特訓をしよう!

けものフレンズ大好き

特訓をしよう!

 黒セルリアンを倒してから数日。

 小さなセルリアンの被害はあるものの、パークは概ね平和です。

 そうなるとセルリアンハンター達にも余裕が出てきますが、そんなときこそ気を引き締めなければならないわけで……。


「特訓をしましょう」

 出し抜けにキンシコウちゃんがそんなことを言いました。

 ヒグマちゃんもリカオンちゃんも、呆気にとられています。

「えっと、どういうことだ?」

「今は大分時間的な余裕があります。だからこの時間を有効に活用してはどうか、という話ですよ」

「まあ分からないでもないか」

「そうですね」

 ヒグマちゃんもリカオンちゃんも、キンシコウちゃんの意見に概ね賛成でした。

「それじゃあどうする? いつもみたいに組み手をするぐらいなら、わざわざ特訓なんて言わないだろ」

「はい。実は私、以前の戦いで思うところがあったんです」

「以前って言うと、あの黒い溶岩のセルリアンのときか……」


 後にも先にも、あれほど苦戦したセルリアンはいません。

 なにより、自分達の力だけでは到底勝てませんでした。

 パーク全員の絆があってこその勝利です。


「でも訓練してとしても、あれと同じのが現れたら自分達だけで勝てるとは思えないですよ。別格のオーダー過ぎます」

「そうですね、どんなにがんばっても私達だけでは難しいでしょう。ただ、私が気になったの力不足という点ではなく、その内容です」

「内容?」

 鸚鵡返しにヒグマちゃんが聞きます。

「はい。あのセルリアンは海が弱点でしたが、海に入ってから、私達はそこまで役には立てませんでした。そこでこれからは、水の中で戦えるようにも訓練すべきかと」

「なるほど」

「一理ありますね」

「賛成してくれてよかった。実は事前にそのための講師を呼んでいたんです。少し待ってて下さいね」

 キンシコウちゃんはそのフレンズを呼びに行きます。


「それにしても相変わらず真面目だよなー」

「ひょっとしたら、最初に倒されたことに責任を感じてるかもしれないですね」

「まあでもあれは仕方ないだろ。それにアイツの真面目さに助かってたことだって、今まで何度もあるし。今回も――」


「連れてきました」


 キンシコウちゃんが連れてきた講師を見た瞬間、2人は言葉に詰まってしまいます

 なせなら――。


「わーい! ねえ何して遊ぶの?」


 ――講師とはカワウソちゃんだったのです。


「おおおお、お前! 他にアテはいなかったのか!?」

「はい?」

 ヒグマちゃんは思わず取り乱してしまいましたが、キンシコウちゃんは冷静そのものでした。

「いや、だってこいつだぞ! 一緒に戦ったとき何してたか見ただろ?」

「わーい」

「何をおいてそう言うのか分かりませんが、彼女は私が知る限り最も泳ぎが上手なフレンズですよ」

「それ以前の問題ですよ!」

 リカオンちゃんも当然のように抗議します。

 しかし真面目であまり他人を悪く思わないキンシコウちゃんは、平然と受け流しました。

「さあさあ訳の分からないことを言っていないで、早速始めますよ」

「おー!」


『不安だ……』


 いったいどんな特訓が始まるのか、2人には想像も付きませんでした。


 そして所は変わり日ノ出港――。


「とりあえず私はまあまあ泳げるが、お前らはどうだ?」

「私は駄目ですね」

「私もです」

「――という状況だがどうればいい?」

「うーん……」

 カワウソちゃんが眉間に皺を寄せ、考えているのかいないのかよく分からない顔をします。


「とりあえず入ろう!」


 カワウソちゃんはいきなり海に飛び込みます。

 仕方なく3人はそれに続きました。


「ここら辺はまだ足が届くから大丈夫ですね」

「こっから深いところ進めって言われたら、さすがにオーダーきついっすよ」

「お前ら大変だな……」


「それじゃああそこまで競走だ!」


『ええ!?』


 キンシコウちゃんとリカオンちゃんの話を完全に無視し、カワウソちゃんは目標を決めます。

「お前らはゆっくりでいいぞ」

 とりあえずヒグマちゃんはそう言い、すさまじスピードで泳いでいくカワウソちゃんになんとかついていきます。

「ど、どうしたらいいんですか!?」

「これはあれですね――」

 キンシコウちゃんは真面目な顔で言います。

「ハンターたるもの、いついかなる場合でも覚悟しておけ、ということでしょう。暢気そうな顔をしていて厳しい先生です。行きますよリカオン!」

「絶対何も考えてないだけだと思うんですけどぉ!」

 キンシコウちゃんとリカオンちゃんは、がんばって2人の後を追います。


 もちろんそれで上手くいくはずもありません。


「キンシコウ! リカオン!」

「あれ、新しい遊び?」

「普通に溺れてるんだバカ!」


 力尽きもがいている2人を、ヒグマちゃんとカワウソちゃんは急いで助けに行きます。


「っけほ! っけほ!」

「……無念です」

「そりゃいきなり泳げばこうなるだろ……」

「いいえ、私達の心構えが――」

「あのさー」

 カワウソちゃんは2人の話を強引に切り――

「私誰かに教えるのとか苦手だから、別の人に頼んだ方がいいんじゃない?」

 珍しくまともな意見を言いました。

「そ、そうだぞキンシコウ! フレンズには得意なことと苦手なことがあるんだ! お前の考え自体は間違っていないんだから、別の――」

「……そうですね。苦手なフレンズに無理矢理頼んだのが間違いだったもしれません」

「そうそう」

 ヒグマちゃんはほっとします。

「せっかくだから私が泳ぎが得意なフレンズ紹介するよ。仲良くなったんだー」

「ありがとうございます」

(こいつの知り合いならジャガーあたりだから、まあ大丈夫だろう)

 

 ヒグマちゃんはそう思っていましたが……。


「カワウソに頼まれて来たのだ! アライさんは泳ぎも教えるのも得意だから全部おまかせなのだ!」

「カワウソー!!!」

「それではよろしくおねがいします」

「お前もちょっとは他人を疑えー!!!」


                                  おしまい

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特訓をしよう! けものフレンズ大好き @zvonimir1968

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