星ノ巫女番外編 イロハと客人神様 下
地にかまいたちの様なものが走り、イロハ目掛けて飛んでくる!
(身体が軽い!)
ジュバァ─ー!
ジュバァァ──!!
それを次々とかわすイロハ!
(見える! 体が動く! 速い攻撃だけどかわせる!)
「ほらほら、いつまでもそこにいると大変よ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
突然地響きが鳴り激しく地面が揺れる……そして……。
ズドーン!!! シュバァァァァァアァァア────!!!
「うわぁぁぁ!?」
目の前から火の柱が噴出した!!
慌てて辺りを見渡すと、そこいら中の地面から火がどんどん噴出する。吹き上がった火は溶岩を撒き散らし足元が熱くなってきた!
「ちちっ!」
堪らず思い切り飛び上がるイロハ!
「そのまま! そのままよ! できなければ下に落ちて死ぬわ!」
宙に浮けと言うのか? そんなことできる訳が無い! 一度飛び上がったイロハの身体はゆっくりと地面に近づいていく……。下を向くと眼下に赤く煮えたぎる大地が広がっていた。噴出した溶岩が賽の河原を埋め尽くしたのだ!
「下ばかり向いては駄目! 想いで身体を動かすの!」
「ほだごと言っても……! 」
だがこのままでは落ちて死ぬのは確実……。とにかく上を見上げ浮くように念じるイロハ。するとさっきより落ちる速度が激減した。
(浮け! もっと高く!)
ゆっくりと身体が浮き上がり、女がいる高さと同じくらいになった。
「それだけでは駄目ね。こんな風に狙われたら一溜りも無いわ」
「!!」
気が付くと女は、どこから出したのか弓を手にイロハを狙っていた!
引き絞られた弓から矢が放たれる!
ビュン!
「くっ!」
辛うじてかわすも第二射が飛んできた!
(右に飛べ!)
シュッ!!
「うわっ!」
肩をかすめた! そのまま右に移動し続けるイロハの身体!
しかしその先には吹き上がる火の柱が!!
「あらあら」
(……駄目だ!思ってから動くんじゃ遅すぎる!)
イロハはどんどん柱に吸い寄せられていく!
熱さを感じながら死に物狂いで逃れようとする!
その時、イロハは自分の中で不思議な感覚を掴んだ。
気が付けば飛んでいく方向が変わっていたのだ。火の柱が横に流れていく、飲み込まれずに済んだ。
(今の、今の感覚だ! 意識と同時に身体を動かすような感覚!)
(掴んだようね。死中に活あり)
カチャン!
女は先程の鍵手を再び取り出すと自分の前で交差させる。
鍵手は卍の形になり金色に光り出す。
「さあ今度はどうかしら?」
そう言い光った鍵手をイロハ目掛けて投げつけた!
ブン!
「なんの!」
難なくそれをかわす! もう完全に感覚は掴んだ!
自在に宙を動き回れる!
……しかし!
ブン!
後ろに何かを感じとっさに避けた。先程の鍵手が大きく弧を描き再び戻ってきたのだ。……危なかった、もう一瞬遅れていたら確実にやられていた!
「ほら、油断大敵でしょ」
そう言いながら再び矢をつがえ引き始めたのだ!
再び矢が放たれる!!
ヒュヒュヒュヒュ!!!
無数の矢を避けた瞬間、上から再び鍵手が!
「逃げてばかりじゃ終わらないわよ! かかってらっしゃい!」
ヒュヒュヒュ!!
ビュウルルルルー!
( 避けるのに手一杯だ! こうなったら……!)
イロハは高く飛び上がった!
そして大きく旋回すると、そのまま相手の懐に飛び込もうとする!
「甘い!」
ドッパァァァ──!!
完全に正面に捕らえた女の姿が火の柱にさえぎられる!
この火の柱も操れるというのか?!
更に火柱から矢が何本飛び出してきた!
キン! ガキン!
慌てて刀でそれをはじく!
間髪入れず真横から鍵手が!!
素早く空中で宙返りすると距離をとった!
シュ!
「うわ!」
今度は真後ろから矢が!
いつの間に回りこまれたのだろうか!!
とにかく留まっていては確実に仕留められてしまう!
(まるで隙が無い! とにかく動いて機会を探すんだ!)
再び距離をとろうと飛ぶイロハに鍵手が迫ってくる!
ドッパァァァァァー!!!
先程から火の柱の数も増えていた。暑さに汗を走らせるイロハ、このままでは火柱だらけになり丸こげになってしまうのは時間の問題だ。
(一か八かやるしかない!!)
ガキン!!
飛んできた鍵手をはじくとイロハは煮えたぎる地面すれすれに飛ぶ。それを目掛けて女の放った矢が飛んできた!
(あすこだな!)
大きく弧を描くように地面近くを飛ぶと、急に全速で相手目掛けて飛び上がる!
再び正面に女を捕らえるも、また火柱が!
しかしイロハは構わず全速で前に飛ぶ!
火柱から矢が飛んできた!
シュパパパッ!!
「うおぉぉぉぉ!!!」
しかしそれを読んでいたかの如く紙一重で交わすと、刀を突き出しそのまま火柱の中に突っ込んだ。まるで石を放り込まれた池のように火柱が変形し、飛び散る。
ジュッッパァァァァァ!!!!
ガチャン!!
「………ハァ…ハァ…! ハッ!」
女はとっさに鍵手を十字にし、イロハの刀を防いだつもりだった。
しかし鍵手は貫かれ、胸に刀が差さっていた!
「いったーい!」
女の身体が消えていく……。
そして回りの火柱が収まっていくのが判った。
火柱が完全に収まると。賽の河原は何事も無かったかのような静けさを取り戻す。地面に溜まっていた溶岩もどこにもない。それを確認したイロハはスーっと下に降り、再び大地に足を着けた。汗ばんだ肌に涼しい空気を感じる。
(……風が戻った)
辺りを見渡すも、いつもと変わらぬ風景。女の姿は何処にもなく風に乗って声が聞こえてきた。
『イロハ、お前は今よりももっと強くなれる筈。外の世界に触れ自分を磨くのです。色は匂えど散りぬるを、咎無くて死す事無かれ、
「あれ……? ……?」
『それと、たまに神社に顔出しなさいね。御二柱も貴女を気に掛けていたわ」
そう言い残すと声は聞こえなくなった……。
(神社? 今のが本当に神様……? 斬っちまったきと罰当んねえべか?!)
はっとしつつ温泉神社の方を見上げた。
温泉神社に
では一体今の神様は……?
(……帰ったらおかよに聞こう、わかんねぇことだらけだ。でも志乃、オラ思ったより早く会えるかもしれねぇ!)
そう思うと嬉しくなり水倉の屋敷へと駆け出していった。
秋の風は深まりつつある、那須野の山も徐々に鮮やかさを増していくのであった。
星ノ巫女番外編 ─イロハと
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