世界銃 / 主人公の定義

胆座無人

【ある作家の、ある作品のあとがき】

胆座無人『彼が世界を救うまで』1巻あとがき


 はじめましての人ははじめまして、そうでない人はお久しぶりです。

 著者の胆座無人たんざないとと申します。


『彼が世界を救うまで』、お手に取っていただきありがとうございます。

 邪悪なる神の支配に抗い、世界を救うべく立ち上がった少年の物語。第一巻、どうだったでしょうか?

 幼いころに戦火で両親を亡くし、幼馴染の家に引き取られて暮らしてきた主人公。そんな彼はある日、自分こそが世界を救う使命を授かった勇者なのだと王に告げられ、苦難に満ちた神殺しの旅に出ることとなりました。

 考えてみれば、出だしからだいぶハードな境遇の主人公ですが……。はたして彼は悪しき神を打ち倒し、世界を救うことができるのか? それは、続巻以降のお楽しみということで。


 さて、ここからちょっと脇道に逸れますが。

 先に書いた通り、このお話の主人公には両親がいません。主人公が幼いころに、二人とも戦争で命を落としています。

 で、この作品と並行して進めている私の別シリーズに『普通のラブコメができない僕らの日常』というのがあるのですが(さりげない宣伝!)、こちらは剣と魔法のファンタジーではなく、普通の学園ラブコメとなっています。

 が、こちらの作品の主人公にも『両親が長期の海外赴任中』という設定があるんですよね。そのため現在は妹と二人で暮らしている、という。


 ……主人公の両親って、いないのが普通なんですかね?


 いや、まあ、私もいちおうこういう小説を書くことを仕事にしている身ですから。もちろんわかるんですよ。

 いないほうが話が作りやすいなーとか。いないほうがいろいろ都合がいいなーとか……いや、わかるんですけどね。

 でも、こういう小説ばっかり書いてるとですね、ある日ふっと、こんなことを考えたりするんです。


「主人公に両親がいない」のではなく、

「両親がいない者こそが、主人公に選ばれるのだ」と。


 たとえばこの作品、『彼が世界を救うまで』の主人公には「神殺しの紋」と呼ばれる痣が腕にありますよね。「この痣を持つ者だけが神を殺すことができる」という伝承に従って、彼は旅に出るわけですが……

「たまたま両親のいない人間に神殺しの紋が発現した」わけではなく、「両親がいない人間だからこそ、神殺しの紋が発現した」。

 つまりですね、彼は両親を失うことで『主人公』の資格を得たんじゃないかな、って話です。


 何が言いたいのかというと、主人公を定義するのは主人公本人ではなく、その周りの環境なのではないかってことです。

 まったく何の変哲もないモブキャラみたいな人生を送っている男子高校生でも、なんとかして両親が長期の海外出張に出るよう仕向けられれば、その瞬間から運命が変わってラブコメの主人公みたいな人生を送れるようになるんじゃないかな~っていう…… 

 ……そんなことを、締め切りが迫ってきて精神が追い詰められると不意に考えたりします(笑)


 さて、ページ数が残り少なくなってきたのと、冷静に考えるとこれあとがきで堂々としていい話じゃねえなと気付いたので、このへんで……

 あとがきというのは、大抵最後のほうのページに載っているものだと思います。

 ですから、この次のページをめくれば、その先に待っているのは『彼が世界を救うまで』の物語ではなく、つまらない『現実』の物語です。

 でもまあ、結局のところ我々は現実に生きている人間なのですから。

 から待っている『現実の物語』を、せいぜい楽しむしかないのでしょうね。


 以上、胆座無人でした。

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