第7話 少しずつ埋められていく外堀

「全く・・・迷惑この上ないな」


放課後の帰り道


園崎は俺の隣を歩きながらそう毒づいた


結局、俺達が件のラブシーンを演じたカップルとはバレずにすんだ


怪しまれたのは校内でも公認の彼氏彼女の関係にある男女だったから、

その線から俺達に疑いの目が向けられることは無かったのだ


ケンゼンな付き合いをしているカップル達にはいい迷惑だったろう


問題の男女が見つからなかったものの、校内で不謹慎な行為があったということから、逢い引きが行われそうな場所を教師及び風紀委員が見回ることになったらしい


特に旧校舎はそういう死角が多いため監視の目はより厳しいものとなった


もっとも、屋上自体は施錠されていて生徒が入れないというのが周知の事実なので監視の対象外だ


だから屋上内は安全といえなくもないが、万が一出入りしているところを見られでもしたらそれこそ大問題になるだろう


しばらくほとぼりが冷めるまで例の前世ゴッコはお休みという訳だ


「まあ、十日もすればほとぼりも冷めるだろ。そうしたらまた屋上に入れるさ」


「全く・・・どこの色ボケどもか知らんが、とんだ迷惑だ」


・・・いや、俺達なんだけどな


俺は心の中でツっこむが、あえて園崎に説明するのは止めておいた


自覚がないならそのままにしといた方がいい


園崎が余計なことを言ってバレるかもしれないからな


「むう、・・・あ、クロウ」


憮然とした顔をしていた園崎が視線を横に向けて立ち止まった


「今日は寄らないぞ。そんな毎日行けるほど俺は裕福じゃない」


視線の先を目で追った俺はそう釘を刺した


「むうう・・・」


園崎は眉間に皺を寄せ名残惜しそうにゲーセンを眺めながらも歩き出した


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「じゃな、・・・そういえばお前ってどこから通ってんの?」


駅の改札について路線図が目に入った俺は、なんとなくそんな事を尋ねる


「二駅隣の藤咲喜町だ。電車で十五分くらいかな・・・。そういうクロウこそ、この世界での潜伏先はどこなんだ?」


「潜伏してねー!人を犯罪者みたいに言うな、人聞きの悪い」


俺は瞬時にツッコミを入れる


「くはは、スマン。拠点と言ったほうがいいか?」


「言っとくけど普通の住宅だからな。城みたいでも砦みたいでも塔みたいでも

ないからな」


俺はジト目で前もって釘を刺す


「解っているさ。そんなんじゃ目立って仕方ない。

あくまでも外観は普通の家に擬装しなければな」


・・・いや、中も普通だから


「・・・どこにでもある普通の一般的な住宅だって・・・

駅を越えた向こう側の住宅街だ」


「ふうん・・・」


園崎が何か考え込む表情になる


「お、ちょうど電車来たみたいだぜ」


列車が左手からやってくるのが見えて俺はそう言った


「じゃな、また明日学校で」


俺は軽く手を挙げてそう言うと園崎と別れて歩き出した



踏切へと向かい降りた遮断機の前で待つ


程なくして園崎を乗せた列車が通り過ぎる


いつもは窓から顔を見せてこちらに軽く手を振ってくるのだが、

今日は姿が見えなかった


列車が過ぎ、遮断機の上がった踏切を渡って駅の反対側へと向かう


小さな商店街を抜けてしばらく歩くと一戸建てが建ち並ぶ住宅街となる


そのうちの一軒、ごく普通の・・・周りと同規模の住宅が我が家だ


改めて見るまでもなく、ごく平凡で標準的なサイズの一戸建て


「ま、普通だよな」


母さんが結婚してここに越してくるまでは狭いアパート暮らしだった


それに比べれば一戸建てであるだけで贅沢の極みだ


「うむ、完璧にごく普通の住宅へとカモフラージュしてある。流石だな、クロウ。だが、僕には分かるぞ・・・この周辺に強大な魔力障壁が張り巡らされている。これは霊的な規模では城塞と呼んでも差し支えないほどだ」


「いや、そんな魔力とかねーから・・・・って、なんでいる!?」


思わず反射的にツッこんでしまったが、俺の隣りで腕組みして俺ん家を見上げ、

うむうむなどと頷きながら感心した表情を作っているのは紛れも無く

さっき別れたばかりの園崎だ


「くくっ・・・忘れたか?僕のクラスはアサシンだ。

気配を殺して尾行するなど造作もない」


尾行って・・・ストーカーかよ!?


