じょ!じょ!じょ!
しらいさん
じょ!じょ!じょ!
「決闘ですわ!」「決闘だ!」
「は、……はいぃぃいいい?!」
予想外の台詞に少女は素っ頓狂な声を上げて後ずさりした。
それと同時に、一体何事かと校舎に残っていた生徒達が踊り場の周辺にやってきた。
人が人を呼び集まった好奇心の奴隷達は、一方で直接面倒ごとには関わりたくないらしく、事前に打ち合わせでもしていたかのように揃って対象から距離を取って三人の動向に注視していた。
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
先に沈黙を破ったのは先程奇声を上げた金髪の少女──リリー・フローラズ。
あまりの大事に慌てて睨み合う二人の間へと割って入った。
「クラスメイト、なんですよ……? それも、揉め事の解決に決闘だなんて大それたことを……。即刻中止です! 私の正義に誓ってこの決闘は──」
少女が言葉を紡ぐと、感情に自然と動く身体に長い髪が揺れ動いた。
周りの状況の変化にも気づかず、ただ二人のためにと声を荒げてまで真剣に止めようとするが、
「嫌ですわ!!!」
「断る!!!」
ぴしゃり。
有無を言わせぬ二人の迫力に、リリーは思わず呻き声を漏らして怯む。
嫌、と言った少女は燃えるような怒りに満ちた表情を変えずに口を開いた。
「これはわたくし達の問題ですわ。この決闘には、誰にも、一切、口出しはさせません。もし止めようものなら……──」
じろりと強い眼差しを向けて、
「──例えあなたでも、容赦は致しませんわ」
その視線から言い表せない強い覚悟を感じ、リリーはうっと言葉を失った。
私も同感だ、ともう一人の少女は呟く。
「気味が悪いことにな。これは私闘ではない、正式に挑ませて貰おう。誇り高き魔術師の長い歴史の中、伝統と共に守られてきた神聖な勝負事だ。無粋な横槍は不要」
どこまでも冷たく静かに彼女がそう言った。
それはリリーも承知していた。
始まってしまえば止める事など叶わない、プライドと命を懸けた騎士同士の戦い。
それ故に彼女は、友人として、始まる前に止めさせたかった。
だが。
はっとリリーが雑音に気付き振り返れば、既にそこには十余名の立証者が集まっていた。
『決闘』の二文字にざわりとどよめく周囲の生徒達。感染するように誰もが口々に『決闘』と、『決闘だ』と言い始めていた。
(集まった人達は決闘を認めてしまっている……。これではもう、本人達が止めない限りは……)
野次馬は状況を理解し、最早この決闘を見守る気なのが少女には見て取れた。
決闘──それは魔術師が編み出した厳格な勝負にして一つの
特に魔術を専門とするこの学び舎では、学年別に細かなルールが存在する程に馴染み深い種目で、実際に学園の生徒たちは初等部から授業で戦い方を学んでいた。
そしてリリーは知っていた。
それがスポーツと呼ぶには危険すぎる遊びだという事を。
時に魔術が、葉っぱと葉っぱの間に渡された蜘蛛の糸を両断するように、人の命さえも軽々と引き裂くという事を。
現代において、決闘の危険性は少ないと一般的には言われている。学園などで執り行われる公式試合で死人が出るなんて話は、彼女も聞いた事はなかった。だが一方で、参加した友人が三日三晩目を覚まさないなんていう事はありふれた話でもある。
だがそんな彼女の心配をよそに、火花を散らし合う二人は高々と宣言をしだす。
互いを険悪に睨み合いながらも、意気揚々に話の中心人物──リリーへと真剣な瞳を向けた。
「この恋ヶ原めぐにお任せあれ、ですわ! わたくしが完膚なきまでにあのお猿さんを蹂躙して、見事勝利を持ち帰って見せましょう」
「しばしの間待たれよ。あの無礼極まりない悪女を打ち倒し、この私こそが貴方に相応しいと証明して見せよう。私の剣にかけて!」
まるで燃料を注がれた炎の様に轟々と燃え上がる彼女達。
周りには二人に呼応して勝手に盛り上がる野次馬。
どこにも味方が居ないこの状況に、リリーは再び一人頭を抱えるのだった。
「どうしてこんなことに……」
話は三十分前に遡る……──
*
彼女、リリー・フローラズは日頃から人の模範であれと心掛けていた。
中等部、入学初日。
クラスメイトの一斉自己紹介。
入学式を終えて生徒達が集まる教室でそれは開催された。堅苦しいイベントがようやく終わってリラックスした彼女らは、皆新しい友人を作るべく思い思いに自らのことを語りだした。
ある生徒は趣味は料理で最近は中華を母親から教わっているといい、ある生徒は得意な魔術についてなら何時間でも話せますと力説した。
やがて自己紹介は最後の生徒に回ってくる。窓際の最も後ろの席という単純な理由でリリーは不運にも鳳を飾ることになった。
もっとも『不運』と思っていたのは一部の生徒で、彼女はそうは感じていなかったようだが。
「次──リリー・フローラズ」
「はい」
教卓に立つ女教師の指名を受けて少女は透き通るような声で短く返事をした。
それは、クラス名簿に目を落としていた教師も、退屈だと前の席の椅子をぼうっと見つめる生徒も。
この教室にいる全員が彼女に視線を向けさせる美しい声音だった。
「皆様、初めまして。ただいまご紹介にあずかりました、リリー・フローラズです」
金髪碧眼という日本人離れした見た目に反する流暢な言葉使い。なによりも気品を感じさせる凛とした佇まいと端正な顔立ちに生徒は揃って息を呑み、思わず吐息を漏らした。
「本年度より百合乃木に転居いたしまして──」
外から流れ込む春風。
空から窓辺を照らす日差し。
それらは彼女の髪をゆらりゆらりと左右に揺らし、神々しく煌めかせた。
さながら雲の上で詩を読み上げる女神の羽衣か、はたまた地上に舞い降りた天使の翼か。
幻想的なその姿に教室中の誰もが彼女に見惚れ、一言一句を聞き漏らすまいと耳を傾けた。
「──皆様、末永くお付き合いをお願い致します」
と締めくくって丁寧に一礼した。
そっと席に着くと、
「全員拍手!」
わっと拍手喝采が巻き起こった。
沈黙を守っていたクラスメイトはまるで石になる魔法が解けたように教師の声を合図に立ち上がり揃って手を叩いた。
美貌、立ち振舞い、そして彼女の一言一言が教室に居た全員を酔いしれさせ、瞬く間に彼女は一躍クラスの人気者となってしまうのだった。
*
自己紹介が終わり担任教師から手短く連絡事項と解散を告げられた。
学園に用事のない生徒は一様に荷物の少ない鞄を下げて帰宅していった。
そして一様に、帰り際にリリーに声をかけるのだ。
時には優雅に会釈をされ、
「フローラズさん、ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう」
ある時は緊張した面持ちで挨拶を受け、
「フローラズさん……ま、また明日!」
「はい、また明日。お気を付けてお帰りください」
またある時は初々しく握手を求められる。
「フ、フローラズさん。あの、その……握手を……」
「ふふっ、これからよろしくお願いしますね」
「きゃー! ありがとうございますっ!」
少しでも彼女と親しくなろうと、クラスメイトは次々とリリーの前に現れた。
ところが顔を赤くしてはしゃぐ女生徒に手を振って見送っていると、彼女は今までとは雰囲気が違う一人の少女に声をかけられた。
「初めまして、リリー・フローラズさん」
長い栗毛を赤いカチューシャで留めたクラスでも一際小さな少女。
(ええと、確か……)
リリーは記憶の糸を手繰り寄せて、その名前を口にする。
「恋ヶ原めぐさん、ですよね?」
「まあ! 自己紹介だけでもう名前を覚えていただけましたの?」
ぱんと手を叩いて恋ヶ原は笑顔で答えた。
「『めぐ』で構いませんわ。わたくしも『リリーさん』とお呼びしてもよろしいですか?」
「もちろんです、めぐさん」
恋ヶ原は内心でよしと拳を握りながら、
「ふふっ。これからクラスメイトとして仲良くいたしましょう」
「こちらこそ。皆さんと違って私は外から来たので色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「ええ、困ったことがあれば助けになりますわ」
二人は笑顔と共に互いに握手を交わした。
恋ヶ原は自信溢れる眩しい表情で、リリーは暖かく優しい微笑を浮かべて。
(上品な物腰……まるで名家のお嬢様。明るくて、社交的で……お話しやすい方ですね)
「そう言ってもらえると、とても助かります」
「当然の事ですわ。わたくしは初等部一年から通っていますから、もし分からないことがあれば私に聞いてください」
私、と強調しつつ、恋ヶ原はえへんと平らな胸を張った。
「特別教室までの最短
「それは……興味深いお話ですね」
そういうからには彼女はさぞかし情報通なのだろう。
リリーは得意げに話す恋ヶ原を試そうと、一つ聞いてみる事にした。
「それでは早速なのですが、学園で人気のかっこいい先輩に、私を紹介して貰えませんか」
「直接、リリーさんをご紹介、ですの?」
ええ、と頷くと恋ヶ原は渋い顔をした。
「流石にハードルが高いですわね……」
「もしかして……難しいでしょうか?」
そう尋ねると、恋ヶ原は頬に指をあててうーんと唸りながら、おもむろにこう聞き始めた。
「リリーさんはこの百合乃木魔術学園に、いくつもの『ファンクラブ』があることはご存知ですか?」
「ファンクラブ……?」
それは記憶に新しいキーワードだった。
学園に外部から転入した彼女へ、担任教師から予備知識として既に説明を受けていた。
「確か……優秀な先輩方を尊敬する生徒たちがこっそり作った非公式のファンクラブ、だとか」
「ええ、そのとおりですわ」
説明の手間が省けたことに恋ヶ原は満足げに肯定した。
「ここは魔術学園。優秀な先輩方はすなわち優秀な魔術師でもありますの。生徒によっては企業で魔術の研究をしていたり、新しく魔術を編み出したり、民間の軍事会社にスカウトされたり……そんな大人顔負けの先輩方を密かに崇拝しつつ、同志と魔術を切磋琢磨し合うために作られたのが、そのファンクラブですわ」
なるほどとリリーは合点がいった。
どうして魔術師の卵たる生徒がこぞってフランクラブを作り、入りたがるのか。
