ジャパリパークに白いセルリアンが出現したようです

攻撃色@S二十三号

第1話

 火山の噴火による、サンドスター、そしてサンドスター・ロウの放出。

 サバンナちほーに降ったサンドスターのひとしずくが、どんな奇跡か、あるいは必然か。「かばん」が生まれ、そしてサーバルと出会い、二人と仲間が大海原の向こうへ旅立っていったのは記憶に新しい。


 その後の噴火で……


 フレンズたちからも忘れられていた、パークセントラルの一角にある遺跡。

 ヒトが残した「じむしつ」でも、飛来したサンドスターによって新たなフレンズ、いや……特異な存在が、生まれていた。


「やったあああ! やったお! ついにジャパリパークに来たんだお!」


 その物体、いや、いちおうはヒト、というかフレンズの形をしたその珍妙な、白いヒトガタは……廃墟にあったモニター。それが最後に画面に映していたモノにサンドスターが当たり実体化した……モノで、あった。


「これで俺もねんがんのフレンズになれたんだお! ウッシッシ。これでフレンズの可愛いケモノむすめたちとこれから毎日キャッキャウフフできるんだお! 生きててよかったお!」

 ひとり浮かれ、踊り、そして気味の悪い笑みをこぼしていたその白いヒトガタに。


パカァーン!!


 いい音を立てて、そいつの顔面に惚れ惚れするようなハイキックがクリーンヒットした。


「グブっ!! い、いきなりなにするんだお!?」

「色々落ち着けだろ。お前も俺も、フレンズじゃないだろ常識的に考えて……」

「えっ。そういうおまえは……」


 白いヒトガタは、もうひとりいた。こちらは、さっきのより背がいくぶん高いが、やはり全身が白く、そして……どちらも、フレンズでも、ヒトでもなかった。


「お前も、俺も。目玉がひとつだ。そして全身つるつる、キモイ。おまけに、どっちもヘソのあたりにイカニモ弱点な石。これはどう見ても」

「ま、まさか……俺……フレンズじゃなくてセルリアンなのかお……?」

「まさかも何も。どう見たってセルリアンだろ。まず女の子ボディじゃない時点でわかるだろ常識的に考えて」

「そん、そんなあ……ひどいお、あんまりだお……」


 白いセルリアンの片割れ、潰れまんじゅう頭のほうがさめざめと泣きながらガクリ、廃墟の床に崩れ落ちた。


「せっかくジャパリパークに来られたのに、フレンズにモテモテでキャッキャウフフだと思ってたのに……のけものはいないんじゃなかったのかお……」

「まあフレンズに見つかった途端に、悲鳴を上げて逃げられるだろ。そのあとハンターを呼ばれて、一撃で粉砕されて消滅だろうな」

「あ、あんまりだお……神も仏もたつきもないのかお……」


 さめざめ泣く白いセルリアンの肩らしき箇所を、片割れの白セルリアンの手らしきものがポンと叩いた。


「泣いて無駄にサンドスターをを漏洩させてるのもいいが。このままじゃあ、俺たちはじきに消滅しちまうぞ。ハンターにみつかるまでもなく、な」

「えっ? そ、そんな! さっき生まれたばっかりなのになんでもう消えるとか、そんな話になってるんだお??」

「俺たちセルリアンはサンドスターを吸収して、活動する生態だろ。だが……見たところこの周囲には……噴火で飛んできたサンドスターはほとんど、無いみたいだろ」

「え……そ、それじゃあ俺たち。このまま飢え死にかお……?」

「そうなるだろ、常識的に考えて。それを回避すしてこの先生きのこるには……」

「先生きのこるには……?」

「フレンズを襲って、彼女たちのサンドスターを奪う。それしかないだろ」

「な!!?? な、ななな……な……!」

 次の刹那。


パ!!パカァーン!!!!


