死神

樹雨

第1話

 ―――カランコロン

 ドアを開けて中に入ってみるとマスターらしき初老の男性以外客はいなかった。

 人通りの少ない裏路地にあるせいだろうか。

 

 好きな席へどうぞと言われたから窓側の四人掛けの席を選んだ。

 待ち合わせの時間まではまだあることだしここでゆっくりしていこう。

 席に座りつつ俺はなぜ自分がここに入ったのかを考えた。

 大通りに面しているわけでもないし、ネットで評判になっている店でもないみたいだ。実際俺以外に客はいない。でもなんとなく目について入ってしまった。

 俺が気にすることじゃないが、これで大丈夫なのだろうか?


 注文したコーヒーが運ばれてきた。

 コーヒーをテーブルに置きながらマスターが聞いてきた。

「失礼ですが、お客様はなぜ当店に?」

「え?」

 びっくりしてマスターの顔を見る。理由を聞かれるなんて思ってなかった。

 ここ準備中じゃなかったよな……?

「いえ、自分で言うのもお恥ずかしいのですが、お客様が思っていらっしゃる通りあまり繁盛していないですし、お客様のような若い方はあまり入られるようなところではないかと思いまして……」

 マスターは苦笑していた。

「喫茶店というものは休憩や待ち合わせなど何かしら目的があって入るところかと思うのですが、なぜかしらたまに自分がなぜここに入ったのかわからないとおっしゃるお客さまもいらっしゃるのです。お客さまも入ってきたときそのような雰囲気でしたので、つい……」

 失礼いたしました、と言って去ろうとするマスターに俺は声をかける。

「あの、その人たちは何をするんですか?」

 自分でも口にしてから何馬鹿なことを言ってるのかと思う。喫茶店に入ってしまったんだからきっと飲み物とか頼んだに決まっている。

 マスターはにこにこしながら答えてくれる。もともと話好きな人なのだろうか。

「そうですね、ここは喫茶店でございますから、飲み物などをご注文なさります。そして、私のお話につきあってくださいました」

「お話、ですか?」

「はい。お話でございます。お客さまもお時間があるようでしたら私のお話におつきあいいただけますかな?」

 マスターの言う「お話」に興味を持っていた俺は聞くことにした。

 マスターの昔語りとかかなとか考えたけどそれは違っていた。


「ありがとうございます。今回のお話は、優しい死神の物語でございます」




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