」

 怖かった。消えるのが怖かった。消えたくなかった。おいらはおいらを知るためにまだ旅をしたかった。おいらは必死に訴えた。倒さないでください。もう近づきません。貴方たちの前には現れません。ごめんなさい。ごめんなさい。お願いします。



 おいらはセルリアン。おいらは意志を持っている。他のセルリアンにはない意志を持っている。けれど、おいらたちセルリアンは意志を伝える手段は持っていない。フレンズのように声はでない。腕がない足がない体が無い。おいらは意志を持っている。持っているだけだ。おいらは必死に懇願した。お願いします。どうか、どうか、見逃してください。おいらの願いはフレンズたちには分かってくれないことは分かっている。だから襲ってくる。おいらの願いは届かない。

「かばんちゃん、どうしたの?」

「……このセルリアンは襲ってこないよ。」

「えー!」

 えー!届いた。おいらの意志が初めて届いた。やった。やった。ありがとう。ありがとう。やっと届いた。おいらの意志がやっと届いた。

「セルリアンさん、驚かしてごめんなさい。」

 嬉しかった。初めてだ。おいらの意志が通じたんだ。おいらは二人からゆっくりと距離をとった。

 頭もない。腕もない。体もない。

 けれど、精一杯感謝を込めて礼をした。

 爪もない。牙もない。翼もない。そのフレンズに感謝した。

「じゃあね!セルリアンさん!」

 ありがとう。おいらには意志がある。おいらは旅をする。










「かばんちゃん!セルリアンが何を言ってるのか分かるの?」

「うーん、わからない」

「えー!」

「でも、あのセルリアンは悪い人じゃないってことはわかったよ」

「そうなんだー!良いセルリアンもいるんだね」

「うん、そうだね」










 おいらはセルリアン。空色のセルリアン。セルリアンブルーのセルリアン。一つ目セルリアン。小さいセルリアン。サンドスターから生まれたセルリアン。何故か意志を持っているセルリアン。今日もこの広大な大地を旅しているのだ。山を登り川を渡り砂漠を越え森を越えおいらは旅をする。おいらはおいらが分からないことを知るためにおいらは旅をする。あの懐かしい匂いを思い出して、今日もおいらは旅をする。

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