ついしん さばんなちほー
栖坂月
ついしん さばんなちほー
「あ、カバが帰ってきたー。おかえりー」
ぴょんと大きく跳ねるトムソンガゼル。
「ただいま、トト」
「サーバルは一緒じゃないんだね?」
「えぇ、あの子はかばんを追いかけてパークを旅立ちましたわ」
「サーバル、遠くに行っちゃった?」
ぴょこりと縞々模様が生えてくる。
「あぁ、シマウマも一緒でしたのね」
「シマシマとトトは『なかよし』だからねっ」
「うん、なかよし。サーバルもなかよし」
「パークから出たってどうやって? パークの外って何があるの?」
「パークの外には『海』があるんですわ。サーバルたちは『船』を使って出て行ったの。あ、そうそう――」
ふと気づいたような顔で、カバはポンと手を叩く。
「二人にも手伝ってもらいましょうか」
「手伝う? なんのことー?」
「サーバルの宝物、ですわ」
のののののののののの
「この辺りって、さばんなにしては木がたくさんあるよねー」
「じゃんぐるちほーのすぐ近くですからね」
「地面、かたい……」
「寝転ぶなら、せめて土の上になさい。そもそもシマウマ、貴方は所構わずゴロゴロしないように。そんなんだから『ナメクジみたいだ』なんて言われるのよ?」
「なめくじ……」
シマウマは、ふと袖口の匂いを嗅いでみたらウンコ臭かったみたいな顔をする。
「気に入らないなら少しは――」
「アレ、美味しくない」
「食べたことありますのっ?」
「シマシマは何でも口に入れようとするから」
「草、たまに食べたくなる」
「緑のジャパリまんとかにしておきなさい。それと草を食べるにしても、ナメクジは落としなさい」
「……何の話だっけ?」
シマウマの傾きを見て、カバも脱線に気づいた。
「それより、今は宝物ですわ」
「サーバルの宝物って、どんなの?」
「さぁ……とにかくそれを見つけてネグラに置いといて欲しいという話でしたから。まぁ埋めてあるそうなので、そう大きなものではないでしょう」
「ネグラってサーバルがいつも寝てるあの木のことか。で、どこにあるって?」
「それが、さばんなちほーの出口近くにある広くて大きな木の前に埋めた、らしいのですけど――」
言いつつじゃんぐるちほーへと続く固い橋に背を向けて振り返ってみた三人の顔が、同時に左へ大きく傾く。
「木、いっぱい」
「そうだね。どの木だろう?」
「まぁ、サーバルの頼み事ですからね。とりあえず、ここから見て一番大きな木を探しましょうか」
「じゃあ、アレじゃない?」
ガゼルが指さしたのは濃い葉が生い茂る木だ。周囲の木々に比べて激しく枝分かれしており、広い木陰のあちこちに大きな細長いキウィみたいな木の実が落ちている。
頷き合った三人は、踊る木漏れ日の下で宝探しを始めるのだった。
のののののののののの
「何か見つかりまして?」
「なんにもー。シマシマは――って、何食べてるのっ?」
「この草、柔らかい」
「そんなこと聞いてないよっ。というか探してよ!」
「もっと簡単に見つかると思ってたんですけど、意外に見つからないものですわね」
「本当に木の近くだったのかなぁ?」
「どういうことですの?」
カバの問いかけにガゼルは自然と、大きな耳と太陽のような笑顔を思い出す。
「サーバルって、よく跳ねてるじゃない?」
「トトもサーバルのこと言えませんけどね」
「あの子の一歩って、すごく大きいと思うの。狩りごっことかすると見えないところからでも飛んでくるからビックリするし」
「うん、わかる」
シマウマはもぐもぐしながら頷いた。
「でも弱い」
「だよねー。いつも上からくるから、角に刺さってうぎゃーするんだよ。そういえばこの前、あんまりにも勢いよく刺さって血が出ちゃってさ」
「大丈夫でしたのっ?」
「わたしもビックリしちゃって泣いちゃったんだけど、そしたらサーバル無理して笑いながら親指立てて『へーきへーき、夜行性だからね』とか言ってた」
「そういえば、一時期何をしても言ってましたわね、夜行性」
「使い方、ちがう」
「まぁ、サーバルらしいと言えばらしいですけど」
三人の笑い声が交錯する。
「それにしても困ったわね」
「多分だけど、わかりやすい目印とかあると思うんだよね。だってサーバルだよ?」
「埋めたとこ、絶対忘れる」
「まぁサーバルですしねぇ。変わった石でも置いてあれば間違いな――」
言いかけたカバの視界の右端を、丸くて平たい石が転がっていく。
それを追いかけるように、小さな犬のような生き物が茂みから姿を現した。
「その石、もしかしません?」
「かもね。サーバルも転がるものが好きだし」
「それにこの子、アードウルフじゃありませんこと?」
「……うん、アドちゃん」
思わず近づこうとしたシマウマに驚いたのか、ビクリと小さく身体を震わせて元居た茂みに隠れてしまう。
「シマウマ、間違いありませんの?」
「うん、間違いない」
「貴方がそう言うならそうなんでしょうね。近頃見ないと思っていたら、セルリアンに襲われていたなんて……」
「あっ」
「トト、どうかしまして?」
「ここじゃないかな。ホラ、掘った跡があるよ」
転がっていった石のすぐ先に、それは見つかった。
のののののののののの
少し掘るとすぐに大きな石に阻まれ、それをどかすと空洞が口を開く。カバが手を差し入れると、指先に薄くて軽い何かが当たった。
「それなに?」
「これは『かみひこーき』と言うんですわ」
「へー、何するものなの?」
「空を飛ぶものですわね」
「飛ぶのっ? 鳥のフレンズみたい!」
受け取ったガゼルが手の平に置いて眺めてみる。
「……飛ばないよ?」
「投げるんですわ。こう持って――」
「ボクもやりたい」
シマウマも興味が湧いたのか、いつになく目が輝いている。
「はいはい、いくつもあるから大丈夫よ。じゃあワタシの真似をして投げるんですのよ」
肘を曲げて肩まで掲げ、せーので肘を伸ばして一斉に放つ。
そして一斉に地面に刺さった。
「飛ばない……」
「え、これだけ?」
「おかしいですわね。サーバルやかばんが飛ばした時は、もっと遠くまで飛んでいたんですけど」
「何かコツがあるとか?」
「あるいは、この『かみひこーき』そのものに問題が――あ、これならどうでしょう」
穴の底で折り重なった紙飛行機の中に、一際目立つ綺麗なものを見つけて取り出す。
それは紙飛行機を初めて目にしたガゼルやシマウマにもわかるほど、違って見える。
「これは多分、かばんが作ったものですわね」
「ワタシ飛ばしたい!」
受け取ったガゼルは、初めて見た色のジャパリまんを食べる時みたいな顔で紙飛行機を高く掲げると、力を込めることなくスイと腕を振る。
それは風を受け止め、小さな輝きを放ちながら浮かび上がり、滑るように流れるように飛んでいく。
「あの輝きは、やはりそうですか。思えばあの時のかばんはまだ生まれたばかりで、しかもサーバルを助けるために一生懸命でしたものね」
紙飛行機は思いを遂げるように大きく回り、やがて地面に降り立つべく茂みへと向かったところで――アードウルフが飛びついてパクリ。
「あ」
「食べたぁ!」
「ちょっとお待ちなさ――」
慌てて駆け寄ろうとする三人の目の前で、その姿は黒い影となり、やがて――
のののののののののの
さばんなちほーの真ん中にある一本の木、そのウロに綺麗な紙飛行機が鎮座している。
そしてその根元には――
「アド、今日は何して遊ぶっ?」
「何でもいい」
「じゃあ行こ。シマシマも待ってるから!」
「あ、待ってぇ」
さばんなちほーは、今日も平和で忙しい。
またね
ついしん さばんなちほー 栖坂月 @suzakatsuki
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