「ファンクラブは単なる追っかけではなく、魔術を学ぶための一つのコミュニティも兼ねている訳ですね」
「そういう事ですわ。まあ一部には、先輩方の追っかけにご執心な方もいるようですが……」
そして、と補足を付け加える。
「実は、ファンクラブでその先輩のされている魔術の研究をお手伝いすることもありますの」
つまり、
「ファンクラブに入れば──」
「ええ、先輩方とお知り合いになれる──かもしれませんわ」
そう言って、恋ヶ原は深い溜息を吐いた。
「とはいえ、本校の生徒数だけでも二千人強。学園全体ともなると相当数。例えファンクラブに入ったとしても、実際にその先輩のお知り合いになれるのはほんの一握りに過ぎませんの。狭すぎる門ですわ」
恋ヶ原はまるで自分の事の様に心痛な面持ちで実情を語ると、ぐぬぬと悔しそうに呟いた。
「わたくしだってそれこそ初等部の一年生の頃から会員だというのに……」
「ちなみに一番人気がある先輩はどういった方なんですか?」
それは頭にぽっと浮かんだ素朴な疑問だった。
朝食のメニューを聞くような軽い気持ちでリリーが尋ねると、
「当然っ、『赤の君』ですわ!!!!」
正しく食ってかかる勢いだった。
恋ヶ原はリリーの机に手をついて、ぐわっと身を乗り出してそう言い放ったのだ。
「赤の君……?」
それは知らない名前だった。その『優秀な先輩方』のあだ名か何かなのだろうか。
「興味、ありますの?」
「えっと……」
恋ヶ原は問いながら顔を寄せ、それこそ文字通り目と鼻の先の距離にまで近づいた。
同性とは言え近すぎるその距離に、突然の事にリリーは戸惑いながら椅子の上で後ろに下がるしかなかった。
「ありますのね……?!」
「ち、ちちち近いですよ?」
お互いの吐息が顔にかかり、よもや唇同志が触れ合ってしまいそうなこの状況。
慌てているのはリリーだけで、恋ヶ原は興奮のあまり周りが見えていない様子だった。
追い詰められて窓辺に背中をくっつけ、最早逃げ場を失ったリリーは、我知らず声を裏返しながら観念した。
「あります! ありますあります!」
「では! よろしければわたくしに、解説させていただけませんか?!」
ばねの様に体を跳ね上げて、心底嬉しそうに恋ヶ原は鼻息荒く言った。
ようやく解放され、リリーは盛大に息を吐いた。汗で前髪を額に貼り付けさせながら、疲れた表情で頷いた。
この人も先輩方のおっかけにご執心のようだなどと胸中で呟きつつ。
「お任せあれ、ですわ!」
恋ヶ原は起伏のない胸に手を当てて、ふふんと嬉しそうに語り始めた。
「『赤の君』とは昨年度の桜花祭優勝者にして百合乃木魔導学園のエース……、日向ほずみ様のことですわっ。その二つ名は『煉獄』。適正五大属性が『火』のみにも関わらず高い魔力と卓越した魔術操作で一瞬にして超高温の火炎で相手召喚獣を消し炭にするあの魔術、まさに煉獄と呼ぶに相応しいお力ですの! でも日向様は強いだけじゃありませんわ。その美貌は学園でも一二を争うほどに美しく、老若男女問わず誰にでもお優しく、まさに聖人君子! そう、学園代表の魔術師と言っても過言じゃない素晴らしいお方なんですのよっ!」
思わず白熱してガッツポーズをしながら恋ヶ原は熱く力説した。
内心ではヒートアップし過ぎたことに若干の後悔に襲われていたようで、
(さ、流石にやりすぎましたわっ!)
恥ずかしさに耳を朱色に染めながら咳払いを一つ。恋ヶ原は強引に話をまとめた。
「……つまり、日向先輩こそが学園で人気も実力もナンバーワンということですわ」
「なるほど。大変勉強になりました」
恋ヶ原はチラリと話し相手の様子を伺うと、至って平静。どうやら自分の話に引いていない様だ。
「そっ、そうかしら?」
「はい、とても」
自然な表情で頷くリリーに恋ヶ原は平常心と自信を少しずつ取り戻す。恋ヶ原を気遣って敢えて平静を装っているとは気付かずに。
「ふ、ふふふっ、そうなんです。先輩はとても素晴らしいお方なんですわ」
後ろ髪をかき上げながら言うと一呼吸。
心を落ち着けようと軽く息を吐いて、恋ヶ原はおもむろに小さな手を差し伸べた。
「是非リリーさんも、『赤の君を見守る会』に入りませんか?」
「私が、ですか?」
ドキリとした。
まるでクリスマスに頭の中を覗かれた子供のようだとリリーは思った。
彼女はこの学園で一人だった。いくら教室でもてはやされたとしても友人と呼べる人はまだいない。まだ初日なのだからそれは仕方がない事かもしれないが。
(もしもこのファンクラブを通してめぐさんとお近づきになれるのなら……)
彼女が自分の一人目の友人になってくれるのなら、と。
リリーは思わず手をぎゅっと握りしめて、口を開いた。
「も、物は試しとも言いますし、折角ですから……──」
だが。
彼女の言葉を遮る第三者の声が、教室に大きく響いた。
「待たれよ!!!!」
穏やかな教室に不似合いな一括。
その馬鹿声に、残っていた生徒は一斉に静まり返り、注目した。
しかし彼女は奇異の目など全く気にする様子はなく、静寂に包まれた教室に踏み込んだ。黒いポニーテールを揺らして二人の前に歩み出たのは、勇ましい顔立ちの少女。
「あら……何の用ですの?」
予想外の闖入者に恋ヶ原は見向きもせずに尋ねた。
一見落ち着いた様子。だが可憐に整った眉だけはぴくりと何度も苛立ちを主張しており、傍のリリーは嫌な予感をひしひしと感じずにはいられない。
そんな恋ヶ原の頭を、長身の彼女は横目に見下ろして答える。
「用があるのはお前じゃあない」
不遜で、有無を言わせぬ物言いが、彼女の琴線に触れた。
青筋を立て細眉を跳ねさせながら、恋ヶ原は彼女の脇に詰め寄った。
「『剣士被れ』は、およびじゃありませんのよ」
その言葉は致命的だった。
カチンと今度は黒髪少女が苛立った。
眉尻を釣り上げて明らかに怒った様子で負けじともう一度言う。
「私が、用が、あるのは、お前じゃあ、ない!」
それを嘲笑いながら煽る恋ヶ原。
「あらあら。聞こえませんの? 剣士被れさん?」
小学生同然のスマートな
年齢不詳──制服から二人と同じ中等部であることは間違いないが──で服の上からでも肉付きの良さが分かる長身少女。
対照的な二人はついには向かい合って火花を散らし始めるたのだった。
「ええっと……」
当事者であるリリーを除け者にして。
リリーは類稀な正義感から、あるいは面倒見の良さから。
目の前で始まろうとしている戦いを平和的に収めようと、
「私に何かご用ですか? 武士小路つるぎさん」
噴火直前の活火山に登山する気分だった。
なんとか爆発しないようにと恐々と、だが表面上ではそんな素振りは毛ほども見せないように、平静を装って普段通りの表情に努めた。
(折角の学園生活、皆で仲良く送りたいですから)
「ちょ、ちょっとリリーさん!」
想定外の介入に戸惑う恋ヶ原。
「まあまあ。別に取って食われるという訳じゃないんですから」
「それは……そうです、けど……」
リリーは不満そうに言う恋ヶ原を宥め、自分の席へすとんと座らせてた。優し気に笑うリリーに、沸騰していたはずの恋ヶ原は毒気を抜かれてしまう。
「ちょっと武士小路さんとお話してきますね」
「む、むむ? 一体どこへ連れて行く気だ?」
そう言ってリリーは武士小路の背中を押し、武士小路は疑問符を浮かべながらも特に抵抗することもなく。二人は教室を後にする。
「めぐさんはそこで待っていてくださいね!」
ぽかんとしていた恋ヶ原は去り際の一言ではっと気付くも、
「え? あっ、ちょっ、ちょっと!」
時すでに遅し。
気付けば教室に一人残されていた。
「も……もう!」
*
「なんで我々が教室を出ないといけないんだ」
「申し訳ありません。二人っきりになりたかったので……」
「むう……」
「教室にはまだクラスメイトが残っていましたから」
むすっとお預けを食らった子供の様に頬を膨らます武士小路。リリーは苦笑いで応じながら先導して廊下を歩く。
やがて人気のない階段が視界に入った。
(本当はめぐさんのいないところでお話しできれば、どこでもよかったんですが)
「……まあいい。あいつが居なければどこでも構わん」
(お二人はどうやら、犬猿の仲のようですし)
再び苦笑しながら段差に足をかける。
リリーに続いて武士小路も、後頭部で結った髪と発育のいい体を揺らして階段を上った。
彼女達が話に選んだのは踊り場だった。
眩しい日光が洒落た上げ下げ窓から床の木目を照らして、長い年月をかけて刻まれた表情を浮かび上がらせる。
「改めて自己紹介を。私の名は武士小路つるぎ。『つるぎ』でいい」
「それでは私のことも『リリー』で構いません」
「むっ……心得た」
深く頷くと武士小路はリリーに右手を差し出す。
「リリーさん。クラスメイトとして、ライバルとして、共に魔術の腕を競い合おう」
「ふふっ……はい、つるぎさん。お手柔らかによろしくお願いします」
リリーがその手を握り返すと、武士小路は嬉しそうにぶんぶんと豪快に縦振りした。
(なんというか……元気な方ですね)
なすがままにしていると、最終的に右手が解放されたのは二十秒後。
本当に元気が有り余る方でした、とリリーは内心でそっと付け足した。
ほどなくして武士小路は真面目な表情で話を切り出した。
実は、と。
「話というのは先程の君の自己紹介の事だ」
「はい? ええっと……自己紹介というと、先程の教室での、でしょうか?」
「ああ、そうだ」
首を縦に振る武士小路に、もしやとリリーは顔を青くした。
実を言えばリリーはその自己紹介に、尋常でない程意気込んでいた。失敗をしてはならないと模範的な
この学園の中等部の生徒は、実は殆どが初等部からエスカレーター式で進学した生徒なのだ。外部から転入してきた人間は一パーセントにも満たない。つまり大半の生徒には、初等部から時間をかけて築いた交友関係があるのだ。
そこで、彼女の脳裏に一つの疑問が生じた。
既に自分には仲の良い友人が数人居たとする。春に友人と共に中等部へ進学をしたが、同級生の顔ぶれは全く変わらない。果たしてその環境で、新たに人脈を広げようとするだろうか、と。
故にリリーは、自分の学園生活の命運はその自己紹介にかかっているさえ思っていたのだが。
(もしかして……私の自己紹介に、何か至らない所が……?)