「ど、どういうつもりだ一体?」


狼狽する俺に背を向けると彼女はボソボソと、


「いや、その・・・お前の家に遊びに来たかったんだ。

言っても断られそうだったから黙ってついて来た・・・」


と言った


そしてくるりと振り返ると、


「でも、ここで帰れとか言うなよ。それって・・・酷いぞ!」


唇を尖らせてそんなことを怒鳴った


逆ギレかよ・・・目茶苦茶だ


いつもながらなんて強引な奴なんだ


「はあ・・・」


諦めた俺は大きく溜息をつくと玄関のドアを開け、


「じゃあ、まあ・・・入れよ」


と彼女を促した



「ふむ、これがクロウの家か・・・」


「別に珍しくもない普通の家だろ?」


俺の家は自分で言うのもなんだが、ごく一般的なサイズと間取りの住宅である


玄関を入って靴を脱ぐとリビングの方からテレビの音が漏れ聞こえてくる


『母さんはリビングか・・・』


目の前には自分の部屋がある二階に上がるための階段がある


さてどうするか


ちらりと彼女を横目で見る


いま気付かれずに部屋に上げるのは簡単だ


しかし、帰るときもそううまくいくとは限らない


第一、玄関に女物のローファーが置いてあればバレバレだ


下手に隠して後で見つかったら余計面倒な事になりそうだ


俺は意を決してリビングに続くドアに手を掛けた


あける前に後ろの園崎に、


「お前は余計なことは言わなくていいからな、

ただ黙って頭を下げる位でいいから」


そう言っておく


ドアを開けると母さんがソファーに座ってテレビを観ていた


画面にはワイドショー番組が映っている


「た、ただいまー・・・」


控えめに声をかけると


「ああ、おふぁえり」


と、お茶請けに食べていたらしい煎餅をくわえたまま母さんが振り返った


隣に立った園崎がぎこちない動きで頭を下げた


気のせいか表情が硬い


だがそんな彼女に対して母さんは『フゴッ』と変な声をあげると動きを止めた


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・・・。




数秒の沈黙




「か、母さん?」


困惑して声をかけると、


『ヒュゴ』という息を漏らしたあと、ぜはぜはと肩を上下させる


「ちょっとあんたねえ女の子連れてくるなら連れてくるって電話くらい前もって入れなさいよねあまりにも予想外のことにお母さんびっくりして息止まっちゃったわよ!!」


と、一息にまくし立てると今度は園崎に向かって、


「ほほほほ、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」


などと笑いかけた


彼女は圧倒されたように半身を反らせながら、


「ど、どうも」


と言った


「え、えーと、クラスメイトなんだ。ちょっと遊びに寄っただけだから・・・・い、行こうぜ」


俺はそう早口に説明すると園崎を促してリビングを出た


「経吾」


背中に声をかけられ振り返ると、

母さんがにんまりとした顔でサムズアップしていた


・・・だから、そーゆーんじゃねーから


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「おお、ここがクロウの部屋か。ふむ、割と綺麗に片付いてるじゃないか」


