よあけまえ

中村未来

よあけまえ

「はー、やっとついたよー」

「もうすっかり夜だね、サーバルちゃん」


 フレンズたちの協力でかばんを救い、巨大セルリアンを倒してから数日後、サーバルとかばんの二人はさばんなちほーへと戻ってきていた。歩き詰めだった二人は到着したことに安心してさばんなの平原に倒れこむ。


「ここに戻ってくると、かばんちゃんに会ったのが昨日のことみたいー」

「もしかしたらこれまでの旅はサーバルちゃんの夢だったのかもよ」

「えーっ!」


 揃って仰向けになると、空へと視線を向ける。遮るものが何もないその場所では大から小までの様々な星が瞬いていた。二人は星を眺めつつ呼吸を整える。


「右も左も分からなかったボク、あのときサーバルちゃんに会わなかったどうなってたんだろう」

「さばんなちほーのどこに居たって、わたしはきっとかばんちゃんを見つけたよ!」

「サーバルちゃんの自慢の耳ならどこでもボクの立てた音を聞きつけてたかも」

「それから、かばんちゃんと二人の旅が始まったんだよね」

「二人でたくさんのフレンドに会ったよね」

『カバン、ボクノコトモワスレナイデ』


 かばんとサーバルの会話に割って入る機械音声、その主はかばんの腕に巻いた黒いバンドだ。抑揚のない音声なのに妙に不満げな響きがそこには含まれていた。


「ごめんごめん、ラッキーさんもずっと一緒だったもんね」

「ボスもいっしょで三人だね!」


 カバンもサーバルもラッキービーストからの突然の一言に苦笑い。


「星空を眺めてて思ったんだけど」


 そう言って、かばんが不意に片手を空へと挙げる。


「あそこの星と、あそこ、それからあそこ……」


 挙げた手の指先で、空にある星の幾つかを指し示していく。サーバルも示される先を視線で追いかけた。


「結んでみると、サーバルちゃんみたいに見えるね」

「ほんとだー! すごーい!! ……あっ、あの星と、あの星と」


 少し視線を彷徨さまよわせてサーバルも同じように星を示し始める、今度はかばんがその先を追いかけた。


「あのほしっ! ほら、かばんちゃんみたいだよ!」

「サーバルちゃんもすごいね。あっ、あそこはラッキーさんみたい、もしかしたらほかのフレンズさんも居るかも」


 空のフレンズ探しを始める二人。カバさんにツチノコさん、トキさんにヒグマさん、指先で星をつないではたくさんのフレンズを見つけていく。その度に見つけたフレンズとのことを思い出しては会話に花が咲いた。


「そういえばかばんちゃん、あの星他と比べて明るいよね」

「たしかに、ひときわ強く光ってるように見えるね」

『アレハ「ホッキョセイ」ダネ。イツモ「キタ」ノホウガクニミエルカラ、ヨルノ「メジルシ」ニナルヨ』

「へー、ほっきょくせーって言うんだ!」


 北極星をまじまじと見つめるサーバル、その表情は何かを考えてるようだ。


「わかった!」

「うわぁ! 急に大きな声出さないでよ。な、何が分かったの?」

「あれ、かばんちゃんだよ!」


 突然、自分のことだと言われてぽかんとするかばん。流石のかばんでも、その言葉の意図はすぐにつかめなかった。


「えっ、どういうこと?」

「あの、ほっきょくせーが星のめじるしなら、かばんちゃんはわたしたちフレンズのめじるしだもん!」

「ボクがフレンズのめじるし?」


 勢いよく語るサーバル、その表情は生き生きとしている。


「かばんちゃんは沢山のフレンズにいろんなこと教えてくれたじゃない、だからほっきょくせーだよ!」

「そ、そんなことないよ。ボクは、ボクにできることをしてただけだよ」


 かばんは妙な照れくささを感じて頬をかく。同時にサーバルがそんなことを考えてたことに驚いていた。


「それを言ったら、サーバルちゃんこそ……ほっきょくせいだよ」

「わ、わたし!?」

「最初にボクの手を取って道を教えてくれたじゃない。その後もサーバルちゃんが一緒に道を歩いてくれたから、ボクが今ここに居られるんだよ」


 そして、かばんが少し考え込む。


「そっか」

「んにゃ? どうしたの、かばんちゃん」

「あのほっきょくせーはボクで、サーバルちゃんで、他のフレンズさんなんだよ。ほら、サーバルちゃん初めて会った時に言ってたよね、『フレンズによって得意なこと違うから』って」


 サーバルは真剣な表情になってかばんの言葉に耳を傾ける。かばんも自分の内に浮かぶ言葉を紡いでいく。


「ボクがヒトだって分かったのは、セルリアンを倒せたのは、フレンズさんたちそれぞれがほっきょくせいみたいに輝いてたから。その輝きが一つ一つの道を教えてくれたから、サーバルちゃんの言葉を聞いてそう思ったんだ」

「みんなほっきょくせーなんだね! すごーい!」

「あはは、そうだね」


 それからは二人とも静かに星の流れを眺めていたが、サーバルがふと顔を横に向けるとかばんはすうすうと寝息を立て始めていた。サーバルは眠るかばんの顔に自分の顔をそっと寄せると呟く。


「わたし、これからもかばんちゃんのほっきょくせーだよ。……ずっと一緒だよ」


 ぺろりと頬を舐めると、そのままかばんに寄り添うようにして目をつぶった。寝息だけになった二人の行く末を祝福するかのように、一つの星が尾を引いた。


「……たべちゃうぞぉ」

「んんっ、たべないでくださあい……」

『サーバル、タベチャダメ』


 夜明けは近い――

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よあけまえ 中村未来 @chicken_new39

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