白面九尾の復活 下章 其ノ二
剣岳では今まさに珠妃がイロハの首を刎ね落とそうとしていたところだった。叫び声を上げ暴れるイロハ、それを抑えていた珠妃だったがすぐ傍でした物音に気をとられて振り向いた。
パタッ
バチッ
(…?)
珠妃が物音がした方を向くと、地に刺さっていたイロハの刀が倒れている。
バチッ! バチバチバチッ!!
何も無い場所から木が裂けるような音がし始めた。よくよく目を凝らすと刀の刺さって居た辺りが青く光っていた!
(空間が破られようとしているのか? ……まさか)
ベリベリベリベリベリッ!!!
「馬鹿な!? あり得ぬ!?」
青白く光っていた場所に大きな亀裂が入る!
「イロハ────────ッ!!!!」
「無事か?!!」
「志乃!? トラッ!!」
「な、何故だ?! どうやって?!」
地にできた大きな亀裂から志乃とトラが飛び出してきた!
無間の狭間から生還したのだ!
「っ! あっ!」
有り得ぬ出来事が起こり、うっかりイロハを離してしまう珠妃。
そして突然山の上の方から何か振ってきた!
イロハと珠妃、二人の間を断つかのように落ちる!
「イロハッ! 受け取れっ! 継承の証だ!!」
見ると山頂付近に月光の姿が! 珠妃に気づかれぬよう、大回りをして先に頂上へと着いていたのだ。落ちた杖の様な物を拾おうとするイロハ。
しかし珠妃の方が早かった。
「ええぃ! っっ!! ぐぁっ?!」
バチン!!!
杖を拾おうとした瞬間、珠妃の手に衝撃が走った!
(な?! ま、まさかこれは?!)
手放した杖をすかさずイロハを拾う!
珠妃の前に来た時には、もう既に杖から刃が抜かれていた!
シュッ!
「…………あ」
ドサッ!
抜かれた刃を後ろに避けようとした珠妃、だが避け切れず脇腹から肩口にかけて斬られ倒れる。 そう、刀が通じない筈の珠妃が斬られたのだ!
「……あ……ぐ……ぁぁ……」
傷口を押さえようとした手から鮮血がこぼれた。
「……斬れた?」
「イロハ! 止めを刺せ!」
「逃がしてはならん!!」
「っ!」
その声に反応してか、そうはさせじと使い魔たちがイロハに飛び掛った。
「よせっ!!」
バン!!
「ギャッ!」
「ギャウン!」
イロハに近づいた瞬間、二体は見えない力によって跳ね飛ばされた。地面に叩きつけられ動かなくなる。
「これもあの刀の力なの?!」
山頂から戻り近づいてきた月光に、志乃は尋ねた。
「水倉が宝刀『
「首切刃」それは六百年程昔、かつての将、
「…はぁ…はぁ…ふ…不覚っっ! まだそのようなものが残っていたとは!」
立ち上がり逃げようとする珠妃だが、すぐに
「……が……ば、
身体に力が入らない、首切刃で斬られた為か体が思うように動かないのだ。それに加えて餓死した人間の娘を媒体とした体、珠妃の体はとうに限界を超えていた……。
「はぁ……はぁ……ぐっ!!」
「勝負着いたわね、逃げられないわよ」
そう言いつつ錫杖を突き立てる志乃。月光とトラは使い魔たちを取り押さえると、珠妃によく見えるように吊るし上げた。
「さてと、こやつらはどうするか」
「九尾よ! お前がしたことを今思い知らせてやろうか?!」
「……二人とも、放してやって」
「イロハ? もう話して大丈夫なの?」
「刀を手に入れたし、もう大丈夫……それより珠妃!おとうを放せ!」
初めて堂々と話すイロハの声に驚くも、珠妃はそれに応え宙に浮いていた蒼牙を降ろした。
結界が割られ地に下ろされる蒼牙。
駆け寄る月光とトラ!
「叔父御!」
「大丈夫だ、息はしておる!」
その声に安堵し、再びイロハは珠妃を向く。よろよろした足取りで珠妃に近づいた使い魔たちは、珠妃を心配するかのように寄り添っている。珠妃は二体の頭を
「……妾の負けのようじゃ」
そう言うとくるりと後ろを向き、九本の尻尾を垂らした。座ったまま珠妃は着物を脱ぎ、肌を晒す。自分の両肩を抱くと後ろを向いたまま静かにこう言った。
「斬って
金色の長い髪を前に纏め、白い肌の背中を惜しげも無く晒すと珠妃は続けた。
「……妾は十分過ぎるほど生きた。むざむざ殺されるのは本望ではないが、他の人間や神なぞに殺されるよりは……イロハ、お前に斬られた方が幾ばかはマシじゃ」
静かに抜刀するイロハだが、何か言い知れぬ違和感を感じた。
(なんだ? ……どうしてこう落ち着いていられる? これから死ぬのに……)
「情けはいらぬ! 斬れ!」
「ここで生かしては後悔するぞ!」
イロハが情けをかけようとしているのだと思い、急かす二匹の妖獣。
その様子を見ていた志乃が口を開いた。
「違うわね。イロハがこいつを斬らない理由、これじゃないかしらっ!!」
志乃は袋から予備の小刀を取り出し、振り向き様に投げた!
すると投げられた小刀が見えなくなった!
影も形も残さず消えてしまったのだ!
「今さっきまで『何か』居たわね。こいつの仲間かどうかは知らないけど、ここに来た時から違和感が続いてたのよ。もしかしたらあいつが助けてくれる、そう思った……あんたのその落ち着きはそんなところじゃない?」
「……」
この娘、気がついていたのか!
「ふっ……今更どうでもよいこと。さ、斬って給れ。そやつらの言う通り妾を生かしても何もならぬぞ」
「クゥー」
「アォー」
珠妃がこれから斬られるのを知って騒ぎ出す使い魔たち。
まるで母との別れを惜しむ子狐のように。
「よしよし。お前たちは立派な妖怪におなり。決して仇を討とうなどと思うんじゃないよ」
「……」
珠妃に近づいたイロハは抜刀した首切刃を高く掲げた……。
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