第10話 友達の作り方 その1

「ベビーシッターと雇い主の子という関係だけでは寂しかったです」

寂しかった、か、分かる気がする。


「だからと言って、はいそうですかと簡単には本当の友達にはなれないよね?」


だってそういう関係ってさ、何となく上下関係が出来てそうだもん。ララはどこまでいっても雇用主の子、気を使うだろうしね。

権力っていうのかな、そういうので『友達ね』とやってもシスティさんたちは、やっぱりどこか普通の友達とは違うような接し方になっちゃう気がするな。

それをどうやって、お互いにちゃんと『友達』と言える間柄になったんだろう。


「私たちが友達にはなれたキッカケはお互いを助け合った事だと思うです」


「お互いに助け合った?」

どういう事だろう?ララがシスティさんたちに会ったのは五年前だと言っていたから十歳ぐらいの頃だ。

十歳と言ったら小学生だよ。小学生の女の子が二十代の女性を助けるなんて……うん、まぁララならあり得るか、家政婦紹介所を買い取っちゃうぐらいだし。


「フィリピンからきて香港でホームメイドやベビーシッターをやる場合、住み込みが多いです」

「そうです。私たちも最初は住み込みのメイドをしてたです」

そうなんだ。けど今はこの家、ララの別荘にみんなで住んでるわけだよね。

「けど私たちは、ホテルに泊まる観光客相手のベビーシッターがやりたかった。その方が、勉強とか副業とかに使える時間が出来るから」

「そうなの、それを聞いてわたくしはシスティたちがそう出来る手助けをしたと思ったよです」

「そうなんだ。それでこの別荘を貸したの?」

「それはそうなんだよですけど、そう簡単じゃないよです」

簡単じゃない?

「私たちとしては自分たちの希望通りに住む場所が安く借りられて、それがホテル近くだったら最高だし、とてもありがたいね、けれどそれ、いくら良くても十歳の女の子に借りれないよ」

まぁ確かにそうだよね。

「それでね、まずは私たちの関係を作っていったよです」

「ララは私たちにベビーシッターやメイドの仕事を教わりながら、私たちには日本語を教えてくれたです」

「日本語を?」

「はいです。香港の家庭のホームメイドをしている時は英語だけで良かったです。だけど私たちが希望している観光客相手のベビーシッターだと、日本人観光客もかなりいるです」

「それがわたくしたちがお互いに助け合った事の一つです」

「お互いにというより私たちの方が多く助かったね。最初は私だけがララに日本語を教わっていたけど、途中からマリーとリンダとエミリーも一緒に教わるようになって十歳の女の子に未来をもらった、思ったよです」


「わたくしは、友達としてシスティたちをフォローしたかったよです。ただ別荘を貸すだけだと、やっぱり雇用主の子、もしくは大家の子みたいな間柄になっちゃうよです。そうじゃなくて友達だから助ける、そういう感じにしたかったよです」

「そう、そうなるのに日本語を教えてもらうというのはかなり有効だったです。勉強形式じゃなくて、遊んだり会話したりしながら教えてくれた事で、私たちの距離はどんどん縮まったです」


分かったような分からないような。

「隆太を香港に連れてきたのは、会話に入るタイミングが分からなくたって友達になりたいと思う相手がいたら年齢も人種も関係なく友達になれるんだというのを見せたかったからよです」


「それはララだからだよ。僕はララみたいに積極的じゃないし」

せっかく香港にまで連れてきてもらって、積極的にいけば友達は出来るんだと伝えてくれようとしてくれたけど、悪いけどそれをどうやって僕は実践すればいいのか分からない。


第一、積極的にいって会話に上手く入れない時のように空回りして相手に受け入れてもらえなかったらと思うと怖くて誰かに積極的にいこうなんて思えないよ。


「隆太、怖がらなくてもいいよです。積極的にという部分が多分、隆太は怖いんじゃないか思うよです。だから怖くないように積極的に行けば良いのですよ」


「それはどうやって……」


「自分から友達になりたいと誰かに積極的に近づいていって、断られるかもと思うから怖いよですよね?」

「うん、まぁ」

「そしたら、断られないと思う相手にいけばいいよです」

「そんなの分かれば苦労しないよ」

「断られなくする確率を上げる方法があるよです」

そう言うとララはシスティさんたちの方に両手を広げた。

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