星ノ巫女 ~化ノ国物語~
木林藤二
序の章
ヒォォォォォー……
まだ
誰かは言った、これは「妖怪の仕業」であると。しかし退治しようにも妖怪の住む雪山へ入ることなど自殺行為に他ならない。今は人里にさほど被害が出ている程ではなく、自ら進んで妖怪退治しようする者などいなかった。
たった一人を除いて……。
シャン……シャン……
ザッ……ザッ……
雪の登山らしからぬ軽装。己が寒さに強いという理由以外では、功を
ザッ……ザッ……
(符が反応している。元凶の妖怪が近いのかしら)
片手で握る護符がビリビリと妖気を知らせる。
志乃は
志乃自身も何故自分がそうなのか深く考えたことはない。それより一刻も早く日々の生活に慣れ、一人前になろうと必死だったからだ。
(──何かいる!)
雪明りの中、うずもれ倒れている何かを見つけた。人間だろうか? いや、そんな筈はない。何故ならこの山は
(子供……? 怪我をしているわね。これは刀? 男の子かしら)
見ると倒れていた子供は妙な出で立ちだった。白い衣、手には
志乃は雪を払ってやり、声を掛けようとして即座に飛び退いた!
(妖の子だ!!)
子供の頭に触れた時、獣の耳が見えたのだ!
志乃は高鳴る鼓動を抑え錫杖を倒れている妖の子へと向けた。今まで妖を見てきたことはあったが、ここまで人間に似た者を見るのは始めてだ。一見歳は自分と近そうだが油断はできない。油断こそが妖怪に付け込む隙を与えるのだ。
さてどうする、放っておくわけにもいかないが……。
(吹雪はこの妖の子の仕業では無いわね。でも、もしかしたら元凶の妖怪と関わっているのかもしれない)
倒れるほどの怪我だ、すぐ起き上がって襲い掛かってはこまい。志乃はそう考え、血の続く先を見据えると再び歩き出そうとした、その時だった。
『おかぁ……行かねぇでくろ……』
「……え?」
驚き、再び妖の子に近づく志乃。しかし子供は何も喋らない、寝言のようだった。少し揺り動かしたがやはり反応が無い。
(私、何してるのかしら……。妖怪を討伐しに来た筈なのに……)
妖に情けを掛けるなどあってはならないことだ。しかし今、こうして自分が妖の子を助けようとしているのは何故だ? 母が居ない同情からなのだろうか?
自分には母との思い出などかすかに憶えているだけだというのに……。
(私もまだまだ精進が足りないのかもしれないわね)
背中から伝わるぬくもりを感じ、錫杖の鈴を鳴らし歩いて行くのだった。
1716年、江戸中頃。妖怪は人前に姿を現すことが少なくなった。だが数十年前からどういう訳か
当時のケノ国、
『各寺社中、妖怪討伐を行うべし。但し討伐において自足でかかること』
しかし、これだけでは当然事はうまく運ばなかった。そこで徳川幕府では下野への妖怪討伐援助としての特別予算を設け、更にはケノ国の寺社が特別税まで取れるという許可まで出したのだ。その多くは妖怪を退治した者への報奨金として使われる。
これが功を奏して、各寺社では妖怪に対抗できる兵士や僧侶の教育が盛んとなったばかりか、他国から妖怪を退治しようと集まる者まで出始めたのだ。
討伐令が発足され三十年経った今でも妖怪との戦いは続いている。
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