一体どの話に問題があったのか。
あれが駄目なのか、それともこれが駄目なのか、と頭の中を何度も不安が駆け巡り、あわあわとリリーは目を回し始めた。
しかし彼女の勘ぐりはすぐに取り越し苦労だと気付くことになる。
「単刀直入に言おう。リリーさんのスピーチは素晴らしかった」
その一言にリリーは一瞬、思考が停止。
「…………………………え?」
まず彼女は耳を疑った。
恐る恐る、リリーは控えめに手を上げて聞き返す。
「ぁ……、あっあの……い、今…………なんと?」
「む? 君のスピーチが、素晴らしかったと言ったのだ」
聞き間違いではなかった、と。
彼女は今、確かに「素晴らしかった」と言った、と。
そう確信した時、瞬く間にリリーは笑顔を満開にさせた。まるで花が萎れるまでの映像を逆再生したかのように、暗澹たる表情が一転して祝福的な喜びに変身させた。
そんな様子に気付く事もなく、武士小路は話を続ける。
「まず堂々としていた。人前であれ程立派に自分の事を話すのは難しい。小学校での話も、成功体験を自惚れることもひけらかすこともなく、適切で魅力的な自分の売り込み方だった。更に同い年とは思えないくらい進路を見据えた目標だった事も興味深い。この武士小路つるぎ……いたく感銘を受けた!」
矢継ぎ早に褒める武士小路にリリーは、どことなく生き生きとしつつも平常運転で謙遜する。
「いいえ。まだまだ未熟な所ばかりでお恥ずかしい限りです」
「あの教室に居た誰もが、建前ではなく本気で拍手をしたんだ。誇っていいだろう。おかげで私も自らの力不足を痛感した。気付かせてくれた君に礼を言わせてくれ」
そう言うと彼女は深く頭を下げた。
ぴょこんとポニーテールが犬の尻尾の様に跳ね上がる。
「ありがとう、リリーさん」
「いいえ。こちらこそ、本当にありがとうございます」
リリーもまた、手を前にして頭を下げた。
上体を起こすと、放っておくといつまでも頭を下げかねないと、リリーは話題を変えた。
「つるぎさんに興味をもって貰えて、本当に嬉しいです。私はまだ学園に友達が……」
「む? そうか、君は外部からの転入組だったな」
「はい。ようやく両親から許可を貰うことができましたので」
「確かに……。友人と別れ、折角新たな学び舎に来たというのに、さぞ心細い事だろう──」
武士小路は一人頷きながら呟くと、右手の拳で自分の胸をドンと打った。
「心得た!」
「は、はい……?」
突然の一言に戸惑いを隠せないリリーに、武士小路は自信満々の笑みで答えた。
「私でよければ微力ながら力になろう。もし困ったことがあれば、この私に教えてくれ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「ああ。弱者を見捨てたとなれば武士の名が廃るからな」
「ぶ、武士……?」
奇妙な事を言う彼女に、リリーはどこか困ったような笑顔で応えるしかなかった。
しばらく他愛のない会話を続けると、武士小路は何やらそわそわとし始めた。
腕を組んで葛藤するなり、挙動不審にちらちらとリリーの表情を横目に伺うのだ。
やがて歯切れを悪そうに口を開いた。
「あー……その、なんだ。実は……リリーさんにはもう一つ用があるのだが……──」
「はい、なんでしょうか?」
にこにこと上機嫌に返事をするリリー。
それが数秒後に瓦解することになるとは、今の彼女は思いもよらなかっただろう。
「ああ、リリーさんは『青空研究会』というファンクラブを知っているか?」
ピシッ──
突然の
それは例えるならば蛇に睨まれた蛙。あるいは実はその蛇はメデゥーサだったのかもしれない。
不思議な反応に武士小路は怪訝な顔をした。
「む?」
「い、いえ! ──ゴホンゴホン」
思わず咳払いをして、
「それにしても皆さん、ファンクラブがお好きなんですねぇ」
「ああ。そういえば以前、校内新聞にファンクラブに入会しているかどうかのアンケート結果が掲載されていたことがあったが……さて、何割の生徒が入会していると思う?」
「そうですね……クラブはたくさんあると聞きますし、八割くらいでしょうか」
話題をそらせたことにほっと内心で息をつきつつ答えると、武士小路は不敵な笑みを浮かべた。
「入会率はなんと、九十九パーセント」
「それは……なんとも……驚異的、ですね」
きっとクラスで入会していないのは自分だけなのだろう、とリリーはその数字から推測した。
恐らくはこの学園において、ファンクラブに入るという事は一つの常識と言っても過言ではないのだ。
「何せ入会すれば交友関係が広がり、クラブで行っている研究には自由に参加でき、面倒見のいい先輩はテストの山を張るのに協力してくれる。その上、デメリットはゼロだ。入って損はない」
「それはみんな入会する訳ですね」
なるほどと素直に感心しつつ、リリーは自然と身構える。
武士小路という一見して面倒見がいい女生徒に、一つの気がかりがあるのだ。
(教室での武士小路さんは、恋ヶ原さんが私をファンクラブに誘っているのを見て割り込んだように見えましたが──)
とはいえ、わざわざ詮索して地雷を踏むわけには行かず、
「ところでファンクラブを掛け持ちするのはよろしいのですか?」
「フッ、いい質問だ。流石はリリーさん。ファンクラブは学園で作られた組織じゃあないから、従う規則はない。だが大抵は二つか三つ。流石に十、二十と参加するのははしたないと思って誰もしないようだ。まあ私は『青空研究会』一筋だがな」
リリーは上機嫌な解説にふんふんと相槌を打つと、「ふむう」と唸りながら、薄ピンクの唇に指をあてて思考した。
これなら、特に問題ないのでは、と。
(今自分はめぐさんからお誘いを受けていますが……仮につるぎさんからファンクラブに誘われても、両方のクラブに入ってしまえば問題なさそうですね)
これなら二人が喧嘩することもないだろう、とほっとしつつ、先に誘われた恋ヶ原の顔を立てるためにも、教室に戻ったらまず彼女の誘いに乗ろうとリリーは心に決めた。
「それで、その『青空研究会』というのは?」
なら手短に用件をすますべきだろう。
リリーは彼女が話したそうにしている核心を自らつつくことにした。
結果は予想通り、武士小路は待ってましたと言わんばかりに嬉々として語り始めた。
「うむ! 魔術決闘団体戦の全国大会で隊長として指揮を執り優勝に導いた名指揮官にして我が学園のエース。『青の君』ことソラ・シエルブル先輩のファンクラブだ! 昨年度の桜花祭では惜しくも準優勝者だったが、機動戦を主とする『青の君』のチーム戦術は驚くべきことに学園内で無敗! また魔術開発の分野においてはその優れたセンスを発揮して、中等部の時点で開発した光学迷彩魔術はいずれ魔術戦の常識になるとまで言われている。戦闘においても研究においても優秀、文武両道を体現した真の魔術師! まさしく、彼女こそ学園を代表する最優秀魔術師なのだ!」
と、武士小路は燃えるような眼差しをお天道様に向けて叫んだのだ。
じぃんと自分の話に涙を流しながら。
先輩の武勇伝を語っておいて自ら感涙する武士小路に、リリーは苦笑いを浮かべた。
その先輩の事が相当に好きなのだろう。変わった人ではあるが、恋ヶ原同様に悪い人ではなさそうだと思う。
さて、武士小路は制服の袖でがしがしと涙を拭くと、おもむろにリリーと向かい合った。彼女の手を取って両手でがしっと掴む。
「リリーさん! 是非とも入るのであれば『青空研究会』に入って頂きたい!」
リリーはなんとも悩まし気に声を唸らせた。
「急にそう言われましても──」
「君の後学のためにもなるハズだ、頼む!」
案の定こうなるだろうとは予想をしていたリリーだったが、しかしこれには困った。
お茶を濁してこの場を乗り切る予定が、どうにも武士小路はしつこかったのだ。
「誘っていただけたのは嬉しいのですが……──」
「おお! では早速こちらにサインを!」
「いえ、まずは先に誘っていただいためぐさんの方を──」
「いいや、あいつはまだ誘っていない! こちらのほうが先だ!」
「いえいえ、めぐさんを蔑ろにする訳にも」
「そこを何とか!」
食らいついたら離さない、まるで躾のなっていない犬のような武士小路と押し問答を繰り広げる事、十分。
リリーが根負けしそうになる頃。
「頼む! この通りだ!」
「ですから、いくら頭を下げられても」
