好きなのだ
桐生細目
第1話 タイリクオオカミさんのインタビュー
「じゃあ取材に協力してもらってもいいかな?」
ろっじ内の広場で手帳を片手にマイク代わりにペンを向けるタイリクオオカミさんは、実に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「いいのだ!」
「いいんじゃないかなぁ」
作家の性というものだろう。気になったことをそのままにしておくことができない。
「パークの中には仲のいいフレンズがたくさんいるけど、キミたち2人は……そうだな。気を悪くしないで欲しい。一見すると不釣合いのようにも見える」
「そうなのか? アライさんはそのふつりあい? じゃないと思うのだ」
「と、相方は言っているけどキミはどうだい?」
ペンの先をフェネックさんへと向ける。
「そうだねぇ。言われてみればそうかもしれないねぇ」
隣でショックを受けているアライさんを横目に、少しだけ笑みをこぼす。
「アライさんはいつもよく考えずに一人で先につっぱしっちゃって、ついていくのが大変なことも多いからねぇ」
「そ、そんなことはないのだ!」
必死になって否定する。
「アライさんもいろいろ考えているのだ! ちゃんと考えて動いているのだ!」
「考えた結果が、パークの危機なのだぁ? あの時は大変だったねぇ」
「その話は聞いているよ。彼女が帽子ドロボウだと思ってずっと追いかけていったんだろ? 結果的には好転したのかもしれないけど、途中で止めるつもりはなかったのかい?」
「それはないかなぁ」
即答されたことに驚くタイリクオオカミさん。
「それはどうしてだい?」
手帳に描き込みながら問いかける。
「アライさんと一緒にいると退屈しないからねぇ」
「つまり、楽しいから一緒にいると?」
「そういうことかもねぇ。苦労することも多いんだけどねぇ。アライさんのしちゃったことのフォローも大変だしぃ。この間だって、博士たちにばすてきなもののたいや? 探しに行った時も、アライさんせっかく見つけたたいやを落としちゃってさぁ」
「あっ、あれは仕方がないのだ。たいやがあんなに転がるものだとは思わなかったのだ!」
「いやいや。あれだけ丸いのだから、普通に転がるんじゃないかな」
手帳にタイヤを描くタイリクオオカミさん。
「なんにしても、かばんさんの出発の日に間に合ってよかったけどねぇ。間に合わなかったら博士たちに怒られるところだったよ。アライさんが」
「アライさんだけなのか!?」
「少し話が脱線してしまったようだね。戻すとして、つまりフェネックさんは、たとえ大変なことになったとしても、楽しいからアライさんと行動を共にするということでいいんだね?」
「それでかまわないよ。アライさんと一緒にいると、自分だけじゃ体験しなかったことを色々体験できるからね」
「なるほどなるほど」
「これで本をつくるヒントになるのかい?」
「もちろんだとも」
パタンと手帳を閉じる。
「自分以外のフレンズの体験は創作においてすごくヒントになるんだよ」
「アライさんのでもぉ? あぁそっかー。アライさんの失敗を元にして話を作ればみんなに笑ってもらえるかもねぇ」
「やめるのだフェネック! アライさんはそんなに失敗していないのだ!」
「それだけじゃ、ないけどね」
薄く笑うタイリクオオカミさん。
「キミたちはかばんさんとも親しい。彼女がここからいなくなってしまったあとも、彼女を思い出すためにキミたちの話は重要なんだ。そのあたりも、しっかりと聞かせてもらうよ」
「それならまかせてほしいのだ!」
「うん。それならどんと来いだねぇ」
ネタ帳になっている手帳に簡易的な絵がびっしりと描かれている。
「うん、大満足だよ。インタビューしたかいがあったよ」
満足気に頷く。
「ありがとうねぇ。キミたちもなにかと忙しかったんだろう?」
「こっちもアライさんを改めていじられて楽しかったから、いいよぉ」
と、アライさんを煽ってみるが彼女からのリアクションが返ってこない。
「どうかしたのかい、アライさん」
アライさんの方へと向いてみると、珍しく難しい顔を浮かべていて
「ちょっと待つのだ。まだいんたびゅーは終わっていないのだ」
「ん? それはどういうことだい? かばんさんの話はちゃんと聞いたよ」
「違うのだ」
アライさんの言葉にフェネックさんたちが顔を見合わせる。
「アライさんのことだけじゃなくて、フェネックのことも聞いてほしいのだ」
あぁ、なるほど、と
「そう言えばそうだね。アライさんのことだけじゃ不公平だ。申し訳ないことをした」
コホンを咳をする。
「では改めて。今度はフェネックさんのことについて聞こうかな」
ちらりと横目でフェネックさんのことを見る。尻尾を揺らしながら彼女は微笑んでいた。
まだこの時は。
「アライさんにとって、フェネックさんはどういうフレンズなんだい?」
「大好きなのだ!」
「はっはっはー。私の言ったとおりだろぉ? アライさんといると、こんな感じに退屈しない毎日がおくれるんだよぉ。だから、私はアライさんといるんだよねぇ」
手元の手帳に描き込む手が止まらない。いずれ消えてしまうであろうこの光景を絵として描き込んでいく。
「アライさんは思ったことをすぐ口にしちゃう子だからねぇ」
自分が絵を描くことができるフレンズでよかったと、タイリクオオカミは改めて感謝している。
「でもねアライさん、そういうことはあまり言わないほうがいいんじゃないかなぁ。勘違いされちゃうかもねぇ」
冷静を保てていると思っているのはフェネック本人だけ。
顔を真っ赤にして動揺を隠せていないフェネックの様子を、タイリクオオカミは持てる力の限りで描写していった。
のちに『アライさんの冒険』はフレンズたちの間でヒット作となった。
好きなのだ 桐生細目 @hosome07
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