バッドエンドから始まるやさしくてニャーゲーム!

陽夏忠勝

第一話



そこは、現実の世界に遠くて近い異界の地、【アイラディア】。

世界と同じ名を冠する神と、神を支える12の根源が統べる場所。

かの地で暮らす人々の一種族【コドゥ】は、世界の全ての場所に存在し、世界を創り構成すると言われる12の根源の力を体系化し、魔の法として具象化することで発展してきた。



月のアーヴァイン。

火のカムラル。

水のウルガヴ。

木のピアドリーム。

金のヴルック。

地のガイアット。

雷のガイゼル。

氷のルフローズ・レッキーノ。

風のヴァーレスト。

光のセザール。

闇のエクゼリオ。

時のリヴァ。


それらを扱うことのできるもう一つの種族、【ナヴィ】の力を借りることによって。


しかし。

コドゥとナヴィ……アイラディアで暮らす二つの種族は、お互いを対等と認め合い、仲良く生きていくことがなかなかできずにいた。


数が少なく、アイラディアと、各々が信ずるその根源に愛されていることを自負し、ひとりひとりが大きな力を持つ、自尊心の高いナヴィ。


数は多いものの力を持たず、ナヴィに依存しなければ生きていくのも難しい……そんな劣等感を持つコドゥ。


そこには生物としての圧倒的な差がそこにはあって。

それなのにも関わらず。

ナヴィは命をかけてコドゥを守り、その願いを叶えなければならない。

そんな宿命をアイラディアに背負わされていたからだ。



それでも、始まりの頃は……まだ良かったのだろう。

コドゥを守ることがナヴィの全てであったならば。

ナヴィにしてもコドゥにしても、お互いがいなければ生きていけないことを、

ちゃんと分かっていたのだから。


だが。

ナヴィの中に【命のキセキ】と呼ばれる大事なものを持つものがいるということが世に知れ渡ってから。

命のキセキというものが、ナヴィの命とも同じ……あるいはそれ以上のものを引き換えに、その力を与えられたもののあらゆる願いを叶えるものだと知れ渡ってから。

そんな命のキセキをその身に秘めた、12の根源の【御名】を持つ特別なナヴィである、【レイア】と呼ばれる者達がいることにコドゥが気付いてから。


世界は変わってしまった。



その力を初めに使ったナヴィ……光の根源の御名を持つレイアが、一体どんな意図を持ってそれを世界に知らしめたのかは分からない。

その日から世界は……レイアであるないに関わらず、ナヴィたちにとって地獄と成り代わった。


己の欲望に駆られたコドゥたちに、その命を狙われるようになったナヴィは、圧倒的なほどに数で勝るコドゥのその行動に驚き、戸惑いながらも抵抗しようとする。


でも、背負う宿命には逆らえない。

絶望の涙の中、一人、また一人とその儚い命を散らしてゆく。

コドゥのためにあるその願いを、結局叶えることもできずに。



そして……。

使われることのなかった願いの力は……持ち主であるレイアが命落とすことで、世界に溢れた。

溢れたその大きな力に、世界は耐えられない。

だんだんと世界は崩れ始めて。


そんな滅びに向かおうとする世界に見切りをつけた神は、ある特異な力と、新しい神になる権利をレイアのひとりに与え……その世界から去ってしまった。


レイアの中にある命のキセキ。

その力を取り出し、その背中の翼に溜め込み、仕舞い込むことのできる力を。

無慈悲な神は、その翼あるものに、世界を押し付けたのだ。


これは、そんな神と世界に翻弄され生きた……悲しいひとりのナヴィの物語。



―――アキヨ・シリヴァ著・『臆病風の冒険』、序。



              (第2話につづく)






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