「おーねーがーいーーーーー!!!」
「あばばばば」
強引に肩を揺すられている所へ、小さな人影が現れた。
「お待ちなさい!!!!!!!」
はきはきとした声。
軽い足音。
階段を上って二人の前へ現れたのは、初等部の生徒かと見違える程の小さな女の子。
「その乱暴な手を、リリーさんから放しなさい」
武士小路を下からきつく睨みあげて、彼女──恋ヶ原はそう命令した。
「めぐさん! 教室で待っててって──」
「あの野蛮な女と一緒に居ればリリーさんの身に危険がおよぶのではと思い居ても立っても居られず……──」
恋ヶ原は二人の間に割って入り、手を振り上げた。
鞭のようにしならせた細腕が武士小路の腕を打つと、舌打ちをして痛そうに引っ込めた。
「──でも、探しに来て正解でしたわ」
そう言うと貯め込んでいた怒りを吐き出すように長く長く息を吐いて、恋ヶ原は真剣な表情でこういった。
「おやめなさい、武士小路さん。リリーさんが嫌がっているではありませんか」
声は冷静そのもの。だが、その吊り上がった細眉は確かな怒りを物語っていた。
そんな彼女の心中など知る由もなく。武士小路はあっけらかんと言うのだった。
「嫌よ嫌よも好きのうちというやつなのだろう」
さも当然のように言う彼女に恋ヶ原は唖然。だが落とされた爆弾に、たちまち顔を真っ赤にさせた。
「な、な、なっ……──」
わなわなと肩を震わせる一方、武士小路は平然とした様子。
恋ヶ原の地雷原を悠々と歩き、起爆しても全く気にしない。そんな彼女の面の皮の厚さとズレた性格に、がくりとリリーは肩の力が抜けてしまった。
(重度の天然……もうこれは才能の域ですね……)
とはいえ煽られた恋ヶ原はそうはいかず、
「ふっ──ざけないでくださいまし!!!!」
一気に爆発した。
もはやその怒りを隠す素振りも見せず、恋ヶ原は武士小路へとずかずかと詰め寄って食ってかかった。
これはもう簡単には収まらないだろう、と。
リリーは思わず、目の前で始まろうとしてる喧嘩に顔を伏せ、手のひらで覆った。
「そんな屁理屈は通りませんわ!」
「貴様には関係ない。これは私とリリーさんの問題だ」
「関係ない……ですって? お、お、あ、り! ですわ! 第一、先に誘ったのはこのわたくしの方ですもの」
「そんな事は、私の知った事ではない。それに、入るかどうかを決めるのはリリーさんだろう」
「それを強引に入会させようとしていたのはあなたでしょう?!」
「だから、嫌よ嫌よも好きの内なのだろう?」
「それを屁理屈だと言いますの! そうは問屋が卸しませんわ」
「……? 丼屋? うどん屋……? 訳の分からん事を言うな」
「くぅ~~! 訳が分からないのはそっちですわ!」
やれやれと溜息をつく武士小路。
やりきれない気持ちに地団駄を踏む恋ヶ原。
そして一体全体どうすればと首を捻るリリー。
触れば火傷しかねないこの事態に、一際正義感が強い彼女は傍観を決め込むことができないでいた。
小さな火種から起こった口喧嘩とはいえ、放っておけば恐らく学園生活に大きな確執を生むだろう。それに自分も無関係という訳でもなかった。むしろ彼女達の口論の中心に立ってすらいた。
(お二人に悪気はありません。ですが、話が見事に嚙み合わない。このままでは平行線のまま、火と油のお二人が燃え上がるだけ……)
そろそろ頃合いだ。
リリーは初日から苦労が絶えないことに胃を痛めながら、恐る恐る挙手をした。
いい加減に止めなければ
「ええっと……とりあえず私が両方のファンクラブに入るというのは……?」
だが無念にも彼女の願いは叶わず。
「却下だ!」「却下ですわ!」
口論の最中にも拘わらず不思議と息が合った二人に一秒と立たずに一蹴された。
があん。
頭を殴られたような強烈な一撃に開いた口が塞がらず、リリーは涙目で呆然とする。
もはや彼女には止める力は残っておらず、ただ先行きを天に任せるのみ。
そんな彼女を置いてきぼりに、恋ヶ原と武士小路は言い争いを再開する。
ふふんと見下すような目で恋ヶ原は言った。
「あんな野蛮なお猿さんのクラブよりも、『赤の君を見守る会』こそリリーさんには相応しいですわ」
フンと鼻で笑って武士小路は当然だと言う。
「『青空研究会』一択だ。こんな高慢ちき女みたいになってしまわんようにな」
各々の述べた理由がまたお互いの勘に触って再び睨み合うのだから始末が悪い。
「誰が高慢ちき女ですって?!」
「誰が野蛮な猿だと!?」
だがしかし。
やがてというべきか、ようやくというべきか。
ともかくそのやり取りにも終止符が打たれることになる。
「私をその呼び名で侮辱したこと、後悔させてあげますわ!」
「それはこっちの台詞だ。貴様の様な無礼な女、私の剣の錆にしてくれる!」
二人は同時に袖を捲り上げた。
腕に巻き付いた魔術師象徴たるそれが空気に晒され、ジャラリと金属音がその場に鳴った。
互いが互いの顔を指差し、言い放つ。
「決闘ですわ!」「決闘だ!」
*
三人と二十余名はぞろぞろと校舎から外へ歩き出した。
先陣を切るのは恋ヶ原と武士小路、次いで浮かない表情のリリー。
決闘をするというただ一点にのみ意気投合をした二人は、なんとも味気がない淡々とした会話を交わす。
本来は魔術戦のために建設された専用競技場を使いたかった二人だったが、用途不明かつ当日即使用したいという彼女らの利用申請が通る訳もなく、
「致し方あるまい」
「この際、どこでも構いませんわ」
「同意だ」
最終的にここ、百合乃木魔術学園・第三運動場に彼女達は集合した。
入学式が行われたこの日、登校している生徒は一部だ。全学年授業はなく、クラブ活動も僅か。校舎近場のグラウンドでさえ使用している生徒はいなかった。
口数少なく大人しい様子の二人。
「「…………──」」
授業外の決闘に興奮が高まり食券を賭けた勝敗予想までしだす野次馬。
「決闘トトカルチョ! まだまだ受け付けてるよぉお!」
「はいはーい、わたし恋ヶ原さんに二枚!」
「じゃあこっちは武士小路さんに五枚だ!」
そして……──
「はあ……」
一人意気消沈して、奈落のように深く深く、溜息をこぼすリリー。
(こんな怒りに任せて始めた決闘で勝ち負けを決めても……。一体どう説得すれば、二人を止めれるのでしょう……)
それでも仲間を思って解決策を模索していた。
しかし二十余名と二人だけでなく、時間すらも彼女の味方ではないようで。
気付けば足元には硬い地面と白い砂。
振り返れば既に校舎は遠く。
「あっ……──」
考え事に耽っている内にリリーはグラウンドの中央に来ていた。
そこへ追い打ちをかけるように声をかけられた。
「リリーさん、少しいいか?」
前を向くとそこには準備万端な様子の、出来立てほやほやな彼女の友人。
「二人で少し話したんだが……──」
「申し訳ありませんがリリーさん、
「あの野次馬の中から私達が選ぶより、学園に来たばかりの貴方のほうが適任だとまとまったんだ」
彼女の心中など露知らず、二人のことで苦悩するリリーに当人達は尋ねた。
その眼差しは、どこまでも真剣で、真っ直ぐだった。
彼女らの顔つきからいたずらや悪い冗談の類ではないことはリリーにも見て取れた。
最早自分一人逃げる事は出来ない。
ぐっとリリーには二人を止めたい一心の気持ちを我慢して腹を括る以外に選択肢はなかった。
「
「はい、心得ております。私の正義に誓ってこの勝負、公平に執り行う事をお約束いたします」
そう言って、彼女は深く頷いた。
「それから……申し訳ないのだけれど、もう一つ」
「ルールの事で──」
「それは……──」
数分にも満たない僅かなやり取りの後。
やがてそれは始まった。
縦二百メートル、横三百メートルの長方形の中央。直径百メートルの不格好な円形の人の壁の中心点。
そこでリリーは大きく息を吸って、
「──これより、決闘を行います!」
その細い体躯でどうやってと彼女の声量に驚く外野を無視して言葉を続ける。
「魔術師、恋ヶ原めぐ!」
「はいっ!」
東側の人影から高声が一つ上がった。
「魔術師、武士小路つるぎ!」
「はい!」
同じように西側からも一つ。
問題がないことを認めてリリーは指示を下す。
「両者、前へ!!」
彼女の言葉に、恋ヶ原と武士小路は前へと出た。
片や優雅に、片や静かに。
しばらくして二人は自ずと足を止めた。その間隔、およそ十メートル。それが決闘の開始位置だからだ。