部屋に通すと彼女は物珍しそうにキョロキョロと見回しながらそんな事を言った


母さんが頻繁に掃除機をかけに来るので床の上は綺麗だ


基本的に床の上が散らかっていない限り、掃除機をかける意外は

部屋の物には手を触れないのが母さんとの暗黙の決まりになっている


しかし、こうして見ると自分の部屋の中に制服姿のクラスメイトがいるという

状態が、絵づら的にはめ込み合成したみたいに現実離れしている


前に一度姉さんに「これやってみ!神ゲーだから!やってみ!」とか言われて

渡されてやったことがある恋愛シミュレーションゲームの画面と被って見えて、変な気分になる


自分の部屋に女の子が居るという状況にどうにも落ち着かない


ベッドをついつい見て変な想像をしてしまう


「あー、なんか飲み物でも持ってくるわ。テキトーに座っててくれ」


気恥ずかしさを誤魔化してそう言うと鞄を床の上に置いて部屋を出た


少し頭を冷やそう


台所で何か無いかと漁っていると母さんがにんまりした顔で声を掛けてきた


「経吾もなかなかやるわねえ、物凄い可愛い子じゃない。

あんた、あんな上玉どうやって落としたの」


「上玉言うな!てか、落としてないし。カノジョとかそおゆうんじゃねえから。只の・・・クラスメイトだし」


只の・・・か?まあ、只者じゃないのは確かだが


「ふーん・・・、只のクラスメイトの男子の家に、女の子がのこのこ付いてくるかしらねぇ?」


にやけ顔の半眼でそう言ってくる


「まあいいわ、うまくやんなさいよね。こんなチャンス逃す手は無いわよ・・・でも焦りは禁物よ。いきなり押し倒したりとかはダメよ。

とにかく女の子をその気にさせるにはムードが大切だからね」


なんかやけにテンションが高い


俺はとりあえず聞き流しつつ適当に茶菓子を見繕ってお盆の上にのせ、

来客用の湯飲みに急須で緑茶を煎れた


紅茶なんて洒落た物はウチには無い


「そうだわ、お母さん、ちょっと買い物に行く用事があったんだわ」


突然思い出したようにそんな事をわざとらしく言い出した。棒読みで


「だからそおういうんじゃないから・・・変な気を遣うな!」


俺はそう言ってお盆を手に歩き出した


「あ、経吾!アレは?アレはちゃんと持ってる?」


「・・・あれって?」


俺は振り返りながら聞き返す


「決まってるじゃないの!コン・・・・」


俺は母さんのセリフが言い終わる前に台所のドアをバタンと閉めた



まったく、なんなんだあの軽いノリは


・・・まさか俺のこともあの軽いノリで作ったんじゃないだろうな


俺は階段を上りながらそんな事を考え、自分の出生に関する一抹の不安を覚えた


自室のドアの前に立ち一度深呼吸する


いま自分の部屋の中に女の子がいる


まあ、ちょっと・・・いや、かなり変わっているが女の子であることには

変わりない


容姿だけで言うと最上級の・・・


その事実を意識すると部屋に入るのに妙に緊張する


胸の鼓動が高まり血液量が偏っていく


・・・上と下に


・・・って、いかんいかん俺。落ち着け!


深呼吸して血液量の偏りを修正する


そのとき階下で玄関のドアが開いて、閉まる音がした


って、母さん本当に出掛けた?!信じらんねえ!


ラブコメなんかじゃ、エッチな展開になりそうなタイミングでお茶持って乱入ってのが母親としてのポジションじゃないのか?


女の子と家に二人きりとか冗談きついぞ


・・・再び深呼吸


何とか平静を取り戻すと俺は意を決してドアを開けた


「フゴッ?!」


だが部屋に入った瞬間、

目に飛び込んだ光景に俺は思わず変な声と共に呼吸が止まった






・・・・園崎がお尻をこちらに向けて四つん這いになっていた



スカートの上からでもよく分かる、形のいい丸みを帯びた柔らかそうな尻が

ふりふりと左右に揺れている


そんなあられもない体勢で彼女が何をしていたかというと・・・・




俺のベッドの下をごそごそと漁っていた



改めて言うまでもなく思春期男子のベッド下は聖域であり

当然のごとく俺の場合もそうである


それは家族にさえも秘匿され、

お互いを真の友と認めた男同士にのみ開示される神聖にして不可侵の場所


そこをクラスメイトの女子が侵略しようとしていた


・・・え?ナニこの状況


彼女の予想外の行動とスカートの裾から覗く白く滑らかな太腿に

俺の思考がフリーズする


なに?なんで俺のベッド下漁ってんのこの女?やめろって、

そこにある段ボール箱の中には俺の秘蔵コレクションの全てが・・・・・

うお、柔らかそうなフトモモが・・・内モモのラインとか絶妙・・・

じゃなくて、止めさせねーと・・・・・って尻をもぞもぞ動かすな!

見えちまうぞ・・・・っていうか今チラッと・・・薄緑色の・・・・パ・・・!?・・・見え・・・?えぇ!


「よ・・・・っと」


とうとう俺のベッド下に隠されたパンドラの箱を探し当てた彼女は

それを引きずり出し、床にぺたんと尻をつけて座った


その瞬間俺はやっと彼女のスカート裾の呪縛から解放された


リソース不足で止まっていた思考が再び動き出し、

俺の脳は深刻なエラーから回復した


「って何やってんの?!お前」


我に返った俺は手に持っていたお盆を机に置くと慌てて彼女の手から

箱を奪い返そうとする


「おお、クロウか?・・・いやなに友人の部屋に遊びに行ったときの

お約束的行動をだな・・・」


しれっとそんなことを言う


俺は苦い顔で


「それは男子同士の場合だ」


と言うが園崎は、


「うん?僕は男子のつもりだが」


などと軽く小首を傾げてそんなことを言うが、

そんな可愛らしい仕草をする男子はいない


「お前が前世では男だったっていう主張は置いといて、今現在この世界じゃ

れっきとした女子だ!」


「まあそんな堅いこと言わなくてもいいじゃないか・・・僕はお前の性的嗜好に興味があるんだ」


言いながら彼女は箱の中をゴソゴソと漁り始める


「バッ、やめろって」


「ふむ、女子高生制服モノが4冊に巨乳モノ3、メイドコスプレモノ1、

職業コスプレモノ1・・・か、意外と少ないな」


「なんで瞬時にジャンル分けしてるんだよ!?」


床に並べたそれを眺めながら園崎は考え込むように眉根を寄せる


「SMモノとレ●プモノが無いな?

てっきりそれが最も多いと思っていたが・・・予想が外れた」


「なんだその失礼な予想は!?俺を何だと思ってるんだ」


園崎の偏見に満ちた俺像に異を唱えるが、


「サディスティックなクロウなら大好物のジャンルだろう?」


不思議そうな表情でそんなことを言う


「だから・・・お前が言う俺の前世がどうだかは知らないけど、

今この世界のこの俺は極ノーマルだ」


どんなイメージだよ・・・名誉毀損も甚だしい


「そうなのか?まあそれならそれで別に・・・

正直僕もあまり痛いのは好きじゃないし・・・」


「ん?なんだって?」


何かもぞもぞ言っていたがよく聞き取れなかった


「ふむ、しかし見たところ女のグラビアばかりだが・・・もしかしてクロウ、

男には興味がないのか?」


更なる失礼発言が飛び出した


「あってたまるか!」


怒りを押し殺してそう答えると彼女は驚愕の表情を浮かべる


「な・・・!男は好きじゃないのか?」


「好きじゃねえ!なんだその驚いた表情は?確かに今まで女っ気なんて全然なかったけど俺はホモなわけじゃない」


「ふむ、そうなのか?・・・ちなみに僕は男同士がいちゃいちゃと組んずほぐれつするコミックなどが大好物だ」


さらりと腐女子的趣味嗜好をカミングアウトされた


俺は多少引きつつ耳にフィルターをかけることにする


過去の経験上この手の話しをまともに聞いていると精神が著しく疲弊する


「グヒュヒュ・・・前世では僕とクロウも・・・くひゃひゃ・・・

くんずほぐれつ・・・・ふひゅひゅひゅ・・・」


何やらぶつぶつと呟いては身をよじりながらおかしな笑みを浮かべている


聞こえない聞こえない。俺は何も聞こえない


「はふう・・・それで?この中ではどれが一番のお気に入りなんだ?」


ひとしきり身悶えたあと園崎がそんなことを聞いてきた


「・・・っ、そんなのどうだっていいだろ?返せ!」


俺は必死にグラビアに手を伸ばすが彼女は器用にかわす


「ふむ、これか?女子高生制服モノ・・・

『放課後クラスメイト―秘蜜の課外授業―』」


「バ・・・タイトルを音読するな!返せっての」


慌てて奪い返そうとして手を伸ばすが、

膝立ちだったためバランスを崩してしまう


その結果、縺れ合うように床に倒れてしまった


園崎の上に覆いかぶさるような体勢になって両手両足をつく


そして勢い余った俺の右手は彼女の胸の上に・・・


などというラブコメ的お約束はどうにか回避したが

彼女の両足の間に片膝をついた態勢は色々とマズイ


「わ、悪い」


俺は慌てて身を起こすが彼女はさして気に止める様子もない


それどころかそのまま身体を回転させると、俯せになって手にした

グラビアのページをめくり始めた


俺は言葉を失って膝立ちのまま固まってしまった


部屋の中に彼女がページをめくる音だけが響く


「なあ・・・クロウ?」


不意に声を掛けられ俺は現実に引き戻された


抑揚の無い平淡な声にギクリとする


彼女の腰から太股にかけての柔らかい曲線に知らず視線を落としていたのを

見咎められたかと思い肝を冷やす


だが、振り返った彼女の顔にはニンマリとした笑みが浮かんでいた


その表情に嫌な予感を覚え彼女が開いているページに気付きギクリとする


表情を強ばらせる俺に対して彼女はまるで他人の秘密を暴き出す事を生き甲斐にしている悪魔のような声音で言った




「このページの制服のデザイン・・・うちのに似てるよな」



!・・・なんて目ざとい奴だ


気付きやがった


俺は床に両手を付き、うな垂れた


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


引っ張り出されたグラビアを全て箱の中に回収したあと、

俺は園崎に散々からかわれながら茶をすすっていた


「なあ、さっき女っ気がないと言っていたよな?もしかしてクロウは・・・

ドーテーなのか?」


「ブフォ」


噴いた


男子からならともかく女子からその質問が呈されるとは夢にも思わなかった


げふげふと咳込む俺を見ながら彼女はくははと笑う


「そうなのか?やはりそうなんだな?

そうか、この世界ではクロウはまだドーテーか」


愉快げに彼女が笑う


嬉しそうに笑うなよ、ったく・・・


「・・・まあ、魔の力を取り戻していないなら仕方ないよな、

この世界ではレ●プはリスキーだ」


「ちょ!?何言ってんのお前?」


お前が抱いてる俺のイメージってどんだけ悪人なの


「それで仕方がないから、さっきのグラビアを使った妄想でクラスの女子を

脳内レ●プしているわけだな」


「だから!なんでレ●プなんだよ」


俺のベッドに寄り掛かりながらアホな事言うな


「で、クロウはいつも誰のことを脳内レ●プしているんだ?」


「な、べ・・・別にそんな誰かなんて特に・・・」


「!・・・全員を代わる代わるか・・・相変わらず鬼畜な奴だ」


「だから!なんでそうなる!」


思わず半ギレでツッコむ俺に対して彼女はまた愉しそうな笑い声をあげる


だいたい俺ばっかりバカにするが当の自分はどうなんだよ


「・・・・・・」


「ん?」


「いや、なんでも・・・」


ふいに浮かんだ疑問に思考が止まり黙り込んだ俺に彼女が小首を傾げる


園崎はしょ・・・処女・・・なのかな?・・・いや、別にそんな事

どうだって構わないけどな


男性経験があろうが無かろうが俺には関係・・・無いし


「それじゃあ・・・好きな女とかは、いないのか?」


園崎がそんなことを言いながら探るような視線を送ってくる


「と、特に今のところは・・・いない」


いても教えないけどな


「本当か?例えば・・・」


言いながら園崎は視線を窓の外に向ける


「あの女は・・・どうなんだ?」


「あの女?」


誰の事だ?


「ほら眼鏡の・・・。け、結構親しげに、話したりしてるじゃないか」


「ああ、委員長か。まあ、委員長とは前も同じクラスだったし、

よく話すかもな・・・でも、別に俺とだけ特別親しいわけじゃないだろう?

