プロローグ


 かぁ、かぁ、かぁ。

 カラスの大群が空を横行っていく。鳥の中でもよく見かけるカラスだが、最近はよく見かけるな。

 高校の帰りであった青年はそんなことを考えながら、茜色に染まる空を見上げていた。そんな青年の横を数台のパトカーが大きなサイレンを流しながら通り過ぎて行く。

 そう言えば、最近変わったことと言えばもう1つ。村の中でとある事件が続発していた。そのせいで外出に規制がかかることもしばしばある。村中の巡回は強化されているものの一向に改善される気配はない。

 それもあって青年は父親から車で帰るように言われていたが、今日は歩いて帰りたい気分だったため黙って歩いて帰っている次第だ。

 夕日に向かって飛んでいくカラスの大群。

 しかし、ある時その大群の中の一羽が村の民家が密集する地帯に降り立った。

 胸騒ぎがする。

 青年は自身の思うがままにその方向に向かって走った。

 そして、そこで青年は驚くべき光景を目にする。

 民家の屋根の上に漆黒の羽を生やした青年姿の”人間ならざる者”の姿があったのだ。しかも、その者の片腕にはまだ幼いであろう少女が抱え込まれていた。

 なんなんだ、こいつは。

 しかし、青年が姿を確認したのと同時に人間ならざる者はすぐに空へと旅立った。

 幼い少女を抱えたまま。



 村中の子どもたちの謎の失踪。

 これこそが今村で起こっている事件だ。だが、その犯人は未だ特定されるどころか証拠も発見されていない。まさか神隠しではないのかという者までいる。それほど事態は進展を見せていなかった。

 だが、青年は今ので確信した。

 もし、犯人が”妖怪”だとしたら、説明は容易につく。



 そう、ここは御明灯村みあかしむら。妖怪の仕業と言っても何もおかしくない土地だ。

 青年は急ぎ足で家路につき、そして「九尾きゅうび」と書かれた表札がかかっていた大きな門をくぐった。



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