四月一六日

 ジャパリパークにいた間の記憶が今も鮮明に残っている。身体の方がしばらくフレンズ化したままだったし仕方ないよね。完全に元の私に戻るまで数週間かかってしまった。ジャパリパークから遠く離れたここに来てようやく、サンドスターが身体から抜けていったのだろう。完全に抜けきるまでそれだけかかってしまった。サンドスターとフレンズ化の関係には未だに不明な点が多い。そもそもフレンズ化の仕組み自体が分からないわけだし。

 残念ながら、大石くんの記憶は失われたままだった。彼女(そう、彼でなく彼女)の身体からサンドスターが抜けても、フレンズ化したときの身体のままでい続けた。もし大石くんがフレンズ化の前に事故で亡くなっていたのなら、考えたくはなかったけど、ジャパリパークから離れたら“元の彼”の状態に戻ってしまう心配もあった。予想外の結果。それが良かったのかは分からない。

 大石くんは奥さんに引き取られた。娘を育てるつもりで一緒に暮らすとは言ってたけれど、夫がかつてとは似ても似つかない姿で戻ってきたその心中は察するにあまりある。


 ヘリコプター事故の調査は難航している。原因は火山の活発化にある。現場の港付近へ近づくには、噴火の状態を見ながらでないと二次災害の危険があるからだ。もっとも再びヘリコプターで上陸なんてことはせず、船でのアプローチが検討されている。

 研究所内での責任の所在についても調査が始まった。私も聴き取りに協力している。大石くんが私を擁護する発言をしてくれていると聞いて泣いた。彼の過去はすべて奪われてしまい、彼はジャパリパークで一緒に旅をした私しか知らないというのに。

 私自身、あの事故に対する気持ちの整理が付いていない。少人数で短期間のうちに調査を実施するためにはあのアプローチしか無かったと信じたい。でもそのために人一人の人生が失われてしまった。

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