ゲームの中のキタキツネ
ころなす
ゲームの中のキタキツネ
「キタキツネ、どこに行ったのー!」
ゆきやまちほーにある温泉宿にて、ギンギツネはキタキツネを探していた。
『ギンギツネ、ここはどこ?』
「ああもう、あなたまたゲームをしていたのね」
ゲームコーナーの方から聞こえるキタキツネの声に、ギンギツネはやれやれと肩をすくめてゲームの筐体に近づき画面を見ると、そこにはなぜかキタキツネの姿が映っていた。
「あなた、どうしてゲームの中にいるの?」
『ゲームの中? あれはゲームの中に入るコマンドだったんだ』
「また訳の分からないことを……。とにかく帰ってきなさい」
『無理だよ。こういうのはクリアしないと出られないんだって』
「何ですって? なら早くクリアすればいいじゃない」
『ゲームの中のボクが自分で動けるわけないでしょ。ギンギツネ、ボクを動かして』
「えー!」
『左の黒いレバーでボクを動かして、敵を見つけたら赤いボタンで攻撃して』
「く、黒いレバーね。わかったわ」
ギンギツネは筐体の前の椅子に座り、言われたとおりにレバーを動かした。すると本当に画面の中のキタキツネが動き始めた。
「おお、ほんとに動くのね」
『勝手に動いてなんだかボクの体じゃないみたい。らくちん……』
「ところでどれが敵なのかしら」
『あの青いセルリアンが敵だよ。ギンギツネ、ボクを近づけて』
「わかったわ」
『近づいたら赤いボタンだよ』
「こ、こうかしら」
ギンギツネがボタンを押すと、キタキツネの光をまとった拳が石を砕き、セルリアンが消滅した。
『ボクならもっとうまくできるのに』
「あなたほど慣れてないのよ! 敵を倒したからこれでクリアなのよね?」
『ちがうよー。強敵セルリアンを倒さないとクリアにならないんだよー』
「全く……。で、その強敵はどこにいるのかしら?」
『あっ、出てきた。でっかい……』
画面にはキタキツネくらいなら簡単にぺちゃんこにできる大きさの銅色のセルリアンが映っていた。頭部から生える六本の脚が、ずしんと大地を揺らしている。
「これが強敵セルリアン?」
『そうだよ。こいつはさっきのみたいに最初から石が狙えないから、まず足を狙って転ばせて……』
「足? いきなりそんなこと言われても」
『あっ。ギンギツネ、よけてよけて』
「えっ? あっ!」
『うわー』
二人が言い争っている間にセルリアンの足がキタキツネを薙ぎ払い、吹き飛ばしてしまった。
「あなた大丈夫?」
『大丈夫だよ。まだライフが2つ残ってるから』
「ライフって……。それがなくなったらどうなるのよ」
『ゲームオーバーになるよ。ギンギツネにもう会えなくなるかも……』
「そ、そんなの嫌よ!」
『ギンギツネ、ボクはパターンを知ってるから次は……そっちじゃないよー』
キタキツネの指示を無視して、ギンギツネは逃げるようにレバーを動かした。強敵セルリアンの姿がどんどん小さく、やがて見えなくなっていく……。
***
「ここまで来れば安全ね」
『ギンギツネ、どうして逃げたの』
「あなたを危険な目に合わせるわけにはいかないの!」
『でも倒さないとここから出られないんだよ』
「それはわかってる、わかってるのよ……でも……」
進むことができず、立ち止まっても解決しない問題に頭を抱えるギンギツネ。そんなとき外からフレンズの声がした。
「温泉に到着なのだー!」
「お邪魔しますよー。おや?」
「どうしよう……どうしよう……」
「ギンギツネ、どうしたのだ!」
「ああ、アライグマ、実は……」
ギンギツネはアライグマとフェネックに事情を説明するとアライグマは頷いて、
「これは危機なのだ! アライさんがゲーム? の中に入ってキタキツネを助けにいくのだ!」
「アライさんならそう言うと思ってたよー」
「ちょっと、ちょっと待ちなさいあなたたち」
「アライさーん、これをこうしたらゲームの中に入れるよー」
「よーし、アライさんにお任せなのだー!」
「いってらっしゃいー」
うろたえるギンギツネの横でアライグマはゲームの中に入っていった。
『えっ、誰か入ってきたよギンギツネ』
『アライさんが来たからもう大丈夫なのだ! フェネック、頼んだのだ!』
「はいよー」
いつの間にか青いセルリアンに囲まれていたキタキツネを、アライグマが撃退していく。筐体の前ではフェネックが恐ろしいボタン捌きを見せていた。そんなフェネックを見てギンギツネは尋ねた。
「あなた、このゲームやったことあるのかしら?」
「うーん、ないかなー」
「ならどうしてそんなにうまいの?」
「それはねー。わたしがアライさんのことを信頼しているからかなー」
「信頼?」
「それでねー、今アライさんがやりたいこと、どう動きたいのかがわかるのさ。わたしはその通りに動かしているだけなんだよー」
その言葉を聞いたギンギツネはハッとし、レバーを強く握り直した。
「どう動きたいか、感じる……。聞いて、キタキツネ!」
『うん』
「あなたのしたいようにさせてあげる、強敵セルリアンを倒しに行きましょう!」
***
一行が先ほどの場所まで戻ると、銅色のセルリアンが変わらず大地を揺らして動いていた。
『おおーさっきのやつよりもでっかいのだー!』
『ギンギツネ、今度はボクの言うこと聞いてくれる?』
「当たり前じゃない。さて、どうすればいいのかしら」
『えっと、アライグマは動きまわって攻撃を引き付けてカウンターではじき返して。そしたらダウンするからそのスキにボクが石を攻撃するよ』
「わかったわ」
『了解なのだ』
「はいよー」
フェネックに操られるアライグマはセルリアンの六本の脚をするりと抜けていく。そして振り下ろされる一撃に対応して華麗なボタン捌きでカウンターを決めると、セルリアンはバランスを崩して倒れこむ。
『今なのだ!』
『ギンギツネ。必殺技はレバーを下から右に動かして次に赤と緑のボタンを』
「こうかしら……ってできるわけないじゃないの!」
ギンギツネのめちゃくちゃな操作でも心は通じたのか、画面の中のキタキツネは高く飛び上がり、空中で向きを変えて一筋の光となりセルリアンの石を貫く。
そして筐体からゲームクリアのファンファーレが流れ始めて……。
***
「キタキツネ! よかった……!」
「ギンギツネ、くるしいよ」
ゲームから脱出したキタキツネをギンギツネは強く抱きしめる。
「ふっふー、今日もアライさんは大活躍だったのだ!」
「アライさんはいつもすごいねえー」
「よーし! 温泉に入るのだ!」
「アライさんについていくよー」
「ギンギツネ、ボクもお風呂入る」
「いいえ、今後のためにゲームの練習をしなくっちゃ」
湯気の向こうに吸い込まれていく二人の横で、キタキツネはゲームにかじりつくギンギツネの服の裾をぐいぐいと引っ張っている。
「ギンギツネーおーふーろー!」
ゲームの中のキタキツネ ころなす @kurnasu
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