あの娘は誰にでも優しいからな」


まあ、何故か園崎とは相性が悪いみたいだけど・・・

本当、なんで園崎相手にはケンカ腰になるんだろう


「タナカの奴も、しばらく前に

『もしかして委員長って俺に気があるんじゃね?』とか言っててさ。

自信満々でコクって丁重に断られたことがあるんだぜ」


「そうなのか?くはは・・・あの男らしい」


まあ、今はフジモリさん狙いだけど


「じゃあ・・・経吾はあの委員長に特別な感情を持っては・・・

いないんだな?」


「ああ、俺はそれほど自意識過剰じゃないよ」


博愛的な愛情を自分だけに向けてるなんて勘違いするのは、

委員長にとっても迷惑な事だろう


「そうか・・・それを聞いて安心した」


「ん?」


「い、いや、アレだ、その・・・お前が委員長の優しさを勘違いして告白とかしてそのあげく盛大にフラれたりするところを見るのは・・・『真友とも』として忍びないと思ってな」


・・・失礼な心配をするな


憮然としている俺に園崎は急に向き直るといつになく神妙な面持ちになった


「なあ経吾・・・もし、誰か好きな女が出来たら・・・ぼ、僕にちゃんと

教えるんだぞ・・・僕達は真友なんだから・・・か、隠したりするなよ」


彼女の真剣な眼差しに気圧されて俺はただ、


「わ、わかったよ・・・」


としか答えられなかった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


帰る園崎を駅まで送るため家を出て、二人で並んで歩く


彼女は上機嫌で、ときたま俺の顔を見ると意味もなく、くふくふと笑った


「くはは、今日はとても楽しかった。いろいろと経吾の事、知ることが出来て

有意義だったぞ」


俺は知られたくない事を色々暴かれて散々だったよ・・・


「また遊びに来てもいいか?」


俺はわざとらしく一つため息をつくと


「どうせ来るなって言っても来るんだろ?今度は前もって言えよな?

だまって尾けてくるのは無しだぞ」


と答えた


「わかった。今日も・・・断られたら帰るつもりだったんだ。

ありがとう、経吾」


色々言いたいことはあったが、そんな顔でそんな事を言われたら、

なにも言うことが出来なくなる


まったく・・・甘すぎるだろ、俺


「経吾は優しいな。これからもその優しさにつけ込ませて貰おう」


「って、つけ込むなよ!」


なんて奴だ!


「くははは・・・・ここでいい。じゃあまた明日な経吾」


ツッコむ俺に対して朗らかな笑い声でそう言うと彼女は駅の方へと走って行った


俺はそんな彼女の後ろ姿を苦笑して見送った


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


コンビニで雑誌を立ち読みしてミニサイズの羊羹を買い、それをかじりながら

家路につく


・・・いや、羊羹好きなんだよ。いいだろ別に



玄関に入ると母さんが満面の笑みで出迎えてきた


「どうだった?うまくいった?」


やたらとテンションが高い


「いや、だからそんなんじゃないから・・・普通に話ししてただけだから」


・・・・普通か?


そして夕食の食卓についた俺はさらにげんなりした


刺身に天麩羅、おまけにご飯は赤飯だった


いや、美味かったけどさ


食事中、園崎のことを色々聞かれ実に参った


早々に夕食を済ませて母さんの質問攻めから逃げ出す


風呂から上がって自室へと入り、やっと一息ついた


「はあ、今日は疲れたな・・・」


最近、精神的疲労が激しい


あらためて部屋の中を見回す


いつも通りの俺の部屋・・・


ここについさっきまで女の子がいたなんて現実感がない


でも紛れも無い事実だ


「ふう」


しゃがみ込んでベッドにもたれ掛かる


背中と後頭部が沈み込む感触が心地好い




・・・そういえば園崎もさっきこの辺にもたれ掛かってたよな・・・



「・・・・・。」


ゆっくり首を動かし布団に顔を埋める


深く息を吸い込むと微かに甘い匂いがした


・・・って、ヘンタイか俺は!


勢いよく身を起こして身体をベッドから引きはがす


たく・・・、俺はタナカじゃねえっての・・・・・・・ん?


右目の視界に違和感を感じる


瞼に何かついている


指でつまんで取るとそれは一本の髪の毛だった


長さ的に俺のじゃない


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


ヤバい・・・


ヤバいヤバいヤバいヤバい!