仁王立ちした彼女達は始まる前にも関わらず、敵意をもった熱い視線と侮蔑を含んだ冷たい視線を互いにずぶりと突き刺していく。
「ルールは中等部標準決闘規則に則ります! 禁止されているのは、障壁を破壊または貫通する特殊術式、高等部以上の高難度術式……──加えて、ここは決闘上ではありませんので、運動場の掘削などの破壊行為を禁止とします! なお禁止術式の個別説明はこの場では省略させていただきます」
平坦な口調でリリーは頭に焼き付けた条項を暗唱する。
そして恋ヶ原と武士小路に目線を送り二人が静かに首肯するのを確認して、「更に」と付け加えた。
「両者からの提案により、ルールを追加します!」
ざわり。
リリーの言葉に見守る生徒達は目を見合わせた。
「本来では決闘の制限時間は五分と決まっています──が、この制限時間を撤廃……時間無制限になります!」
その異常性に外野は戸惑いの声を上げた。
「無制限……?」
「それって……ええっと、どうなったら終わるの……?」
それは当然の疑問だった。
決闘では本来、彼女ら魔術師が腕に取り付ける
「魔力を全部使いきった時とか……あとは、気絶……?」
「装身具が攻撃に耐えれなくて
「でもそれって……二人は大丈夫なの……?」
困惑する彼女らの反応。
無数に棘を生やした茨に心が締め上げられるような思い。苦痛に体を強張らせ、苦悶に表情を歪めた。
それでもリリーは自らに鞭を振るって叫んだ。
「静粛に! 決闘は既に始まっているのです!」
対戦者の二人が合意したのだ。立会人の立場である彼女にも、ただ見守るだけの生徒達にもこれを撤回することは敵わない。
だがこのルールによって彼女らが望む所でもある二人の白黒が必ず付けられることだろう。
大声に生徒はしんと静まり返った。
同時に緊迫した空気が場を支配する。
観客たる生徒は緊張した面持ちでじっと開始の合図を待った。握りしめた手のひらはじっとりと汗ばみ、耐えきれずに生唾を飲み込む。
リリーは一呼吸。
立ち会う彼女もその空気にあてられて、陽光が降り涼しい風が吹く穏やかな天候だというのに頬を汗が伝っていた。
声を抑え、二人に尋ねた。
「よろしいですね?」
これは二人の魔術師への最終通告だ。立会人が開始を宣言すればもう後には引けない。
そして、
「ええ、いつでも」
「無論だ」
──自らへの最終通告でもある。
短い問答をかわすとリリーは残念そうに首を縦に振った。
ならせめてと、彼女は両手の指を組んでそっと目を閉じた。
(どうか二人が無事に、決闘から戻りますように……──)
眼を開けた時には少女は既に気持ちを押し殺した一人の立会人となっていた。凛と引き締めた表情で、右腕を青空に向かって伸ばした。
リリーは厳かに唱えた。
「
それは異国の言葉だった。
向かい合う二人は揃ってリリーへと跪いた。さながら主と従者のように恭しく頭を下げる。
「
従者は主へと右腕を差し出し甲高い音色を立てながら袖を捲り上げた。
姿を現したのは美しい光沢を放ち彼女らの細腕に絡みついた鎖と南京錠──現代の杖、装身具。
「
同じく真鍮に似た輝きを持つ鍵を胸元から取り出して南京錠へ差し込み、開錠──
「
──瞬間、光が飛散した。
装身具から溢れ出た魔力が輝く粒子となって宙に舞う。
「
最後の一節が叫ばれた。
同時に二人は弾丸の如く飛び出した。砂を踏み散らして、前へ。猛然と大地を蹴り上げる。
「
我が主への誓いを立てて……──
*
そこは二人だけの闘技場だった。
一歩を踏み出した互いの距離は九メートル。全力で駆ける少女らにとってそれは腕を振り上げる時間すら惜しい程に短い。
眼前の敵を屈服させるための猶予は僅かだ。
なら……──。
必然的に彼女らはその願望を満たす唯一の選択肢を行使する。
「
火だ。
恋ヶ原は小さな体躯から伸びる腕を左右へ広げ、その両掌へ魔術を発現させた。蝋燭に灯った火のような小さな力。だがたちまち人の頭ほどもある炎の塊へと成長を遂げる。
「
武士小路の走り出す先、くぐもった音を立てて地面が盛り上がった。
その正体は岩。地面を突き破って伸びるそれは氷柱の様。右手で掴み引き抜くと岩肌に亀裂が入り、中から粗雑な一振りの刀が現れた。
「──
さらに武士小路は続けて詠唱、薄い氷が刀を守るように浮き出て薄い刀身を強引に補強させる。
恋ヶ原はその得物から、単なる薄氷以上の魔力の濃度と頑強さを感じた。
彼女は舌打ち一つ、
「二属性の刀、厄介ですわね!」
そう言うと両手の炎を渦巻かせて凝縮。高温の火球へと変貌させる。
「お前に、言われたくないっ……!」
衝突する寸前、躊躇なく彼女らは己の魔術を振りかざした。
武士小路は両手で構えた白一色の氷刀を振り下ろし、恋ヶ原はそれを横に躱しながらに顔を狙って火球を投じた。
炎が爆ぜ、破裂音と共に小規模な爆風が全方位に流れた。
沈黙の中、ぱらぱらと舞い上がった砂が地面を打つ音。
砂煙が晴れた時、そこには魔術を魔術で受け止める二人の姿があった。氷の
「はっ、相変わらず小賢しいな、貴様の魔術は……」
「ぐっ……この剣術馬鹿め……」
刹那の出来事だった。
ぶつかり合う直前、不意を衝かれた武士小路は振り下ろしていた氷刀を瞬時に軌道変更。相手魔術を両断。小さな火球は威力半減しつつもその場で爆発を起こした。
武士小路は爆風を至近で受けながらも炎熱は受けず。隙を突こうと懐に入っていた恋ヶ原の不意を逆に突き、流れるように刀で切り伏せにかかった。
恋ヶ原は慌ててもう一つの火球の形状を変化させて防ぐしかなかった。
「火球は一つと思っていたが……炎を分裂させていたか!」
体重をかけて武士小路は彼女の小盾を割らんとする。同じ魔術とはいえ彼女の盾は一つの魔術を分けた物。その差は歴然、盾は次第にめきりと炎にあるまじき音を立てて凹み始めた。
馬鹿力に呻き声を漏らす恋ヶ原。だが追い詰められているにも関わらず、唇を弓なりにする。
「あぐっ……せめてこれは頂きますわ」
捨て台詞と共に彼女はあろうことか、小盾から手を離したのだ。横へ投げ出し、正反対のほうへと転がり逃げた。
行き場を失った刀は武士小路が前傾姿勢だったことも相まって、残された盾を貫通。ざくりと地面に深々と突き刺さった。尻尾を巻いて距離を取る恋ヶ原を恨めしそうに睨みつつ、彼女は獲物を引き抜きに取り掛かる。だが、ぼこりと奇妙な音が鳴った。
「むっ……?」
それは聞き間違いではなかった。
足元に転がっている恋ヶ原の置き土産。それが内側から金槌で猛烈に殴られているかのように、急速に膨らみ始めたのだ。
「くっ、止むを得まい!」
破裂するまで時間はない。彼女の自信あり気な口ぶりから察するに、これは再度魔力を注ぎ込んで爆弾に作り変えられているのだろう。
ならばと武士小路は刀の救出を断念、手を放しその場から脱兎のごとく逃げ出した。
そして限界まで膨張した炎の風船は次の瞬間。
「っ…………!」
轟音と共に爆炎を上げた。衝撃は周囲数メートルを巻き込んで爆風を起こし、炎熱は白い地面を黒く塗り潰す。
間一髪逃げ延びた武士小路は地面を転がりながら目と鼻の先の爆発痕を見つめた。
「流石に、この程度じゃああなたは倒せませんわね」
這いつくばる彼女へと退屈そうな声が掛けられた。
声の主は両手で火球を弄びながら、魔力を失って消えゆく炎をの様子を眺めていた。
当然だ、と武士小路は立ち上がる。
「私とて、あの攻防で貴様の首をとれるとは思っていない」
そういって再び氷刀を地面から生み出す。
目標は二、三十メートル先。
「どうした? そんなに離れていては戦いにならんぞ? まさかギブアップのつもりか?」
「ふふっ、よろしいんですの? ……それではお言葉に甘えまして」
薄く笑って恋ヶ原はゆっくりと歩き出した。それはまるで休日にウィンドウショッピングをするような優雅な足取りだった。
ふざけているのかと思いつつも、生真面目な彼女の性根は油断をしない。火球を投げられても簡単に躱せる距離。それでも警戒を続け、構えた氷刀の柄を握りなおした。
ふと恋ヶ原の横顔に風が吹き付け、髪がなびき制服の裾がふわりと揺らいだと思うと──
「なっ──!」
瞬間、彼女は目前に居た。
武士小路が気付いた時には既に恋ヶ原は一足一刀の間合いに入っていた。
人には成しえない神業。
まさに疾風の如く加速に武士小路は、
(風の魔術……!)
