帰ってきたミライさん(全長版)

みうらゆう

一月一〇日

 明日いよいよジャパリパークへ調査に入る。あの事件で職員が全員退去して以来、二〇年ぶりになるのかしら。もっと? とにかく久しぶりの上陸。

 私たちがジャパリパークを放棄して全島から退去した後は、遺されたセンサー類や監視カメラでしか様子を窺えなかった。それも長い年月で多くが故障するなどして今わかることには限界がある。本当ならもっと早く調査に行って必要な修理などをしたかったのだけど、絶えず降り注ぐサンドスターの影響と、とうとう人の手では退治できなかった巨大セルリアンの存在が私たちの上陸を阻んでいた。

 現地に遺され今も稼働中のセンサーで判る範囲では、去年の三月にキョウシュウ地方でサンドスター・ロウのモニタリング数値が跳ね上がった。現地にいたラッキービーストから全島に警告が発せられたので間違いないだろう。結果としてサンドスター・ロウの濃度はその時がピークで、今では数値も落ち着いている。最近はキョウシュウ地方のサンドスターの分布も均一化しているようで、巨大セルリアンがいれば発生する「サンドスターの穴」が存在しない。以前に比べヒトやフレンズが襲われる心配は格段に減ったのかも知れない。でも油断は禁物。

 サンドスター研究所内に設置された調査本部では、人間が遺した施設が止まりフレンズへの食糧供給が途絶えたとの見解が主流だ。ただしセンサー類が動いていることからも判るように電気の供給は続いている。もしかしたらフレンズへの食糧供給も、私たちが島を離れるときに命じたラッキービーストが続けてくれているかも知れない。しかしそれは私の希望的観測に過ぎず、危険地域にわざわざ足を踏み入れる理由にはならないと、調査隊派遣への賛同者を集めることは出来なかった。

 そんな中で、サンドスターの分布が以前と変わり始めているのは良い徴候だ。加えて、同時期に湖畔周辺で新たな建築物が連続して立てられているのが衛星写真で確認された。食糧供給の存続についてはともかくとしても、ジャパリパークでフレンズが生存しているのが確定したのだ。しかも港近くで「火」の点在が一時的に確認され、フレンズが「火」の活用を始めた可能性が指摘されている。

 こうなるとフレンズの生存を最優先として、必要なインフラ設備のメンテナンスが急務といえる。現在は稼働しているようでも、放棄から二〇年経っておりいつ壊れるか予測が付かない。私たちの調査は、フレンズに迫る危険を排除する人道的措置という性質を帯びてくる(フレンズを人とみなすかどうかの議論が別に存在するけれども)。ともあれ調査でジャパリパークへ上陸するところまで何とか漕ぎ着けたわけだ。

 島への上陸は南側の港から行なう予定。もっともヘリコプターなので桟橋は使わない。この港は火山から近いため、しばしばある噴火とタイミングが重なるとサンドスターの影響を受けやすい。安全を重視するなら火山から遠い北西よりアプローチすべきなのだろうけど、私の希望で南よりの上陸プランにしてもらった。インフラ設備の要である雪山地方や、情報集約施設・ジャパリ図書館のある森林地方へのアクセスが容易な地点だからだ。そして、あの日ジャパリパークのフレンズたちと別れた場所でもある。こんなことを書くと、感傷的に過ぎるかな。

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