二律背反のアンチテーゼ

七篠権兵衛

第1話 プロローグ


「はぁ.....はぁ.....」


吐く息が白い。

草木を手でかき分け、光に向かって進む。

溶けた雪が雫となって葉っぱの上で重力に流されるか否かの選択を迫られている。

かき分けた際の手と枝葉との接触で強制的に地面に落下させてやる。

雫たちの最後の抵抗とでもいうのだろうか。時折、何をするんだといわんばかりに俺の顔に弾きかえって、なんというか不快だ。


「眩しいな...」


光を求めて進んでいたくせに、突然に包まれた強烈な光明に目がくらみ右手で光源を隠すように眼前を覆う。

やがて目が光に慣れ、辺りを見渡す余裕も出てくると真っ先に眼下の巨大都市が目に入ってくる。

春先だというのに息が白くなるほどの気温。まだ冬季を抜けきっていない澄んだ空気と、所々まだ民家の屋根や地面に残った雪が太陽の光を受けて幻想的に輝いていた。

振り返れば先ほどまで手探りで進んでいた仄暗く鬱蒼と生い茂る大森林が口を開けている。

一時的に森を抜け、切り立った崖に立った俺は


「あと少しだ。」


と自分に言い聞かせるようにこの巨大都市に向けて進むことを決意する。



俺が今目指している都市、王都ルベライト。ここを首都に持つ「レインシュタット王国」。

この国を始め、三強国と呼ばれ世界の覇権を争う三つの大国が存在する。

「レインシュタット王国」は自由と平和に重きを置く穏健的な国だ。そういわれると聞こえはいいが、実際は貴族が政権を握っており、貧富の差も対極的で、貧しい者はとことん貧しく、貴族のような上層部の人間は贅沢に私腹を肥やしていると聞く。

穏健的というのも戦うことが苦手な臆病者が、話し合いや金銭的解決で争いを回避している体のいい言い訳なのだろう。

だがこの国には肥沃な土地が多く、農業や林業、更には漁業などあらゆる産業が盛んであり、資源も豊富なためGNPが高い。他国との貿易にもアドバンテージを持っているので、国自体はやはり豊かだ。

小国や他の三強国からもレインシュタットでうだつを上げてやろうと商いに来る人間も珍しくない。


「レインシュタット王国」とは対照的にパワーこそ力だと宣いかねないほどの軍事国家が「アレイガルド帝国」である。

異常なまでの実力主義で、国のブレインはほとんどが軍人上がりらしい。弱小国からの略奪や、敗戦国への横柄な不平等条約により国力を保っているなんとも前時代的な国だ。

しかし元来このような国風であったわけではなく、近年最年少で将軍となったとある人物と、アレイガルド帝国の元帥「ドグマチスト=ヘラー」という人物が多大に影響していると聞いたことがある。

この「ドグマチスト=ヘラー」という人物は黒い話の絶えない男で、禁断の呪術に手を出しただの、小国侵略時に町村の人間を丸ごと焼き払っただの物騒を極めている。

真相はわからないが火のないところに煙は立たない。極力関わり合いにはなりたくないものだ。


最後に「サウスマーン連合国」になるが、この国は連合と名の付くようにもともと小さな周辺国が寄せ集まってできた新興国だ。レインシュタットのように土地に恵まれているわけでも、アレイガルドのように軍事力に秀でているわけでもないが、とにかく国土がでかい。

二国に対抗するために奮起した国々が吸収に吸収を重ねて国土ばかり肥え太った、吹けば瓦解してしまうようなアンバランスな集合体なのである。

繰り返される戦争の中で統率力もなく生き残ってこれたのは圧倒的国民数を誇っていることが大きい。人海戦術による数の暴力で多くの犠牲を払いながらも今日に至るまで生き残ってこれたのはやはりそこなのだろう。



これらの国は魔法や兵器を駆使して長い間争っていたわけだが、2年ほど前「三国和平協定」が結ばれることになる。

きっかけは「魔物」の存在。戦争以前は人々が増えすぎた魔物を駆除することでバランスをとっていたのだが、戦争が始まると対人ばかりに目が行き魔物退治に手が回らなくなってしまった。

更に悪いことに魔物が狂暴化し、これまで滅多に起こりえなかった人家への襲撃が目に見えて多くなってしまった。

狂暴化の原因はまだわかっていないが、このままでは他国侵攻どころか魔物に自国を侵攻されかねないと悟った各国のお偉方は、間抜けにも慌てふためいて先の協定を結ぶに至ったのである。

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