第14話 トウコウ アトヘン ソノニ
駅前まで来た俺達はそこにあるコンビニへと入った
「あ・・・、園崎。悪いけどちょっと待ってて貰っていいか?
少し雑誌を見たいんだ」
「ああ、構わないぞ」
「スマン、すぐ済むから」
俺はあまりテレビを見る方じゃないが、
たまにやるドキュメンタリー番組は好きでよく見ている
だからこうして、テレビガイド誌なんかでチェックするようにしているのだ
・・・ふむ、来週くらいまで特に無さそうだ
雑誌を棚に戻して園崎の姿を探す
「あ、園さ・・・」
声をかけようとして一瞬躊躇した
そこに佇む園崎は、心ここにあらずという表情で、僅かに頬を赤らめ
右手でお腹の右わきをさすっていた
「・・・どうかしたのか?」
俺が声をかけるとビクンと全身を震わせてこちらを向いた
「なんでもないなんでもないなんでもない!さ、ゴハン買お?
あたしお腹すいちゃった」
人知れず女の子モードになっていたらしい園崎は、その変なテンションのまま
弁当コーナーへと移動していった
何なんだ一体?
園崎がぼおっと眺めていたあたりに視線を移すと、医薬品とかが置いてある棚だ
お腹のあたりをさすってたし、具合でも悪いのだろうか?
でもさっきまでそんなそぶりは見せてないよな?
・・・っと
不意にソレが目に入って慌てて目を逸らした
ソレとは・・・まあ、親密な男女がそういった行為のとき使用するアレだ
たく、不謹慎だぞ俺
それにしても、カラフルな箱でパッケージされてるとはいえアレはアレだ
売ってるってことは買う奴がいるってことなんだろうが、よくコンビニなんかで買えるもんだ
俺には絶対無理だな
あ、今はネット通販とかあるからそれで取り寄せれば・・・
って、なに使う前提で考えてんだよ
カノジョも居ないのに、当面はそんな予定無いっつーの
二人でそれぞれ弁当を選んでレジへと向かう
会計の途中、奥の事務所からオーナーが顔を出した
「らっしゃい。おお、経ちゃんか。
今日はえらいべっぴんさん連れてるじゃねえか」
「あ、どうも・・・オーナー」
頭を下げながら内心しまったと思った
つい、いつもの癖でこっちのコンビニに入ってしまった
今日は駅の向こう側のにするべきだった
この人は悪い人じゃないんだが、このノリはどうも苦手だ
もともとこの人は商店街で魚屋をやってたんだが、時代の流れには逆らえず魚屋は数年前に閉店、今はこのコンビニのオーナーだ
でもノリは魚屋のままなんで違和感バリバリだ
大体ねじり鉢巻きしたコンビニ店員ておかしいだろう!?
ゴムのエプロンとかでレジに立ってても不思議じゃない
「あんなちっこかった経ちゃんが
カノジョ連れで来るようになるなんてなあ・・・」
なんか感慨深そうな顔をされてしまった
「いや、その、カノジョってわけじゃ・・・」
「大人しそうで可愛らしい娘さんじゃねえか。大事にしてやんなよ」
人の話を聞いてない・・・
園崎は母さんの時のように無言で頭を下げた
今日は髪型のせいもあり、黙ってると確かに物静かな少女に見える
温めてもらった弁当を受け取り店内を出ようとした時、
オーナーに呼び止められた
「経ちゃん、これは俺からのサービスだ。持っていきな。
経ちゃんくらいの歳じゃあ、まだ買いづらいだろ?」
そう小声で言いながら俺の手に握らせてきたのは、
さっき見たカラフルな箱だった
通学途中の学生になんてモン渡すんだこのオッサン!?
「?」
不思議そうな視線を向けてきた園崎に見られないよう、慌ててそれをポケットに突っ込む
俺は複雑な心境でコンビニをあとにした
買った弁当は駅向こうにある公園のベンチで食べる事にした
道すがら園崎の様子を伺うが具合が悪そうな感じはしない
それどころか珍しく鼻歌など唄ってて、とても上機嫌だ
さっきお腹のあたりをさすってたように見えたのは気のせいだったのかな?
公園のベンチに着き、二人並んで座る
ここはある意味俺たち二人には思い出深い場所だ
そしてここがもともと今朝の待ち合わせ場所だったはずなんだが・・・
なんでここで朝食食べる事になってるんだろうな?
「じゃ、食べるか」
店で貰った紙おしぼりで手を拭いてから食べ始める
買ったのは二人とも同じ、おにぎりにおかずの付いたパックだ
俺はそれだけじゃ足りないので単品のおにぎりをもう一つ
朝の公園は爽やかで、ただのコンビニ弁当がとても美味く感じられる
その上、隣に座るのがとびきりの美少女だ
・・・まあ園崎だけど
俺にはまだカノジョがいないけど、出来たときはこんな風に一緒に公園で弁当を
食べてみたいな
「経吾、卵焼きもうひとつ食べるか?僕はそんなに食べられない」
あらかた食べ進んだあと、園崎がそう言ってきた
「そうか?じゃあ貰うよ」
俺はそう言って手を伸ばすが、取る前に園崎自身がそれをつまみ上げた
「ほら、口を開けろ」
園崎のその行動に戸惑うが貰うと言ってしまった手前、口を開けるしかない
「はい、あーん」
ご丁寧にそんなセリフ付きだ
ぱく
口を閉じる瞬間、唇に園崎の指先が触れて緊張した
「どうだ?美味いか?」
「・・・俺のと同じ味だ」
熱くなる頬をごまかし、そうぶっきらぼうに答えた
ろくに噛まずに飲み込み、喉がごくりと鳴る
「くはは、そりゃそうだ」
俺の返答にそう返した園崎が、その指先を・・・自分で舐めた
それを見た俺は思わずもう一度喉を鳴らしてしまい、慌てて目を逸らした
逸らした視線の先に犬がいた
えーと・・・ミニチュアダックスフント・・・ってゆうんだっけ?
しきりに尻尾を振ってこちらを見上げている
なんだ?
首輪に付いたリードを辿って視線を移動させる
飼い主とおぼしき女の子が両手を両の頬に当てて赤面していた
ってか、この子は確か先日会った後輩の女子だ
「せせせ先輩方、公園で通学前の早朝デートとか・・・はい、あーん。ぱく。
とかって・・・ラ、ラブラブ過ぎですよぉ」
「いや、ちょっと待て、今日はたまたまでな、
別にいつもやってるわけじゃ・・・」
慌てて説明しようとするが身をくねらせるばかりで聞いちゃいない
「そ、園崎、お前も何か言ってくれ」
って、なんでお前も赤面して俯いてるの!?
「こふん、この事も・・・口外するんじゃないぞ」
「わ、わかりました。誰にも言いませんから!」
園崎の端的過ぎる命令に後輩女子は素直に従う
いや、誤解したままでも口止めしとけば結果は同じだけどさ・・・
取り敢えず話題を変えよう
「お前こそ、こんな時間に犬の散歩か?」
「ハイ、このコ毎朝散歩しないと機嫌悪くなっちゃうんで・・
あ、そろそろ家に戻らないとまた遅刻しちゃう。
じゃあ先輩方、失礼します。デートの邪魔しちゃってすみませんでした」
そう言いながら慌ただしく去って行った
いや、だからデートじゃ・・・もういいや
「あの子、この近所だったんだな・・・、そういえば名前なんていうんだ?」
「・・・・・・・・。」
「園崎?」
「忘れた。・・・・・・し、知りたいのか?経吾」
「んー?・・・・・まあ、いいか。別に用があるわけじゃないし」
「そ、そうだよな。経吾が知る必要は無いよな」
そう言って園崎は何故かほっとしたような顔をして微笑んだ
「じゃあ、そろそろ行くか?」
食べ終わった後のパックなどを袋にまとめながら、そう言ってベンチから
立ち上がる
「ん、もうそんな時間か」
ここから見える公園の時計は、待ち合わせに指定した時間を指していた
ごみ箱にゴミを捨て公園を出る
そして公園から出たところで委員長にばったり会った
「や、おはよ。委員長」
片手を上げてそう挨拶すると委員長は複雑な表情を返してくる
「おはよう義川くん。・・・それと園崎さんも。
今日は遅刻の心配はなさそうね」
「ふ、お蔭さまでな」
こらこらお前ら、朝から不穏な空気を振り撒くな
・・・ホント、どうにかならんのかこの二人は
「まるで待ち伏せしてたようなタイミングじゃないか?委員長」
園崎が挑発するようなセリフを投げかける
「・・・っ、し、失礼ね。私はいつもこの時間にここを通るのよ。
私たち今までよく朝あってたから知ってるでしょ、義川くん」
「か、過去の事などなんの価値も無いな。大事なのはこれからの事だ。
な、経吾」
「あら?いつも前世がどうとか言ってるのに、過去には価値が無いんですって。
義川くん」
「こ、この世界での過去と前世とはその意味がまるで違う。そうだろ経吾」
なんでお前ら俺に同意求めようとすんの?
俺はどっちの味方もしないぞ
女同士の争いに首を突っ込んだらロクな事にならないのは、
姉さんやその友人達とのことで骨身に染みている
でも、微妙に園崎が押され気味だな
まともな論争では委員長の方に分がある
てゆーか園崎、微妙に涙目になってるし・・・
意外と精神的に脆いとこあるんだよな
「それに今日の髪型は何?それじゃあ勉強の邪魔になるでしょう?
学生は学生らしい髪型になさい」
「何を言ってる?僕はいつもと同じ・・・あ、れ?」
園崎は委員長の指摘に怪訝な顔をするが、ハッとして
いつも髪留めをつけてるあたりを手で探り始めた
「あ、れ?おかしいな・・・無い?」
この髪型はわざとじゃなかったのか
「園崎、つけ忘れて来たんだろ?」
「そ、そんなはずはない」
俺のセリフにも園崎は否定の言葉を出す
「いや、でも最初からつけてなかったぞ。お前」
「え?・・・でも、家を出るまえに鏡でちゃんと確認したんだ」
園崎はあくまでつけ忘れたことを否定した
「じゃあ園崎さん、どこかに落としてきたんじゃないの?」
と、委員長
「そ、そんなはずは・・・」
園崎は記憶を探るように考えこんだ
あれ?
なんか久しぶりの感覚が沸き起こってきた
この言いようの無い不安感が背中を駆け上がってくる感覚
なんか、
物凄く悪い予感がする
「・・・あ、そうか!」
園崎がはっと顔を上げて俺に顔を向けると、
「多分、経吾のベッドの中だ。一緒に寝てた時にとれたんだと思う」
と言った
俺達(園崎除く)の周りの空間が凍りついた
(つづく)
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