アライさんボックス

ノルウェー産サバ

仲良しコンビ

 遊園地にて……


「フェネック!観覧車に乗りたいのだ!」

「ふーん。いいんじゃない。いってらっしゃい、アライさん」

「『いってらっしゃい』じゃないのだ!フェネックも一緒に行くのだ!」

「えー、わたしはやめとくよー。高いところはそんなに好きじゃないしー」

「大丈夫なのだ!アライさんがついているのだ!怖くなったら手をつないであげるのだ!」

「別に手はつながなくていいけど……」

「遠慮しないでいいのだ!」

「遠慮じゃないんだけど……」

「じゃないけど……?」

「アライさんの手ってザラザラしてるし……」

「これは生まれつきなのだ!」

「あはは」

「……それじゃ、一緒に行ってくれないのかー?」

「行かないとは言ってないよ、アライさーん」

「でもさっきはやめとくって言ってたのだ!」

「さっきのことはさっきのことさー」

「アライさんの中ではそんなに昔のことではないのだ!」

「まぁまぁ、アライさん。とやかく言わないで観覧車に乗ろうよ」

「うぅ、さっきと立場が逆なのだ……アライさんから誘ったのに、アライさんがゴネてるみたいになってるのだ……」

「なにか言ったー?」

「言ってないのだ!」


観覧車乗り場……


「よいしょっと」

「ジャーンプなのだ!」

「アライさーん、そんなに勢いよく乗ったら揺れちゃうよー」

「わははなのだ!楽しいのだ!」

「おとなしく座りなよー」

「そうするのだ!」

「アライさん」

「なんなのだ?フェネック?」

「観覧車ってぐるぐる回る乗り物なんだよね?」

「もちろんそうなのだ。常識なのだ」

「でもこの観覧車、止まってるよ?」

「はっ、本当なのだ!ずっと同じ場所にいるのだ」

「アライさん、さっき勢いよく乗りカゴに飛び乗った時に壊しちゃったんじゃないの」

「ち、違うのだ!観覧車はそんなヤワな乗り物じゃないのだ」

「ほんとうー?」

「ほんとうなのだ……」

「じー……」

「うぅ、ほんとうに本当なのだ……嘘じゃないのだ……」

「わかってるよー、アライさーん。アライさんがそんな嘘をついたりするフレンズじゃないってこと、わかってるよ」

「フェネック……」

「観覧車の調子が悪いのなら、博士たちに相談してみようよ。ちょうど遊園地にいるわけだし」

「おー、さすがなのだ!そうするのだ!フェネックは賢いのだ!」

「じゃあ行きますか」

「いや、これはアライさんが一人で行ってくるのだ!フェネックはちょっと待っているのだ!」

「……アライさんに任せるよー」


 10分後……


「戻ってきたのだ!」

「また飛び乗って……」

「大丈夫なのだ!やっぱり飛び乗ったのが悪かったのではなかったのだ!」

「というと、どういうことなのさー?」

「博士によると、誰も観覧車に乗らない時は動かないようにしているらしいのだ!」

「なぁーんだ、そういうことだったんだー」

「そうなのだ!今から博士が動かしてくれるのだ!」

「それは良かったー」

「それじゃ博士に合図を送るのだ!おーい博士ー!お願いなのだー!」

「博士ーよろしくー」

「あっ動いたのだ!」

「動いたねぇ、アライさん。博士ーありがとー」

「ありがとーなのだー!」


 観覧車は4分の1ほど回転……


「だんだん高くなってきたねー、アライさーん」

「そ、そうなのだ……」

「ほら、遊園地が丸見えだよー。もっと高くなれば、ジャパリパーク全体が見渡せるんじゃないかなー」

「そ、そうなのだ……」

「アライさーん、『そうなのだ』ばっかりだねー。どうかしたの?」

「そ、そうなのだ……」

「……アライさん」

「そ、そうなのだ……」

「もしかして、高いとこ怖いの?」

「そ、そうな……ち、違うのだ!」

「えー、でも顔が青いよー?」

「気のせいなのだ!」

「それじゃ外の景色をちゃんと見てみなよー。さっきからずっと虚空を見つめているじゃないかー」

「そんなことしてないのだ!み、見てやるのだ……うわー!」

「やっぱりダメじゃないか……アライさん、無理しちゃダメだよ」

「無理してないのだ、ちょっときれいな景色に感動しただけなのだ」

「そうなのかな……」

「フェネックこそ、高いところを怖がっているんじゃないか?」

「いやー、乗ってみたら案外楽しいもんだね……」

「うぐぐ……話が違うのだ……」


 乗りカゴは頂点に達した……


「…………」

「アライさん、そんなに身をかがめてしまって、脂汗までかいてるよ」

「気のせいなのだ……」

「声も小さくなっちゃって……」

「……」

「ねぇ、アライさん、どうして観覧車に乗ろうとしたのー?こんなに高いところ苦手なのに」

「別に特別な理由があったわけじゃないのだ……フェネックと乗ったら楽しいかもしれないと思っただけなのだ……」

「そっかー」

「でもやっぱり怖かったのだ!」

「……アライさん、それじゃあ下に降りるまで手をつないでいてあげるよ」

「でもアライさんの手はザラザラしているのだ。フェネックもさっきそう言ってたのだ……」

「さっきのことはさっきのことさー」

「フェネックは勝手なのだ……」

「そうかもねー」

「つないでもいいのだ」

「はいよっと。アライさん」

「……フェネックの手はふわふわであったかいのだ」

「アライさんの手はやっぱりザラザラしてるねー」

「うるさいのだ!」


 再び観覧車乗り場……


「やっと一周したのだ!」

「降りたとたんに元気になったね、アライさん」

「そんなことないのだ!アライさんはいつも元気なのだ!」

「そーだねー、アライさん。観覧車からの眺めはどうだった?」

「アライさんはあの程度の景色、いくらでも見たことがあるのだ!大したことなかったのだ!」

「そっかー」

「フェネックはどうだったのだ?」

「うーん、とてもいい景色だったよー。ありがとうアライさーん」

「それならいいのだ!フェネックが満足ならアライさんも付き合った甲斐があるのだ!」

「あれ、アライさんが誘ったんじゃ……」

「フェネックは細かいことを気にするのだ。さぁ、じゃぱりまんでも食べに行くのだ!」

「はいよー。でも、アライさん、いつまで手をつないでいるの?」

「あ。……フェネックがつなぎたがっていたから、一応離さずにいただけなのだ!もう降りたことだし離すのだ!」

「私はまだつないでいてもいいよ?アライさん」

「何のことやらわからないのだ、フェネック」

「……ところでアライさん」

「何なのだ」

「博士が観覧車を動かないようにしていたこと、私、本当は知ってたんだー」

「フェネック!」



◆おしまい

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