急激にムラムラが込み上げてきた


唐突にフラッシュバックのように先刻の光景が脳裏に甦る


四つん這いになった園崎


チラリと・・・でも確かに見えたスカートの奥の・・・



パステルグリーンの布地


俺は常に紳士たらんと考え行動してるつもりだ


だが、決して聖人君子なんかじゃない


肉体は健康そのものな思春期真っ只中の男子であり、

一度沸き上がった情欲を抑えるのは容易じゃない


まして、自分一人のプライベート空間ならなおさらだ


・・・・・・


・・・・・・・・・・


・・・無理に抑えることが出来ないなら取るべき手は一つ・・・


エロにはエロ!


別のエロで上書きすればいいのだ!


俺はベッド下のパンドラの箱へと手を伸ばした


絶望の中、ただ一つ残ったと言われる希望を求めて!






・・・・・・・あれ?・・・・・無い



箱を開けて中身を見た俺は愕然となった


例の一番お気に入りのグラビアが消えていた


園崎が引っ張り出したグラビアは全て箱に戻したはずだ


なのにどうして・・・・




あの時か!?


思い当たる事がある


『お茶のおかわりを貰えないか?』


そう催促されて一度部屋を出た、あの時以外考えられない・・・


あ、あのアマァ・・・・


俺の園崎に対するムラムラはムカムカへと変わった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


翌日の教室


自分の席に座った俺は仏頂面で隣の席の主が登校してくるのを待っていた


アイツが勝手に持ち去ったグラビアを早く回収しないと落ち着かない


まさか教室で広げたりはしないと思うが、

万が一あの内容がクラスの女子たちに知れたらドン引きされるのは間違いない


「よお、義川。・・・なんだよ朝からシケた顔してんなぁ」


失礼な挨拶に顔を上げるとタナカが立っていた


「よ、シケた面は生まれ付きだ。ほっといてくれ」


「なんだ、また園崎絡みでなんかあったのか?」


隣の席をちらりと見ながらニヒヒと笑う


「しかしお前も厄介な女に気に入られたもんだよなあ。

アイツ見てくれはいいけどそれだけだしなあ」


などと好き勝手なこと言い始める


だいたいあのグラビアにしたって、元はと言えばコイツが見つけた物だったんだ


去年のクリスマス近くの日、コイツとサトウと三人で学校帰りに寄った本屋


そこでコイツが『これウチの制服に似てね?』とか言い出して、

なんか盛り上がってその場の勢いで三人して一冊ずつ買ったものだった


その後、俺達はモデルのコが履いているニーソックスについて黒ニーが最上、

いや白ニーが最高だろう、バカ言え縞ニーこそ至高だ、などと激しい論争を

小一時間ほど繰り広げた


・・・アホな事を思い出してしまった


俺は机に突っ伏して頭を抱える


「おはよう経吾、くくく・・・、どうした?

朝から仄暗いオーラを立ち上らせて」


と、からかうような声がかけられた


その声は紛れもなく今俺を悩ませている張本人の物だ


「って、誰のせいだと、だいたいお前が・・・!」


がばと顔を上げ文句を言おうとした俺は園崎の姿に言葉を失う


腰から上はいつも通りの園崎だったが下が違っていた


ほぼ標準丈だったスカートが、クラスの大多数の女子がするように

折り返して短くしてあり、そこからすらりと伸びた脚には・・・



白と水色のシマシマのニーソックスが穿かれていた



彼女の姿に気付いたクラスメイトからざわめきが起こり隣でタナカが

目を丸くしている


園崎はそんなクラスの反応など意にも介さず


「くふふ、どうだ?お前の大好きな縞ニーソだ。

昨日の帰りに立ち寄った店で目に入ってな、購入したんだ。

制服の中もお揃いの縞しまだぞ。3点セットでお得だったんだ」


などと口走った


男子からはどよめきが巻き起こり、女子達はドン引きしていた


「あ、あの園崎にあんな格好を・・・!」


「スゲェ義川・・・、マジ半端ねェ!」


「勇者・・・いや、闇勇者?」


「見える・・・俺には見える・・・奴の背中から立ち上るドス黒いオーラが!」


俺は気が遠くなり再び机に突っ伏した


(つづく)

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