白面九尾の復活 上章 其ノ士



びょぉぉぉぉぉぉぉぉ────!!


(風……?)


「ひやぁぁぁあっぁぁぁあ???」


 突如、剣岳に局所的な神風ともいえる突風が吹き荒れた!

 イロハに群がっていた野狗が次々と飛ばされていく!


「なんと?!」

「何だこの風は?!」


 他の邪頭衆は強風に飛ばされまいと地に伏せる。しかし風にまともに当たった野狗たち、すなわちイロハに群がっていた者らは一匹残らず吹っ飛ばされた。

 後にはうずくまっているイロハだけが残る。


(この風、只の風ではないな?)


 強風の中、珠妃は風を起こしている犯人を見つけた。

 そこにいたのは今まで息を潜めていた春華だったのだ!


「精霊!? 仲間か!?」


「あっ! うわっ! こっち見だ!! イ、イロハ今だ逃げろ──!」


 珠妃に見つかるなり、春華は山の麓へと飛んでいった。

 しかしそれを目こぼす珠妃ではない。


「これは試し狩りに丁度良い。さぁお前たち出ておいで。さっきの生意気そうな精霊と遊んでおやり」


 そう言って両手をひるがえすと地から赤い火が立ち上り、二匹の狐の姿を作った。

 二匹は珠妃の顔を見ると、了解したように春華の後を追う!


「ふふ、悪運の強い娘よ……蒼牙、顔を上げよ! 娘はまだ死んでおらぬぞ!」

「……!?」


 恐る恐る顔を上げる蒼牙。そこにはボロボロになりながらも、立ち上がろうとするイロハの姿が! イロハを押しつぶしていた野狗たちの姿はどこにもなかった。


「イロハ、もうよい! 十分だ! 逃げて生き延びろ!!」

「何を言う、ここからじゃ」


 珠妃の目が怪しくイロハを見つめた。



「……あんなの、あんなの無理だ! 何であんなおっかねぇのがいるんだ!? うぅ……イロハ逃げれてるといいけど……」


 べそをかきながら山林の中を飛んで逃げる春華。いくら風の精霊の春華でも、力は大妖怪の足元にも及ばない。完全に怯んでしまい逃げることしかできなかった。


「……な、何か来た?!」


 逃げながら後ろを振り返ると、赤い何かが二体高速で追ってきた。


ケンケーン!


 速い! 風と同じ速さで飛ぶ春華より速く、見る見る追いついて来ている!


「何だ?! わ! わ! 嫌だ! あっち行け!」


 山林の中をめちゃくちゃ飛び回り、何とか振り切ろうと試みる。

 しかし呆気なく正面に回り込まれ、二体同時に飛び掛られた!


ギャン!


アウ!


「うぁぁぁ!!!」


 思わず立ち止まり身を小さくかがめた!


 ……しかし何事も無かった。

 辺りを見ても追ってきた二体は見えない。


「……おろ?」


 反射的に吹き飛ばしてしまったのだろうか?

 何が起こったか判らないが、とにかく逃げるなら今しかない!


「はっ! そ、そだ! 逃げないと!」

『急いで八潮やしおの里まで飛び、星ノ宮の巫女を連れてきなさい!』


「そだ! イロハと一緒に居たあの人間! あいつなら強い!」


 風の速さならここから八潮の里までそうかからない。

 神社の場所なら前にミチが教えてくれた!

 春華は南の方角へ全速で飛ばす!


 春華はこの時夢中で気が付かなかった。

 風の速さで飛ぶ自分の耳元で誰かが囁いたのを……。



 ケノ国北部に吹き降ろされる強風「山背」。


 今まさに春華は一迅の風となり南へと向かう。

 野を越え、里を越え、水の無き蛇尾だび川を越える。


 幾度と無く林の木をしなる程に揺らし、上昇気流に乗ると一気に雲の上へ!


 そして遂に雲間から八潮の里が見えた!


(あった! あの山ん中だ!)


 目的の神社を見つけると一気に下降する!

 そしてありったけの大声で叫んだ!


「大変だ────!! イロハが殺されちゃう!!!」



星ノ巫女 ~白面九尾の復活 上章~  中章へと続く

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