16.
こほん、とヴィルヘルミーネが態とらしく咳払いをする。それからの彼女は今までの失態が嘘だったように事務的だった。成る程、厳しいだけではない騎士団長、それが売り出しらしい。
団長、とディートフリートがこちらを指し示す。
「珠希はコルネリアを借りる為に着いて来た」
「そうでしたか。あんなにドラゴンに怯えていた様子だったのに、何故ここにいるのかと疑問に思っていました。相棒召喚に巻き込まれたと言っておりましたね。ご安心を、珠希殿。貴方の事は我々が責任を持って守ります。カールハインツ!」
俺、と後輩騎士は目を白黒させている。どうしよう、安心も何も心配だけが降り積もっていくのだが。
「珠希殿をお護りしろ。貴方よりはコルネリア殿にいてもらった方が効率的だ」
「おう、さっきからあたしの存在価値ハードルがどんどん上がって行ってんな」
苦笑するコルネリアに対し、フェイロンが鼻を鳴らす。
「当然よ。貴様、これで使えぬ雑魚であれば明日の日の目を見る事は無いと思え」
「はん、あたしがグランディアにいる野良ドラゴン如きに遅れを取る訳がないだろ、ちょっと考えてものを言えよトゲトゲ!」
「トゲトゲ?俺のこの頭に着いている角の事を言っているのか」
睨み合う両者に対し、ダリルは素っ気なく首を振るとヴィルヘルミーネにこう言った。
「そっちの後輩くん?は、現場を学んで貰わないといけないし、珠希ちゃんの面倒はフェイロンとコルネリア、あと俺がちゃんと見とくよ」
「おや、大きく出たなあ、ダリル殿」
本当に大丈夫かね、とフェイロンは少しばかり険しい顔をしている。良い流れだ、このままイーヴァと一緒に待機という事にならないだろうか。
しかし、珠希の淡い期待は他の誰でもない、相棒コルネリアが打ち砕いた。
「フェイロン、お前本当に神経質だな。珠希だってただ無力って訳じゃ無いんだから大丈夫だって。こいつ、犬の召喚獣に思いっきり噛まれてたけど無傷だったぞ」
「犬とドラゴンじゃ猫と虎くらいの差があると思うけど……」
「ちょっと振り回した尾が当たったくらいじゃ、珠希は沈んだりしないだろ。大丈夫大丈夫!」
――お前が私の何を知ってるって言うんだ!!
心中で絶叫するが、知らない人が一杯居る所で自身の意見を主張出来ないのは悪いところだろう。
珠希の心中を察してくれたのは、ディートフリートだけだった。そっとやって来た彼はアニマルセラピーよろしく、肩にその無骨な手を置く。
「すまないな、私が手を貸して欲しいと言ったばかりに。お前の面倒は私がきちんと見よう。命にかえても」
「重ッ!!そ、そこまではしなくて良いです……」
作戦の概要を今度こそ説明してもいいですか、と申し訳無さそうにヴィルヘルミーネが言う。一先ず喧騒が止み、騎士団長へ視線が集まった。
「話しますね。まず、場所が狭いので不用意に魔法を撃つような真似は止めてください。私とディートフリートがドラゴンの羽を斬り落としますので、後は臨機応変にお願い致します。あまりにもドラゴンが強すぎて、討伐が困難である場合は外まで誘き出し、数で叩く事とします」
ヴィルヘルミーネの言葉を聞きつつ、ふと先程のコルネリアが言った言葉を思い出す。
――召喚獣の犬に噛まれた時?
あの時、彼女はまだその場にいなかったはずなのだが、何故そのトラブルを熟知しているのだろうか。どこかで見ていた?
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