民間ハローワーク

転ぶ

第1話手と手


民間ハローワークには今日も人が群がる。


完全歩合制。



…そして命がけ。


大学生の高田明訓は、今日も民間ハローワークの行列に並んでいる。


「明訓!」


彼女の黒木恵が明訓の背中にぴったりついていた。


「恵!お前何してるんだよ?」


「お前って言うな。」


「ご、ごめん。」


「許す、わたしも民間ハローワーク気になってたんだ。」


「女子は基本、民間ハローワークには出入りしないぜ。辞めとけよ。」







「わたし、普通女子とは違うもん!」


恵は、確かにジムで、体を鍛えているが…。


「そうだぜ!あんちゃんの言うこと聞いておいた方が良いぜお嬢ちゃん。」


後ろに並んでいた太った男が言った。


何回か一緒に仕事をした男だった。


「やだ!わたし、やるもん!」


と恵は言っている。



「ルール」



命は保障しません。


完全歩合制です。


契約一年間は働く事。



以後の契約を破った者には死刑に処する。


「ふーん。」


この契約書を見たら恵もあきらめると明訓は思っていた。


「やる!」


と腰を捻って明訓に顔を近づけた。


「無理だ。辞めろ。」


恵は、明訓の言葉を無視した。



結局、同じゴンドラに乗ってビルの窓を拭いている。


明訓は、高所恐怖症なので下を見ないで黙々と仕事していた。


「ひえー!高い。」


恵のテンションは高かった。


「兄ちゃんも大変だね。」


さっきのおっさんが恵を見てため息混じりに言った。



そこに強い風が吹いた。


命綱で明訓もおっさんもゴンドラから恵が落ちそうになっている。


「恵!」


明訓は、恵の手を掴んでいた。


「明訓!恐い!」


「大丈夫、落ち着け!今引っ張り上げてやる。」


しかし、おっさんは命綱をナイフで切った。


「仲良く御臨終は勘弁だぜ。」


「明訓も命綱切って!」


「は?何言ってるんだよ!」


しかし、明訓も恵を掴んでいる手が重くなっていた。


恵は、自分のポケットからナイフを出して


「明訓…。ごめんね。」



と言って命綱を自ら切って落下していった。


手と手が離れた瞬間まで恵の温度は明訓の手のひらに残っていた。

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