VS 無限コツメカワウソ
のこのこのこ
戦いが始まる
楽しさ求めて三千里、今日のコツメカワウソはじゃんぐるちほーを飛び越え、へいげんに来ています。
といっても、へいげんは通過点のようで、目的地はその先にあるようなのですが……
「おお! 面白そうなフレンズはっけーん!」
目の前にある面白そうなことに飛びついてしまうカワウソの性、本来の目的も忘れて走り出します。
「ヘラジカ様、誰かが近づいて来ますわ!」
「怪しいフレンズかも、ですぅ!」
どうやらカワウソが発見したのはヘラジカ御一行のようです。
「あはははは」と笑いながら接近してくる謎のハイテンションフレンズにその配下たちは警戒しますが、ヘラジカはその正体に気づきます。
「あれはカワウソだ」
「あー、巨大セルリアンと戦った時に一緒にいたフレンズかぁ!」
「拙者、怖くて姿を消してしまったでござるよ……」
敵ではないと分かり安心するヘラジカ御一行。
その目の前に立ったカワウソはヘラジカにこう言います。
「ねーねー、ジャガーから聞いたよ! ヘラジカってすっごく強いんでしょ?」
「うむ、その通り。私は強い!」
腕を組み自信満々にヘラジカはそう答えます。
「それと、ヘラジカと戦って楽しかったー! とも言ってたよ!」
「うむ。勝負によって互いを高め合うことは、また楽しいことでもあるからな」
「じゃあさじゃあさ! 私とも戦ってよ!」
「な、なに?」
「それは無茶だよ~、一瞬でけちょんけちょん! だよ!」
「力に差がありすぎる、ですぅ」
「そうだ、普通に考えれば私の勝ち……だが、あいつの目を見ろ!」
その場の全員が言われた通りにカワウソの目を見ます。当のカワウソは、なぜ自分が見つめられているのか分からず、笑顔で首を傾げています。
「……なにも考えてなさそうな目でござるが……」
「いいや、私には分かる! カワウソの目からは強い闘志が感じられる!」
「そ、そう言われると……確かにそう見えてきましたわ!」
ヘラジカが「そうだ!」と言えば皆も「そうだ!」と言い、ヘラジカが「違う!」と言えば皆も「違う!」と言う、それが良くも悪くもチームヘラジカでして、配下の皆は旗を掲げ、ヘラジカの応援体制に入ります。
そしていよいよ、カワウソとヘラジカが向き合って……
「では、勝負始め、ですぅ!」
「あははは、わーいわーい!」
「うおおおおおおおお!!」
いつものように真正面から突撃するヘラジカに対し、カワウソもいつものように何も考えず、そのままぶつかっていきます。
戦術も何もない、ただ力だけの勝負――その結末は、
「わーい! 吹っ飛ばされるぞー!」
「流石ですわ!」
「ほらー、ヘラジカ様の前には敵じゃなかったんだよ~」
面白いくらい吹き飛ばされたカワウソ、それを見た配下たちから大きな歓声が上がります。
早くも祝杯ムードが高まる中、しかしヘラジカだけは堅い表情を崩しません。
「という訳で、勝者はヘラジ……」
「待て!」
ヤマアラシが勝者を宣言しかけ、ヘラジカに止められました。
「し、しかし今の一撃で、カワウソはノックアウトのはず、ですぅ!」
「……」
先ほどの衝撃でヘラジカの前方にモクモクと舞い上がる砂埃、その中で横たわる人型のシルエット……それが突如立ち上がります!
「わーい! もういっかーい!」
「やはり立ち上がったか! カワウソよ!」
ヘラジカの馬鹿力をモロに受けたのにも関わらず、カワウソはケロりとして、笑顔でヘラジカに向っていきます!
そして再び、ヘラジカがそれを吹き飛ばします。
「今度こそ、やったでござるか!?」
「そ、そうみたい、ですぅ。勝者、ヘラジ……」
「わーい! たーのしー!」
「ままま、また立ち上がってきてるよ!?」
その後も、ヘラジカは向かってくるカワウソを迎撃し続けますが、いくら吹き飛ばしても、いくら吹き飛ばしても、カワウソは立ち上がってきて、またあのキリリとした笑顔でヘラジカに向ってくるのです。
カワウソには強い力も、強い身体もありません。あるのは、楽しさへの無限の希求心のみです。そして今、カワウソはヘラジカとの勝負をサイコーにたのしーと思っています。それの示すところは……
「あはははは! おもしろーい!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「また吹き飛ばしましたわ! でも……」
「また立ち上がって来るんだから、これじゃ埒が明かないよ~!」
「これでは負けはしなくても、勝てないでござる……」
それからも同じことが続き、勝負が始まって実に五時間です。
戦況は全く変わらない――かのように見えますが……?
「くっ……あ、足が……」
有り得ないくらいの長丁場の試合、徐々にヘラジカの身体を疲れが蝕みます。
「ね、ねぇ、ヘラジカ様、ちょっとしんどそうじゃないかな?」
「足がガクガクしている、ですぅ」
ヘラジカの変調に配下たちも気づき始めたとき、ついに戦況が動きます。
ついにあのヘラジカが、疲労に耐えかね膝をついたのです!
「くぅっ……」
「わーい! チャンスだぞー!」
「なんのこれしき……どりゃあぁああ!!」
なんと、ヘラジカは上体の力だけでカワウソを吹き飛ばします!
しかしその気迫も虚しく、やはりカワウソは立ち上がります。
「ヘラジカ様! もうおやめ下さい!」
「これ以上は身体が危険でござる!」
配下たちもヘラジカを心配して声をかけます。それでもヘラジカは試合を棄権したりはしません。
「私は、私は……負ける訳にはいかない! 私の敗北は我々の敗北……負け知らずの我々に、私のせいで泥を塗る訳にはいかない!!」
「ヘラジカ様ぁ……かっこいいですわ、ぐすっ」
「あれー、でもさ、私たちライオンに51連敗してたよね?」
「しー! せっかく良いところなんだから静かにする、ですぅ」
そしてそのときでした。
「もういっかーい! どりゃー!」
幾度となく繰り返されたカワウソの突撃、すでに限界を迎えているヘラジカの身体はそれを受け止めることができず押し倒されます。
「そんな、ヘラジカ様ぁ! 立つですの!」
「頑張るでござるよ!」
配下たちがヘラジカを必死に応援します。ヘラジカもそれに応えようとしますが、身体が動きません。
「……勝者、カワウソ、ですぅ!」
「わーい! やったー!!」
そしてついに、ジャパリパーク史上、最長最高の試合が幕を閉じたのです。
「負け、か……すまん皆……しかし、いい勝負をありがとうな、カワウソ」
「たのしかったね、たのしかったねー! ねえねえ、もう一回やろーよー!」
「え、いやそれはだなあ」
「あ、あのヘラジカ様が押されているでござる……」
「カワウソ恐るべし、だね……」
5分ほど休憩して、ようやく身体が動くようになったところで、ヘラジカはカワウソに今更な質問をします。
「ところでカワウソはどうしてここに?」
「えっと……そうだ! 私PPPライブを見にいく途中だったんだ! もう終わっちゃったよ」
「そうだったのか……で、私たちは何の途中だったんだっけ」
ヘラジカのこれまた今更な疑問に、今までずっと黙っていたハシビロコウが口を開きます。
「その、ライオンとの『たまけり』の約束に向かう途中、だったのでは」
「あああああーー!! 忘れてたー!!」
「絶対ライオン、怒ってる、ですぅ!」
「なんで今まで黙っていたのですの!?」
「その、いい勝負に、私も感動しちゃって……」
疲れもどこへやら、「またなカワウソ~!」と言葉だけ残して走り去るヘラジカ御一行。
それに手を振り見届けたカワウソは、PPPライブは残念だったけど、今日も一日楽しかったなー! と満足気な表情を浮かべるのでした。
VS 無限コツメカワウソ のこのこのこ @nokonokonoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます