できることとできないこと
けものフレンズ大好き
できることとできないこと
かばんちゃんがゴコクエリアに旅立ってから、唯一火を恐れないフレンズのヒグマちゃんが、そのまま博士と助手の専属料理人になりました。
しかしヒグマちゃんにハンターという本来の役目があります。
それにも拘わらず、2人の要求は高くなる一方で……。
「今度はどうだ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
博士と助手は無言で食べ続けます。
たいていこの2人は文句があると食べてる途中で言うので、ヒグマちゃんも今回は出来を確信しました。
しかし――。
「たいしたことありませんね」
「まだまだかばんの足元にも及ばないのです」
「全部食べたじゃないか!」
「それは出された物を残すのは失礼に当たるからです」
「黙って食べたのは、改善点が前回と持ったく同じだったからです。二度も同じことを言うのは面倒なのです」
「この……」
ヒグマちゃんはぎりぎりと歯ぎしりします。
わざわざハンターのお仕事を一旦中断してとしょかんまで来たというのに、これはあんまりでした。
「ああもうやってらんねえ! そんなに言うなら自分達で作れよ!」
「それが出来るならやってるのです」
「我々は本能的に火が扱えないので」
「だったらこっちの事情も考えろ!」
ついに堪忍袋の緒が切れたヒグマちゃんは、片付けもせずにそのままどこかへ行ってしまいました。
「博士……」
「そうですね、我々も考えないといけないかもしれません」
「どうしたんですかヒグマさん。いつもとしょかん行った後は不機嫌そうでしたけど、今日は今までで一番ひどいですよ」
「キンシコウには関係ない!」
ヒグマちゃんは気をかけてくれたキンシコウちゃんにそっぽを向きます。
「ふふ、ヒグマさんはだだっこですね」
「なんだとー!」
「そんなことより2人とも、セルリアンが出没したみたいですよ!」
ヒグマちゃんとキンシコウちゃんはその瞬間、表情を変えます。
「やっぱり私にはこっちの方が合ってるぜ!」
「ふふ、ヒグマさんたら」
「それじゃあ行きますよ!」
そうしてハンターとしての仕事が数日続きました。
その間、最近までほぼ毎日行っていたとしょかんに、ヒグマちゃんは一度も行きませんでした。
こうなるとキンシコウちゃんもリカオンちゃんも気になります。
「最近としょかんには行きませんね。何かあったんですか?」
「そうですよ。最近ハンターの仕事多いですけど、それでもあんまりいい感じじゃないです」
「う……実は……」
ヒグマちゃんも時間が経って頭が冷えたのか、行かなくなった理由を2人に説明しました。
「……というわけで、あの2人が文句ばっかり言うから、腹が立って行く気をなくしたんだ。長だからってなんでもしていいわけじゃないだろ」
「まあそれはそうですね。でもその後どうなったのか気になりません?」
「そうですよ。あの2人かしこいかも知れませんけど、中身子供じゃないですか」
ハンターのメンバーにも博士と助手はそのように思われていました。
「……まあお前達がそこまで言うなら」
実はヒグマちゃんも2人を放っておいたことが少し気がかりでした。
キンシコウちゃんとリカオンちゃんは苦笑します。
「なんだ、何か言いたいことでもあるのか!?」
『別に』
素知らぬ顔で2人はヒグマちゃんの後に続き、としょかんに向かいました。
「これは……」
「ひどいですね」
キンシコウちゃんとリカオンちゃんは、としょかんの周囲の惨状に絶句します。
地面には焼け焦げたあとがあり、完全に燃やし尽くされた木も。
としょかん本体は被害を免れているようですが、何かがあったのは明らかです。
ヒグマちゃんは何も言わず、急いでとしょかんに駆け込みました。
「博士、助手、無事か!?」
「なんです騒々しい」
「我々は静かな空間を好むのです」
幸いにも2人に怪我はありませんでした。
としょかんの中も、いつもと違いはありません。
ただ、2人の姿はいつもとはだいぶ違っていました。
「その姿……どうしたんだよ?」
「我々で料理を作ってみたのです」
「その勲章なのです」
博士も助手も
肉体労働をほとんどしようとしない2人には、滅多に見られない姿でした。
「でもお前ら火が使えないんじゃ……」
「我々は動物ではなくフレンズです」
「ならば本能も克服することが出来るはずです。今は資料からそのヒントを探していたのです」
そう答えましたが、外の惨状を見れば失敗し続けたことは明らかでした。
ヒグマちゃんはため息を吐きます。
後から来た2人も、無事な姿を見てほっと胸をなで下ろしました。
「あのさあ、なんでそう出来ないことを無理にしようとするんだよ。お前らかしこいのに」
「そのセリフそっくりそのままお前に返すのです」
「お前は料理を作るのがこれ以上無理だから、何も言わずここから出ていったのではないのですか?」
「え……」
ヒグマちゃんは言葉に詰まります。
「お前がハンターの仕事との両立に苦労しているのは理解しているのです。ですが何も言わない以上、我々は両立できていると思っていたのです」
「しかしお前にはどうやら無理だったようなのです。だったら我々がやるしかないのです」
「我々は無理なら無理とはっきり言うのです。でもやらざるをえなければ無理でもやるのです」
「我々はフレンズです。何かあったらまず話すのです」
「・・・・・・」
「ヒグマさん、言いたいことがあれば時には――ううん、なるべくはっきり言った方が良いと思いますよ。ちょっと言葉足らずなところがありますから」
「そうですよー」
博士と助手の言葉に、キンシコウちゃんもリカオンちゃんも頷きます。
ヒグマちゃんもこうなってはもう負けを認めざるをえません。
「……その、色々悪かったよ。2人がハンターの都合も考えずに、文句ばっかり言ってこき使うから腹立って。別に無理とかは関係ないんだ」
ヒグマちゃんは頭を下げます。
「良いのです。我々も少し言い過ぎたのです」
「これからは無理に時間を作らず、都合のいいときに来れば良いのです」
「我々は待っているので」
「料理は寝て待て――です」
「博士、助手……よし、じゃあ久しぶりに料理作るか!」
こうしてヒグマちゃんと博士と助手は仲直りをし、これからもヒグマちゃんは2人のために料理を作るのでした。
「……味が濃すぎるのです」
「ちょっと褒めたらこれなのです」
「お前らもちょっとは空気読めよ!」
おしまい
できることとできないこと けものフレンズ大好き @zvonimir1968
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