状態異常魔法は人気がない

kiki

1章 学生編

第1話 みじめな思い出

 九歳のとき、好きな子がいた。同級生で近所に住んでる女の子だ。

 その子の誕生日は休日だった。

 だから僕はプレゼントを何にしようかと考えた。貧乏なのでお金はない。

 そうだ。

 思い立って、近くの山に向かった。以前、崖に生えている一輪の小さな花のことを思い出したからだ。

 外はあいにくの雨。

 傘を手に持って、切り立った崖にたどり着く。上がろうとするが、急斜面でなかなか上がれない。傘を持っていたので片手は塞がっている。


「あっ」


 バランスを崩して、こけた。傘がコロコロと転がり、僕は地面に両手をついて高みにある花を見上げる。紫色の蝶のように広げた花びらが、崖の中頃に咲いていて、上からも下からも取れないところでじっとしていた。

 雨がやむ気配はなく、冷たい水滴がポツポツと頬に落ちる。

 どうせ取れないよ。諦めよう。でも……。

 女の子に花を渡したあとの笑顔を想像したら、不思議と力が湧き出た。

 よし。もう一回、やってみよう。


 何度失敗しただろうか。

 やっとの思いで花を手に入れたとき、上のシャツはずぶ濡れになっていた。足には、こけた際にできた切り傷があり、半ズボンのお尻は泥だらけ。靴の中も水が入り、靴下がビチャビチャだった。

 でも、やった! これあげたら喜ぶだろうな。

 傘を持ち、急いで彼女の家に向かう。着替えてもよかったが、はやる気持ちを抑えられなかった。

 ふふふ……。

 ニヤニヤが止まらない。たぶん今、僕を見ている人は気味悪がっているだろう。でも、そんなこと関係なかった。


 門をくぐったときに気づいた。誰か玄関に立っている。背中を向け、真後ろにいる僕には気づかない。

 あれは……同級生の男の子。

 僕より背が高く、運動もできる子だった。

 玄関のドアを開き、出迎えているのは僕の好きな女の子。彼女は笑顔で、彼と仲よさそうに会話をしているようだった。

 手に持つのは彼からプレゼントされたものだろう花束だ。透明なフィルムにラッピングされ、赤や黄色の色鮮やかな花びらが円を描くように咲いている。僕が今、持っている花とは比較にならないほど美しかった。

 僕は身動きできなかった。先ほどまでの高揚感はすでにない。

 先に僕の存在に気づいたのは彼女だった。傍にいた彼は少し遅れて後ろを振り返る。僕は手に持った小さな花をすぐにポケットに押し込んだ。 そして、逃げるように門を通り、走り去った。

 恥ずかしかった。

 あれほどきれいに見えた紫色の花が、無価値に思えた。

 何を舞い上がっていたのだろう。

 何を浮かれていたのだろう。

 バカなことをしてしまった。

 走ることをやめて立ち止まる。目の奥が痛み出し、悲しみが喉元までせり上がってくるのを耐えた。

 ポケットから花を取り出す。それを地面にためらいなく投げ捨てた。

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