語学力ゼロだった僕が行った世界
@isourounin
第一話 物語は何気ない一言から
「おう、お前の留学決まったぞ」
バイト漬けの冬期休暇も終わり、新年の挨拶へ顔を出そうと、大学のゼミ室に向かい、ノックしてドアを開けるなり、講義もそっちのけで、ロマンスグレーな教授のヒゲまみれの口から軽いジャブが飛んできた。授業中であったかと申し訳なく思いながらも、その言葉に軽い動揺を覚えた僕をよそに、ジャブは続く。
「我がゼミ初めての交換留学生や。他の教授から枠取るのに苦労したで。3月から留学やから、パスポートとかビザの用意しとけよ。それと――」
どうしてこうなった。そう思っていた僕に、昨年行ったゼミの忘年会での
12月某日の忘年会。いつものように教授の
「誰か中国に行くやつはおらんか」
盛り上がっていた席に沈黙が
ヤバい。これを上手にかわさなければ教授が不機嫌になる。場は未だに
「じゃ、じゃあ僕が行きます!」
これなら他の人もうまくフォローしてくれるだろうと期待しながら周囲を見るも誰もが沈黙し、そこにあるのは居酒屋特有の音のみになった。誰のフォローもない事に困惑した僕は、その
「――タスケテクダサイ」
その想いが通じたのか、
「――であるから、君には我がゼミと私の面子を
セーフじゃなかった。いや、教授にとってはセーフだったのだが、僕にとって完全にアウトだった。落ち着くために見たこともない学生――たぶん今年度の新入生達――が空けてくれたソファーに座り、タバコを取り出し吸っていいかの問いだけして一服する。新入生達はびっくりしていたが、この部屋では授業中でも喫煙が許された年齢のゼミ生ならば喫煙可能なルールなのだ。タバコを吸わない新入生達にささいな罪悪感を覚えながら、僕は煙とともにはきだした。
「それはもう決定ですか?」
タバコによって動揺がおさまった僕がどうにかはきだした言葉に対し、教授から軽い口調であったがとてつもなく重いストレートを受けた。
「おう、もう学長にも報告したし、休学届の用紙もここにあるぞ。君たち、我々のゼミは彼のように留学したいという熱い志をもった学生が多いから、もし興味があるなら、いろいろと質問などをしてみるといい」
四面楚歌とはまさにこのことである。某お笑いトリオならば聞いてないよと言いながら帽子を地面に投げたことであろう。しかしながら、ご
その後の記憶は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます