1分間の深呼吸

公園遊児

第1話【血溜まりに顔】

初めて私が人を殺したのは

ほんの数秒前の事でした。


お腹にナイフを突き立て

内臓の奥に切っ先が触れる感触が分かりました。


ナイフを伝って流れる血が

両手に生暖かく伝わるのを感じながら

私は、今までの自分の人生を

振り替えってみる事にしました。



ーーーーーーーーーーーーーー



自分は、表に出るような性格ではなく、何か楽しい事があっても、遠くから見ている事しかできない、臆病で、面白味のない性格でした。


もちろん、そんな私に友達など出来るはずがなく

いつも1人、教室の片隅で本ばかり読んでいました。


本に集中している間は

なんてこと無いのですが

ふとした瞬間に訪れる寂しさに

いつも押し潰されそうになっていました。


毎日、呪文の様に、「このままじゃ駄目だと」

自分に言い聞かせていました


私だって友達がほしい。

校庭で鬼ごっこをしたり

昨日みたテレビや、好きな男子の話をしたい。


でも、その術を

私は、知りませんでした。


そんな時、私は彼と出会いました。

彼は私と違って、活発な子でした。

臆病な素振りを見せる事も一度もありませんでした。


私は彼に、憧れを抱く様になりました。

私は彼と、友達になりたいと思いました。

彼は「いいよ」と答えました。

私の初めての友達でした。


飛ぶように喜ぶ私に

彼は「馬鹿だね」と笑い返しました。


それから不思議な事に、彼と一緒にいると、

自然と友達が増え始め、私と彼の回りには

いつも人だかりが出来ていました。


私の人生で、この事が最初で最高な

幸せだったのかもしれません。


でも、教室の隅で本を読んでいた頃の

ふとした時に訪れる寂しさが

いつも私から離れる事はありませんでした。


この回りにいる友達も

私ではなく彼に会いに来ているのだと

私ではなく彼と遊びたいのだと


私は彼の金魚のフンなのではないかと


彼に対する憧れは、日に日に

劣等感に変わって行くのが分かりました。


彼がいる限り、私の人生は

この先上手く行くはずがない。

そう結論ずける事しか出来ませんでした。


ーーーーーーーーーーーーーー


ナイフを握る手が不思議と緩くなりました。


いま思うと別に彼が嫌いだったわけではありません。


ただ、彼に嫉妬していただけなのです。


自分の中にいる彼に対して

「ごめんね」と言うと

私は、その場に崩れ落ちました。


彼は「馬鹿だね」と一言だけ言いました。


私は、薄れる意識の中

血溜まりに反射する自分の顔を見て思いました。


「もう少し生きてみたかった」と。

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