 二体の白セルリアンの繰り出したハイキックが、同時に空中でぶつかり合い火花を散らしていた。


「ふざけんなお!! フレンズの子たちを襲うくらいだったらここで干からびて死んだほうがマシだお!」

「落ち着け!! 俺だってフレンズを襲いたくなんてないだろ常識的に考えて!!」

「じゃあ……どうしろっていうんだお……!?」

「今それを考えてんじゃねーか! というかお前も自分で考えろ!」


 実力が完全に伯仲していた二体は、決着の付かないバトルで体内のサンドスターを浪費したのち……二体して地面に這いつくばっていた。


「はあ、はあ……。フレンズたちが持っている輝きを、だ。彼女たちに被害をくわえないようにして吸収できればそれがベストだ。……だが、そんな都合のいい話ありえないだろ常識的に考えて……」

「うう、俺たち何のために生まれてきたんだお……」


 潰れまんじゅうのほうの白セルリアンは、トボトボと絶望の足取りで……

 廃墟からさまよいでて、その絶望の眼差しを外の世界に、澄み渡る青空と美しい世界に向けた。その、ひとつの目が……


「……。なあ、あっちの山は……」

「うん? ああ、雪山だな。あの山も火山で、雪をかぶってはいるが頂上には地熱発電のプラントと温泉施設があるだろ」

「雪……雪山……温泉……おんせん!?」


 ガタッ 白いセルリアンの身体から音が響いた。


「ひらめいたお!! 行こう! あの雪山の頂上、その温泉まで行くお!!」

「な、なんだよ急に。……温泉に何があるっていうんだ?」

「いいから。俺の中で燃えたぎるソウル、サンドスターの輝きを信じるんだお!」

「まあ、ここに居たってどん詰まりだが……。……おい、待てよ!早いよ!?」


 二体の白いヒトガタ・セルリアン。

 勢いよく駆け出した背の低い潰れまんじゅう、そして首をひねりながらその後を付けてゆく、背の高い白セルリアン。

 その二体は、遠く見える雪山めがけてバタバタと駆け出していった。



「ふはぁ~~~ん。温泉ってのはいいもんだねええ」

「そうだろうそうだろう。ライオンはこういうの、絶対好きだと思ってたんだ」

「ああ^~生き返りゅ~~~。今度ばっかりは、強引に誘ってくれたヘラジカに感謝しないとね~」

「気にするな。私たちの仲じゃないか。……それじゃあ」


 氷点下の空気の中、クリームのような湯気を燻らせている温泉の、豊かなお湯。

 そこから、湯気をその肌にまとわせるようにしながらヘラジカの裸身が、ヒトの若いオスが夢の中に見るような乳房とその下のしなやかな腹、丸く張りつめた腰が立ち上がった。


「感謝されついでに、ライオン。背中を流してやろう」

「ふえ。ああ、そうかー。毛皮、脱いでるもんねえ。じゃあ、じゃあ」


 ヘラジカに誘われ、今度はライオンも湯の中から立ち上がる。こちらも、豊かだがヘラジカの柔らかなそれと比べるといくぶん攻撃的な形の張り詰めたおっぱい。ライオンの手がそれを隠しながら、うっすら腹筋のういたお腹でお湯を割って進むと。


「あっ、待った!! 大将のお背中を流すのは俺だろ! ねっ、大将?」

「……騒がしいですわよ。ああ、でも……温泉って、お肌に良さそう……」


 褐色の肌に、鞭をねじったような筋肉を収めたオーロックス。金色の髪と、湯気よりも白い肌を存分にくつろがせているシロサイ。

 今日は、平原ちほーからの主従二組が、この温泉の客だった。


 彼女たちがくつろぐ、その温泉から少し離れた雪原。その白い荒野の中で……


「……ぐふっ、グフフ。輝きの吸収、大成功だお! もういっぱいだお!」

「……なるほどこの手があったか。これなら誰も傷つくことなく俺たちはフレンズの輝きを目で見て回収、しかもこの雪の中なら気づかれる心配もない、か。……しかし。常識を捨てるのもたまにはいいもんだな!」

「シッ、声がでかいお! ……ああ! 温泉サイコーだお! 」

「フレンズって、ジャパリパークって!最高だな!!」


                                 おしまい

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