旅立つ朝に

るーと24

旅立つ朝に

「かばんさんがいなくなったぁ~!?」

「話が急すぎたのかもねぇ~直してもらったみんなの手前迷ってるなんて言えなかったのかも~」

「そんなぁ~!」

「サーバルはさ~かばんさんも誰も居ない状態でさ~島を出られるぅ?」

「そ、それは…」


かばんちゃんに船みたいになるバスをお披露目して島を出るお手伝いをしたいって思ったけど…


かばんちゃんの気持ち考えてなかったかも…

やっぱりついて行くって言った方がいい?

もう一個のバスも船みたいにしちゃったって…


でも昨日の夜『ボクの都合で連れて行けない』って断られたし。


「とにかく探してハッキリさせようよ~アッチで見たって言ってたよ~」

「ホントかフェネック!?ならば突撃なのだー!」

「はいよ~じゃあサーバルはアッチね~」

「う、うん…」


突っ走るアライグマを追っかけるフェネックが小声で「お願いね~」って。

フェネックって何でも知ってるって顔してるから調子くるっちゃうだよね。


…とと、とにかくかばんちゃんを探さなきゃ。



「…雨?…は降ってない?あれ~?」

パチパチと“ろっじ”で聞いた雨みたいな音がする。


コッチは…“ゆうえんち”近くの…森の中?

あれ“ろっじ”で見たような確か“てんと”のおっきいのがある。


どうやって入るのか分からなかったからイモムシみたいになってモゾモゾして入る。すると


\\ワーパチパチパチパチ…//


誰もいないのにいっぱい声と雨みたいな手を叩く音が聞こえてきて

“ぱーく”のみんなが座れる位のいっぱいの“いす”の真ん中がポッカリ開いててそこに…


「うわぁ~~すっごぉ~~い」


インドゾウがおっきい丸いのの上に乗ってるっ


キンシコウが高いところにある“ろーぷ”の上を歩いてる。

“こうざん”で私も歩いたことあるけどスグ落ちちゃったよ。

すごいなぁ~


うわぁっ!ライオンっ火の輪っかをくぐってる!

怖くないのかな~私すっごく怖かったけどな~


みんな顔に星や太いくちびるを描いて面白い顔しているのにすっごい事しててびっくりの連続だよ~。


あっミライさんが出てきた。

みんな片手ずつ手をつないで大きくおじきをしたら

どしゃ降りの雨みたいな音が降ってきた。


私にはこれが何かよくわからない。

ただフレンズのみんなが楽しそうで

みんなミライさんが大好きだって事だけわかる。


――シュウゥゥン――


ボスが“いつもの”を出してた音がして

雨が降り始めた時のような手を叩く音が聞こえた。


「え…あっサーバルちゃん。もう時間かな?」

「ううん、まだだよ。すごかったね~これも“あとらくしょん”かな~」

「うん。サーバルちゃんを探してた時にたまたま見つけたんだ。」


かばんちゃんが立ち上がってミライさんが立っていた場所に立つ。


「島を出る前にもう一度ここにきたかったんだ…昨日ね…はかせとお話して“マッチ”を返そうとした時にね…」


――――


「はかせ、『コレ』有り難う御座います。お陰で助かりました。」


「役立てて何よりなのです。我々は賢いので他のフレンズより一歩二歩先を読んでいるのですよ。」

「もっと褒め讃えるのですよ。」


「…あ、はは。あ、でもヒグマさんも火が使えるのでしたら『コレ』はお返しした方が…」

「……『コレ』はお前が持っておくのです」

「『コレ』はフレンズからお前への戒めなのです。」

「…戒め…ですか?」


「かばん…我々フレンズの中に何故絶滅種 絶滅危惧種がいるのか、ヒトが何故我々から姿を消したと思いますか?」


「それは…セルリアンの…」

「それもありますが ヒトが“大きな火”を生み出して同胞や我々仲間を殺してしまったからなのです。」

「ぇ…」

「なので島の外へ出れば身に覚えがない事や過去のヒトの所業で責められるかもなのですよ」

「勿論我々はヒトが過去にした事を かばんに責めるつもりはありません。でももし島の外で正しいと信じ込んで悪い事をしてしまったら…我々はかばんを軽蔑します。」

「かばん…どうかそんなバカヤロウの考えに染まらないでほしいのです」

「頼みましたよ」


―――――

「…う~~ん かばんちゃんも はかせ達も言ってる事 難しくてわかんないよ~」

「あ、ゴメンね。え~と、島の外に別の“ボク”が居て、その子はすごい悪い子で…その子のせいでボクが悪い子だと言われたり ボクまで悪い事をするようになって」

「そんなのヤダっっ!!」


声が大きく響いて かばんちゃんがびっくりした顔をしているけど私は止まらない。


「かばんちゃんが悪い子だなんて言われるのヤダ!言う子が居たらかばんちゃんがすごく良い子だって何倍も言うよっっ。かばんちゃんがもし本当に悪い事しちゃったら…私も謝る。許してもらえるまで何回も何回も何回も…あやまるからぁ~」

「さ、サーバルちゃんっ」


涙でかばんちゃんの顔もまわりもぐちゃぐちゃだけど止まらない。


私の大好きなかばんちゃんが私の知らないかばんちゃんになっちゃうのもヤダ…


涙をぬぐってくれたけどまだ止まらない。

少しため息をついて抱きよせてくれたからギュッと抱きしめた。


胸のあたりがフワフワして涙がスゥって消えていく。


「だからね、あれからいっぱい考えて考えて答えを出したんだよ」

「…なぁ~に?」

「ヒトを調べるんじゃなくて ミライさんの事を調べる旅にすればいいんだよ」

「うん…」

「ラッキーさんみたいにミライさんに逢ったラッキービーストさんが居るかも知れない。ミライさんみたいな方に逢えるかも…だから大丈夫だよ」

「うん…」


ホントはよくわからない…わかってないけど

こんなにすごくて優しいかばんちゃんなら大丈夫だって思える。


「じゃあ“みなと”に行こうっ。みんな待ってるよ。アライグマ達が心配…」


ゴシゴシ涙をぬぐいたくて抱きしめてた腕をゆるめたけど

今度はかばんちゃんがギュッと抱きしめてくれた。


「か、かばんちゃん!?」

「もう少しだけ充電」

「じゅうでん!?かばんちゃん“でんち”になっちゃったの!?」


フワフワしてた胸がドキドキに変わってく。

そう言えばかばんちゃんから抱きしめてくれる事ってあまりないし

こんなに長くギュッとした事ないし


うわぁうわぁ ドキドキして顔がすごく暑いよぉ~


「充電完了だよ。ごめんね、サーバルちゃ…」


ギュッとするのをやめてくれたけど 今度は顔が近くて


“プレーリードッグ式あいさつ”がしたくてたまらない…

でもそれってかばんちゃん嫌じゃないかな…

あれ…かばんちゃんの方から近づいて…

ぁ…


「かばんさーんっどこにいるのだー!?いるなら返事してほしいのだーっ」

「ふぁいっっ」


アライグマが勢いよく“てんと”の中に入ってきたので思わず…いや、かばんちゃんに押されて離れた。


「かばんさんっホントは島を出るのがいやなのか?!本当の事をアライさんに話してほしいのだーっ」

「あ、アライグマさん落ち着い下さい。ただ最後に立ち寄りたい所があったんで…」

「そうなのかーすごく心配したのだ~」

「すみません、ボクが勝手したばかりに…」

ぼんやりアライグマとかばんちゃんとのやりとりを見つめる。

ホッとしたようなガッカリしたような…

この気持ちなんなんだろう…


ねぇ、かばんちゃん。 私も“でんち”になっちゃったよ。でもちっとも“じゅうでんかんりょう”にならないよ。


私 もうかばんちゃんがそばに居ないと元気に走れないずっとずっと“じゅうでん”しなきゃダメな“でんち”になっちゃったからね。

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