彼女が驚愕している間に恋ヶ原は左右の手から射出。眼前にまで迫っていた二つの火球を刀身で受け止めて堪える。爆発は小規模、氷刀は無事だ。
その間に文字通り追い風に乗った恋ヶ原は武士小路を飛び越えて背後へと回った。
「≪射貫け《トラパーフォ》、
背中で詠唱を聞き、彼女は急いで体を反転させた。
振り返った瞬間、炎の尾を引いた弾丸が四発放たれていた。
咄嗟、彼女は大きくバックステップを二回してそれを躱す。狙いを外した炎弾は直線軌道で地面を穿つと地表で爆発。土煙が派手に巻き上げられて正面の視界が塞がってしまう。
すぐに氷刀を構えなおし待ち構えていると、側面からも魔力を感知。横へ向き直ると再び炎弾四連撃。高速で少女を貫かんとする弾丸を、落ち着いて自身を狙う一発のみ弾き飛ばした。見当違いな場所を狙った攻撃はグラウンドに着弾する。
攻撃は止んだ。
油断ならぬ敵の猛攻に首筋に汗を滲ませながら、武士小路はふうと一息つく。
そしてようやく彼女は、相手の策にはまってしまったことに気付くのだ。
(……見えん!)
気付いた時にはすでに彼女の視界は奪われていた。
魔術で巻き上がった土と砂による二重の煙が武士小路を囲うように立ち込めていた。風は偶然か魔術で操作されているのか無風。剣一辺倒の彼女の戦闘スタイルでは解決のしようがなかった。
(やはり接近戦に持ち込む以外勝機はないか……)
苦虫を噛み潰したような顔で彼女は罵声を飛ばす。
「どうした、こんなちんけな魔術で私を倒せると思っているのか! 私を倒したくば正面からかかって来い!」
安い挑発だと内心自虐。
とはいえ無闇に煙に飛び込めば相手の思う壺という可能性も大だ。武士小路は吶喊するよりもこの場で持久戦を挑むほうが勝算があると睨んだ。
返事とばかりに煙越しに三度目となる炎弾。
その様子を、恋ヶ原はほくそ笑んで見つめていた。
(これで終わりですわ)
煙の向こう側、にんまりと表情を歪めながら指を振り下ろして合図を送った。
しかし何も起こらなかった。
何も起こっていないように観衆には見えた。
だが次の瞬間、快晴の青空に突如として球体が現れた。太陽の光の中に隠れていた橙色の物体は、太陽を遮ってやっと存在を気付かれる。
それは落下していた。
例えるならば小さな太陽とでもいうべきか。今まで掌サイズが関の山だった火球を優に上回る大きさ。その数メートルの炎塊は重力にひかれて落下速度を徐々に上げ、炎塊に比べれば非常にお粗末な魔術を防いでいた武士小路へと、墜落した。
ずんと衝撃が走った。
次に爆風が
巨大な炎球は衝突の際に内側から破裂。直上に火を噴きあげて武士小路を巻き込み炎上した。吹き荒れる爆風に距離を取っていた恋ヶ原も思わず足を取られかねない勢いにたまらず食いしばった。
やがて炎は勢いを弱め、後に残されたのは盛大に吐き出された黒ずんだ煙のみ。
「わたくしの隠し玉ですわ。あなたが即席爆弾と遊んでいた隙に作った火球八個分の大型火球……見事な爆発だと思いませんこと?」
空高く上った爆煙が水に落ちた絵の具のように透明な空気と入り混じって消えていく。その光景を見ながら、うっとりと悦に入る恋ヶ原は未だ姿が見えない宿敵に語り掛ける。
「もっとももう聞こえてはいないでしょうけど……」
小さく笑い声を漏らして。
だが恋ヶ原は違和感に眉をひそめだした。表情から喜色はなくなり煙の向こう側をしきりに訝しんだ。
やがてそれは確信に変わる。
ごとりと重石が落ちたような音が響いたのだ。
更には消えゆく煙にぼんやりと大きな影のようなものが浮かび上がり始めた。
そしてついには影は口を開いた。
ああ。見事だ、と。
煙が晴れるとそこには雪洞の様な白い半球だった物と、その内に身を隠す武士小路の姿があった。
「今のは流石に、少し応えたが──」
「キッチリ防ぎきっておいて、よくもぬけぬけとそんなことが言えますわね……」
氷と岩の二重構造で作られた分厚い壁で構成された丸天井。頂点はぐしゃりと潰れて半球を維持していなかったが、術者である武士小路は無傷であった。
地面に突き立てた刀を引き抜くと媒介を失ったそれはがらりと瓦解。役目を終えて魔力へと昇華、光の粒子になって空中に散らばって行った。
私もギリギリだった、と彼女は称賛した。
「まさか魔術をすでに太陽の中に隠していたとは。その上、
「……まあいいですわ。次こそはそのご自慢の盾も貫いて──なんですの、これは?!」
恋ヶ原は慌てて周囲を見回した。
それは一見白い靄。だが水蒸気は薄い布を幾重にも重ねるようにその姿を濃くし、気付けば一帯を真っ白な霧が覆っていた。
「フン、単なる意趣返しだ」
声の出所を注視するも彼女の目には霧しか映らず、もはや相手の姿を追う事は不可能だった。
(水の操作は彼女の十八番、特に液体の相転移が得意だったはず……)
恐らくこの霧も先程まで彼女を守っていた氷を変化させたものなのだろう、と推測する。
その時、
「──はっ……!」
頭上、霧越しに浮かんだ影に反射的に横へ飛び込んで転がる恋ヶ原。
直後、自分が居た場所に氷刀を振り下ろす武士小路の姿がそこにあった。
(間一髪ですわね……)
体を起こして呼吸を整えている間に、彼女は再び霧へとその姿を消した。
追うのを早々に諦め、現状の確認が最優先と判断。恋ヶ原は立ち上がり周辺を繰り返し見回した。
天候は全方位が濃霧。
一体相手がどこに居るのかも、果たして自分がどこに居るのかさえも分からない。
四肢を確認し、腕を前後左右に伸ばし、足元を確認。
彼女に見えるのは周囲数メートル。真っ白な運動場の上に立っている事からどこか別の土地へ転送された訳ではない。
しかしどうにも自分の居場所が掴めないでいた。
(これは……ただの霧ではありませんわね。空間認識能力を阻害する魔術……? わたくしを霧の檻に閉じ込めたつもりですの?)
徐々に自分の置かれた状況を理解していく恋ヶ原。
しかし相手はそれを許さない。
ぬらりと背後から忍び寄る影が一つ、短い足音と共に踏み込んで恋ヶ原へと飛び掛かった。
ほとんど直感で恋ヶ原は振り返った。
咄嗟に手を前に出して炎の盾を顕現──しない。
(……盾が、出ない……!?)
掌に集中させた魔力は命令に従って小さな火を生み出すが、それは渦を巻いたりする事も膨らむ事もなかった。纏わりつく水蒸気に邪魔をされ、火はじゅうと音を立ててあっけなく消滅した。
「無駄だ!」
そう言って武士小路が上段に挙げた氷刀は、慌てて両腕で防御態勢を整えた恋ヶ原を切り裂く。
しかし氷刀はその体に触れる事はなく、代わりに彼女を守るように浮かび上がった透明な壁を大きく傷つけた。
「……っ!」
「まずは一本」
追撃を避けようと恋ヶ原は即座にその場を離脱。
焦燥にかられながら慌てて呪文を呟いた。呪文は難なく成立し、少女の全身に風が纏わりつく。
しかし、
(障壁を、やられましたわ……!)
悔しさにぎりりと歯噛みして苦悶の表情。
装身具が術者をかばって起動した障壁。それが一刀両断とはいかないまでも見事に斬られ、霧で視界が封じられたこの状況。おまけに相手はその中でも恋ヶ原の位置を正しく把握している。
圧倒的に不利な状況だ。
それでも恋ヶ原は自らを奮い立たせる。武士小路に負けてもいいのかと厳しく叱責する。
(信じられるのは、自分の力だけ、ですもの……)
恋ヶ原は右手を優しく握りその上に左手を重ねた。まるで祈るようにその手の中に魔力を集中する。
はたして少女の願いを神が聞き入れたのか、あるいは彼女の努力と才覚のおかげか。
ぼうっと。
彼女は掌に仄かな熱を感じた。火は瞬く間に燃焼と凝縮を繰り返して、恋ヶ原が両手を開くとそこには橙色に発光した一発の弾丸がった。
ほっと一息。その顔には汗で髪を張り付けながらも安堵の表情があった。
無事に顕現してくれた事に小声で感謝の言葉を呟いて、
(こんな事なら風の攻撃魔術を習得しておくべきでしたわね……)
おごっていた自分へ悪態をつきながら自身の魔力総量から障壁の耐久度を、もっても直撃をあと数回だろうと見積もる。
障壁は装身具が術者を守るために自動的に出現する最終防壁。それが魔術である以上その魔力は術者が支払う事になる。故にその耐久度には限度があり、攻撃を受け続ければ必ず魔力は枯渇するのだ。あるいは攻撃に耐えきれず装身具側が緊急停止という事もありうる。
(それだけはさせませんわ!)
彼女は同じ要領でもう一つの炎弾を慎重に生み出しながら、どの方向から来ても迎撃するぞと気迫のこもった瞳で周囲を警戒する。
すると霧の中でも恋ヶ原の行動を見透かしたような──実際に見えているのだろう──武士小路の声がどこからか聞こえてきた。
「もう準備はいいのか?」
やはりとこの霧の特性に確信しながら少女は企むような笑みの表情を作り、平常を装って答えた。
「あら、待ってくださいましたの?」
「私は貴様のような卑怯な手は使わんからな」
不意打ちを、戦術を、卑怯と罵る武士小路。だが恋ヶ原に言わせれば、それは融通が利かない錆び付いた発想だ。
彼女はふふんと鼻で笑って「甘いですわね」と呟く。
「戦いに卑怯な手を使ってはいけないなんてルールはありませんわ」
勝てば官軍負ければ賊軍。敗者が何を言った所で負け犬の遠吠えだ。どんな手を使ってでも、最後にそこに立っている者こそが勝者なのだから、と。
彼女の魔術とは正反対に戦いに冷徹な態度で挑む恋ヶ原。
「む……違いない。征くぞ!」
その台詞を合図に第二ラウンドの火蓋が切って落とされる。
*
決闘が始まってから十分以上が経過。
しかし二人の戦いは、なおも熾烈を極めていた。
砂で地面が覆われただけの殺風景な闘技場の上、情熱的なダンスを踊るカップルのように二人は立ち止る事なく延々と魔術を振るい続けた。
周囲は恋ヶ原の視界のみを一方的に奪う霧の結界。近づかなければ視認できない以上彼女には少ない手札でしつこく接近戦を挑む以外打つ手はない。
一方で武士小路はそれを良しとした。彼女の振るう魔術は恋ヶ原とは対照的に剣術にのみ特化したそれだ。故に向かってくるというなら切り伏せるのみ、と己が剣でもって応え続ける。
武士小路が雄叫びを上げて正面から切りかかった。
すぐさま恋ヶ原は回避を選択、彼女の右側へ飛び込んだ。体を起こして態勢を整え、右手で守っていた弾丸を武士小路の背中へ撃ち込んだ。
しかし放った魔術は狙いが甘く、軽く屈んだだけでいとも簡単に外れてしまう。舌打ちしながらも左手に再び弾丸を生成。そこへ武士小路は屈んだ態勢で踏ん張り横振りの一刀を繰り出す。
隙を突いて頭部を狙った攻撃は、しかし間一髪。毛先で刃先を撫でながらも魔術で強化された身体能力で身体を逸らして躱した。
地面についた手で跳ね上がり、着地と共に何度目かも分からない強襲を敢行する。
前、側面、背後、あるいは空から。
彼女らは止まらない。
斬りつけ、撃ち込み、連打、ただ連打。
互いが互いの息をする暇を与えない猛攻の連続、だがついに状況が動き出す。
刀を振り上げた武士小路へ相打ち覚悟で放った恋ヶ原の弾丸が見事障壁を穿つ。
「くっ……小賢しい!」
叫びに呼応して、反撃を読んで後ろへ下がった恋ヶ原へと霜が纏わりついた。貼り付いた小さな結晶はぱきぱきと氷結を重ね肥大し、
「なっ──」
想定外の攻撃に驚いて言葉を失う恋ヶ原。
凝固した空気中の水分はたちまち分厚い氷の拘束具と化し、全身と周囲の地面を一体化。その頑強さと重量で動きを封じたのだ。
「ちょこまかと……──だが、これで貴様も終わりだな」
(不覚っ……!)
またしてもだ。それは彼女が怒り心頭に足る事実だった。
「こんなもの……邪魔ですわっ!!」
怒号と感情と共に爆発した魔力は炎となって現実に溢れ出た。
一瞬にして彼女を覆った氷の魔力ごと跡形もなく焼き尽くした。
火炎はそれだけでは飽き足らず、心情を現すかのように猛烈な勢いで噴出。瞬く間に周囲の霧を丸ごと飲み込んだのだ。
やがて濃霧はその形を維持できず、結界としての機能を失って周囲へ霧散し始めた。
「やってくれたな……」
霧が晴れ、姿を現した武士小路は呟いた。
呆然と自らの傑作が壊されるその光景を見上げながら震える程刀を強く握りしめる。
「まさか感情に任せただけの魔術でこんなにも簡単に壊されるとは……」
痛感した。
侮っていた、と。
彼女は卑怯なだけの非凡な魔術師ではない。
それは認めなければならないようだと自分を戒め、得物へと容赦なく魔力を送り込んだ。今度は一撃で障壁を砕けるように。
身の丈以上に膨らんだそれは、もはや刀と呼ぶには相応しくない代物だった。
(命名するならば、『氷塊』といった所か)
右手に下げたそれは、ただただ巨大な氷の塊だった。
ずしんと地に付けられ地面を揺らす異物を恋ヶ原は睨んだ。
考えるまでもない。まともにぶつかれば助からないだろう。障壁も粉微塵に消し飛ぶに違いない。
しかし彼女は肩で息をしながらも、笑って見せた。
「わたくしも、まさか……こんなに貧相な技で、追い詰められていたとは……思いません、でしたわ」
とはいえ彼女の置かれている状況は非常に厳しい物だった。体内に保有する魔力の大半を強引に引き出したことで体力が大幅に削られていた。
ほんの数十秒にも満たない魔術行使。その短い間にまるで長距離走でもさせられたかのように、急激な疲労感と全身を襲う寒気を彼女は感じていた。
それでもなお彼女は戦いを諦めない。諦めたくなかった。そのために虚勢を張って見せた。
「いつ消えても可笑しくない燃え尽きかけの癖に──」
武士小路はそう呟きながら、
「いいだろう、私が引導を渡してやる。その薄っぺらな自信ごと押し潰してやる!」
氷塊を引きずって歩き出す。
武器の重さを感じない彼女の歩み。魔術で強化した身体能力は軽々とそれを振り回すことだろう。
彼女に今までのような甘さは期待できない。
恋ヶ原は利き手を固く握りこんだ。
そして手のひらを開くと、彼女の十八番──火の玉が顕現された。とはいえ、それは蝋燭の先端についた
消耗しきった彼女にはそれが限界だった。
だから、と彼女は周囲に目を向ける。それは見守る生徒達に、ではない。感情に任せて燃やし尽くした自身の魔力に、だ。
魔術が消滅した後に残った魔力は、所詮は魔術の残骸。崩れかけの枯葉が薪の代わりにならないように、一つ一つは何の足しにもならない。それでも恋ヶ原は一枚一枚を手元へとかき集めて、火の中へと一気に放り込んだ。
するとどうだろう。
綺麗なガラス玉と見間違う大きさのそれはたちまちに渦を巻き、轟と燃え上がった。
吹けば飛ぶ微かな火は轟々と燃え盛る炎へと成長を遂げた。易々と彼女の手を飲み込み、外炎が揺らぐ紅蓮の拳へと成って彼女に力を貸す。
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ!」
今となってはもう何度目かも分からない衝突。
(だが、恐らくは──)
否、確実に。
この衝突を最後にして、勝敗は決する事だろう。
そう二人は確信していた。
彼女達の心に降参の二文字はなく、
また『次』を考える余裕もない。
(……わたくしには、この一撃に賭けるしか──)
あるのは単純で明快な、たった一つの思考。
己の全身全霊の一撃でもって目の前の壁を打ち破る事。
故に、相手がどうなろうと知った事ではない。
少女は覚悟をもって拳を振り上げ、
(こんな所で立ち止まるわけには行きませんのっ……!)
少女は覚悟をもって剣を構え、
(この程度の試練で躓いては、魔術師になど到底なれる訳が──!)
勝ちさえすれば。
そうだ。この戦いに勝利さえすれば、それ以外の些事なんてどうでもいいのだ、と。
失念していた。
それ故に二人は、失念していた。
とても大切な事を。
果たしてこの決闘を始めたのは──
そもそも何のためにこんな争いを──
あるいはもっと、更にもっと。彼女達の本質に近い過去の記憶。
誰に憧れて魔術師を志したのか、さえ──
最早無意味だ。
理由なき戦いに何の意味ない。
力を振るい、振るわれて傷つく。
そこに何も意味がないとしたら、それはただの死闘じゃあないか。
ならば、
それならば、続ける必要はない。
私が見守る理由はどこにもないだろう、と。
「この勝負、そこまでっ────!!!!!!!」
疾風が吹き荒れた。
絶叫と同時。二つの魔術が交錯するその中心を突如として強風が襲った。
風が砂塵を巻き起こして観衆の誰もが思わず顔を庇い、次の瞬間に驚愕した。
決着が付くはずだった戦いは、
「馬鹿なっ……」
「な、なんで……?」
決闘の真っ最中だったはずの二人は驚き、戸惑い、その手を止めた。
闘技場を強襲した風の中心地、すなわち恋ヶ原と武士小路の二人の間。そこに金色の髪を揺らす一人の少女が忽然と現れていた。
それは紛れもなく、この決闘の立会人を務めていたリリー・フローラズだった。
場外に居たはずの彼女がそこに居る。それ自体は風の魔術を行使して飛び込んできたという事に違いはないだろう。
だが、これは一体どういうことか。
「なぜ、なぜ、わたくし達の魔術が……」
「分からん……どういう事だ、これは」
理解不能の表情を示す二人が顕現していた魔術が、跡形もなく消えていたのだ。
程なくして、ガラス細工が落下して割れるような音色が周囲に響く。それと同時に透き通った花びらが舞う桜吹雪が彼女らの周りに広がった。装身具が作り出す障壁が、魔術が消滅した反動に耐えきれずに粉々に砕け散ったのだ。
「あ、あらっ、あららら……」
「むっ……」
唐突な脱力感に二人はその場に崩れ落ちた。恋ヶ原は抵抗する暇もなくへたり込み、武士小路は膝が笑って耐えきれず地面に突っ伏した。
「むぐっ──ぐぬぬ……一体なんだというのだ」
「そっ……そうですわ! 事と次第によっては例えリリーさんといえども許しませんわよ!」
まったくもって意味が分からないといった風に二人は眼差しを向けると、当の本人は口を固く閉ざし、
「………………えいっ!」
容赦なく恋ヶ原の頭へ拳を振り下ろした。
「あいたっ!」
突然の事の連続で頭が追い付かず、動揺する武士小路。
「ど、どういう事だ?」
だが同様に拳を振り下ろす。
「………………このっ!」
「んがっ!」
理解不能な行動に、二人は戸惑うばかりだ。何せリリーは、まるでこれが答えだと言わんばかりに腕を組んで沈黙を続けるだけなのだ。
しばらくして、最初に痺れを切らしたのはリリーだった。
「二人とも、やりすぎです!」
怒気を大いに孕んだその口調に二人は反射的に気合で背筋を正す。
「無茶をし過ぎなんです! 何なんですか、あの危険な魔術は! あれをお互いに使っていたらどうなっていたことか……。立会人としても、友人としても、私の正義としても、こんな私闘は許せません!」
リリーは厳しい表情で、強く叱責した。
それは出会ってたった半日の仲とはいえ、温厚な彼女を知る二人には考えられない一面であった。
「そもそもの事の発端は、私をどちらのファンクラブに入れるかというだけのお話でした。恋ヶ原さんの憧れる『赤の君』こと日向先輩のクラブか、あるいは武士小路さんの尊敬する『青の君』ことシエルブル先輩のクラブか」
ただそれだけの話だった。
しかし、
「それをあなた達は、私闘に仕立てあげたのです。どちらに入るかなんてものは私が決めればいいというのに。私や二人の先輩を口実にして」
「うっ……」
「それは……」
「何が違うんですか! 少なくとも私は、友達同士の、こんな痛々しい争いなんて、望んでません!」
それこそが唯一無二の事実だった。
リリーはぐっと涙をこらえて二人に尋ねた。
「お二人が信じた先輩方はどうなんですか! こんな大事故を起こしかねない危険な、決闘ですらない私闘を、正しいと言うんですか!?」
それは二人にとって至極簡単な質問だった。
きっと、考えるまでもなく、あの人ならこういうだろう。そういう言葉が脳裏に即座に浮かび上がるくらいに。
それ故に、
「すまん、悪かった……」
「ごめんなさい、リリーさん」
悔し涙がぽたぽたと零れ落ちた。自らの情けなさに顔を上げることができないまま声を絞りだす。
殴られたのだ、当然頭は痛かった。
だがそれ以上に──
この学園で目指す目標として、心の底より慕ってきた先輩。
自分から手を差し伸べて仲間となったばかりの友人。
その二つを同時に裏切ったことに胸が張り裂けそうだった。
嗚咽を漏らしながら涙を流す彼女らを、
「いいんです。誰だって失敗をするんですから……」
そう言って抱き寄せるリリーのぬくもりに二人はより一層涙を流したのだ。
リリーはまるで母親の様に二人の背中をよしよしと優しくさすりながら、もう無茶はしないようにと言い聞かせて。
そしてようやく、二人の非公式な決闘は、終わりを迎えたのだった。
「きゅーん。……分かりました、リリー様」
「……様?」
奇妙な疑問を残して。
*
後日。
破天荒なイベントに巻き込まれた転校初日とは裏腹に、その後の学園生活を平穏に過ごしていたリリーだったのだが、
「申し訳ありませんが、私は……どちらのクラブにも入る気はありません」
数日前の険悪なムードから一変、ぎこちないながらも協力的な雰囲気の二人の来訪者──というよりはクラスメイト。
対して開口一番に遠慮がちに切り捨てる金髪少女。
「いえ、今日はそういう話ではなく──」
「ええ。別のファンクラブのご紹介になりますの、リリー様♡」
「り、リリー様……?」
明らかに奇妙なその呼び方に、自然な微笑みで聞き返すはずのその頬がぴくりと引きつった。
彼女の一般常識において対等なクラスメイトの間柄で『様』とつけるのは相応しくないと認識はしていた。しかし、
「はい、リリー様♡」
「なんですか? リリー様♡」
「どこかおかしゅうございますか? リリー様♡」
などと鉄の意志を見せる恋ヶ原に、
「私にもよく分からないが……先日の一件で、恋ヶ原の貴方を見る目が変わったらしい」
「もうめぐさんのお好きな呼び方で結構です…………」
「ありがとうございます、リリー様♡」
最終的にこめかみを抑えながら盛大な溜息をついて、リリーが折れることになった。
今にも天に昇ってしまいそうな程幸せな表情の恋ヶ原に毒気を抜かれて最早文句の一つも出ない。
「それで、ええっと──新しいファンクラブの話、ですか」
「うむ。まず先に言っておくが、誓って私達は『赤の君』と『青の君』への勧誘を貴方にはしない」
「それは……意外ですね」
「元を辿ればそれが原因で先日はご迷惑をお掛けてしまったことですし……。わたくし達も反省をいたしまして、もう二度とリリー様へクラブ活動への勧誘はしないとここに誓いますわ」
なるほど、と納得した。
実際の所はリリーの琴線に触れる問題さえ起きなければ、勧誘云々は彼女にとってはとるにたりない話だった。しかし自分が二人の参加するクラブに入らないことで仲が保たれるのなら、それは願ったり叶ったりだ。ファンクラブには興味はあったが、それは追い追い探せばいいだろう。
今はまず恋ヶ原と武士小路が手を取り合っていることを喜ぶべきだ、と嬉しそうにうんうんと頷いた。
「そ・れ・で、代わりに新しくファンクラブを作ることにしましたの♡」
新しいファンクラブ。
縦に振られた彼女の首は、奇妙なキーワードに引っかかり横へと傾げられた。
やがて自然に一つの答えへと彼女は辿り着いた。
(なるほど。入るファンクラブがない私へ、親切にも何のしがらみがない新しいファンクラブを作ってくださったのですね)
それは素晴らしい提案だとリリーは内心で喝采を上げた。
「うむ! 珍しいことにその点だけは恋ヶ原とも気が合ったのだ」
「ふふふっ、当然ですわ。リリー様の事であれば、このわたくしにお任せあれ!」
更に、和気あいあいと話す二人から素晴らしい友情も感じられるではないか。先日までは険悪だった二人がここまでの友情を築いた事に、これは諸手を挙げて新しいクラブとやらを祝福しなければならないだろう。
じいんと感極まって涙を流しながらリリーはぱちぱちと一人拍手。
「あれ程仲が悪かったお二人が手を取り合って……なんて美しい友情でしょうか。それで? どちら様のファンクラブなんですか? 先輩方? それとも同級生でしょうか?」
「もちろん、リリー様のですわ♡」
「うむ! うむ! 当然だ!」
『リリー』……?
「……はい? 今、なんて……?」
思わずリリーは聞き返すと、二人は満面の笑みで親切に答えるのだ。
「ですから、リリー様の、ファンクラブですわ♡」
「リリー……? リリー……フローラズの…………?」
「その通りだ!」
「…………わっ……私のファンクラブぅ!?」
ようやく理解が追い付いた彼女に容赦なく首肯。
どうやら聞き間違いではないようだ。しかしまだ彼女は得心が行かないようで困惑顔のまま。
「ええっと……ええっと? ……何かの『代わりに』クラブを作ったとお聞きしましたが……」
「うむ。リリーさんを二人で取り合うのをやめる『代わり』に、抜け駆けする奴が現れぬようクラブを結成したのだ」
「リリー様の美しさ、愛らしさ、そして女神の如き優しさ。それらはみんなで共有すべきだとわたくしは思いますの……」
自信満々にいう武士小路と、うっとりと妄想に耽る恋ヶ原。
入学早々何故か自分のファンクラブが作られた事に。
その同じクラスにできた友人から友情以上の好意を感じる事に。
これから三年間、波瀾万丈な学生生活が待ち受けているのではないだろうか、と言い知れぬ何かとてつもない事が起こる予感がするリリー・フローラズだった。
「ふふふっ、勧誘することは諦めましたけど、リリー様のことは諦めてませんからね♡」
「先日受けた御恩は決して忘れません。この剣に誓って、御身はこの私がお守り致します」
じょ!じょ!じょ! しらいさん @shirai_san
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